戦いは終わり、彼らは賑やかに過ごす。
「……ふあぁ……。あー……おはよう」
「おう、もう夜の8時だけどな。飯作っといたから食って風呂入れ」
康太が目を覚ました。本当にグッスリ寝ていた。好奇心に負けて何度か頬をぷにぷにしてみたが、男子高校生の柔らかさでは無かった。
歓迎戦が始まったのは9時。そして終わったのは12時だ。昼飯時でも康太はずっと眠りこけていた。俺は適当にカップ麺で済ませた。
「ん、ありがとう。お昼食べてないからありがた……本格的ッ!?」
今日の献立はクッ○パッドを見て作った天ぷらやかき揚げだ。
「というかさ……料理、出来たの……?」
「おう、好きだぞ」
「全然そんなイメージ無かった……!」
「そうか? ほら、さっさと食え、冷めるだろ」
「う、うん……」
康太は俺の料理を恐る恐る口に運ぶ。
「え? 何これ食べたことないくらい美味しいよ!?」
「ははは、大げさだなお前」
普通に作っただけだし。
「……あのさ、家事ってどれくらい出来る?」
「家事か? ひと通り出来るぞ」
俺の実家では、家事は当番制になっていたのだ。親父は海外を飛び回るエリートで変態。母はパートで午前中などは家に居ない。
俺、姉、妹は交替制で家事をやって……いたはずなのだが、流石と言うべきか女尊男卑社会ニッポン、気がつけば俺が毎日家事をやっていた。
そのせいか、家事をやる能力は専業主夫と言っても差し支えなかろう。
その後、雑談をしながら料理を食べ終える。
「康太、風呂入ってこいよ。汗かいただろ」
「一番動いてたのは大輔じゃん。いいよ、先に入ってきて。ボクは見たい番組があるんだ」
「そうか。じゃあ先に頂くぜ」
俺は風呂に入り、考える。
「康太は本当に男なんだろうか……」
可愛い笑顔、ぷにぷにほっぺ、活発な性格。
美少女だと言われても信じるね、俺は。
「今度のイベント、宿泊オリエンテーションで一緒に風呂に入ればわかるだろ」
まあそこまで疑っているワケじゃないが。名前がもう男のそれだし。
風呂を上がり、腰にタオルを巻いて部屋に戻る。
「おう、次入れー」
「おー」
康太はテレビをそのままにして風呂場へ向かっていった。俺はクローゼットを開けて、そこで気づいた。
「俺……荷物全部隣に置いてきてんじゃん」
そう、あのランクD詐欺師、公崎悠人と幽ヶ峰葵の愛の巣の部屋は元々は俺と悠人の部屋だったのである。なんか流れで追い出されてしまったところを康太に保護されたのだ。
そう。つまりは俺のコレクションも、ゲーム機やらノートパソコンやらも全て向こうだ。
とりあえず制服を着用し、隣の部屋に突撃することにした。廊下に出て、隣の部屋の扉に手をかける。
俺は強くなった。何があろうとも…………。
「絶対に退きはしないッ!」
悠人が上半身を脱がされ、幽ヶ峰さんにベッドの上へ押し倒されていた。
「お邪魔しました……」
「待って! 待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 助けてええええええええ!」
大声で助けを求められた。そうあっては助けないわけにはいかない。何より、これで見捨てたら後で何をされるかわかったもんじゃない。
「……出て行って。……私と悠人はお楽しみ中」
「いやそういうわけにもいかねえって。やっぱ高校生でそういうのはダメだと思うな俺は。そういうのはもっと時間を重ねてだな……」
「……目的は……これ?」
そういって幽ヶ峰さんは部屋の一角を指さした。
そこには、ファスナーが開け放たれたバッグに入っている俺の全衣類と、紐で結ばれた俺のコレクションであった。更にノートパソコンやらゲーム機がダンボールに入っている。
「……。運ぶために少し出入りするが、いいか?」
「……問題ない。……邪魔をしないのなら、魔法も撃たない」
「撃つつもりだったのか!?」
「……邪魔をしたら、の話」
俺は悠人の顔を見つめて、言った。
「悪い、悠人……俺は……命が惜しい」
「僕は貞操が惜しいよ!」
「人の童貞より自分の命! というわけでどうぞお楽しみ下さい幽ヶ峰様」
「……苦しゅうない」
「僕の心が苦しいよ!」
友を見捨てる俺の心苦しさもわかって欲しい。
「第一、死んだって保健室送りになるだけじゃないか! 喧嘩に魔法を使って保健室に直行なんてよく聞いた話だろ!」
「いやまあ万が一、俺がお前を救出しようとしたとして、俺は魔力量が少ないから魔法に対する防御力も低いわけで。一瞬で詠唱出来るようなランクDの魔法でもランクSの魔導士候補生に撃たれりゃ一発で死ぬぞ。そうなるとどうなるかわかるよな?」
幽ヶ峰さんが頷く。
「……邪魔がなくなる。…………水よ切り裂け」
「お゛あ゛あ゛―っ!!」
反射的に顔を横に逸らす。すると頬に水の刃が少しだけ触れ、血がついと垂れた。
「……ちっ」
「ま、待て、話しあおう。俺は邪魔をしない。しないから五体満足で帰らせてくれ」
「……信用出来ない」
「いいか? これを向こうに運び出すということは、俺が正式に向こうの住人になるということだ」
「……つまり?」
「お前は気兼ねなくこの部屋で生活出来る」
幽ヶ峰さんは無言でサムズアップした。どうやら命拾いしたらしい。
「というわけでどうぞごゆるりと……」
「待って! いや待て! 助けあうのが友達だろ!?」
「会ってまだ数日と経ってねえ!」
「それはそうだけども! いいじゃん助けてくれたって!」
「それは遠回しに俺に死ねって言ってるのか!? というかお前不可視化魔法ぐらい使えるだろ!」
「その手があったか!」
「……させると思う?」
幽ヶ峰さんは悠人の口を手で塞いだ。
「もがー! もがー!」
「その手があったかー……」
口が使えなければ詠唱も出来ない。例外はあるが。
「というか幽ヶ峰さんはなんでそんなに悠人に襲いかかってるんだよ?」
「……確認したいことがある」
「もがー! もがー!」
「ほう、何をだ? 二人の愛をか?」
「……違う。……体脂肪率」
「なんで!?」
「料理のカロリーを考慮しなければならない」
俺は思い出す。彼女の絶望的料理センスを。
「えーと、幽ヶ峰さんが作ってるのか?」
「……作りたいけど、昨日から作らせてくれない」
「へえ、それで?」
「……今日、料理を作ろうとすると悠人が止めに来た。……だからまず縄で腕を縛った」
「なんで!?」
前提からもうおかしい。なんで縛ったんだ。
「……そして作る料理のカロリーを決定するために体脂肪率を調べようと思った。……そこであなたが来た」
「そうか……邪魔して悪かったな。風よ物体を包め」
俺は物体に魔法を詠唱、物体を軽くし、ダンボール、エロ同人、衣服類をまとめて抱え、悠人の部屋を後にした。
「はっ、薄情もの───────っ! ってああ、待って、下半身は脱がさなくてもいいでしょおおおおおおおお!?」
「……ここは学術的興味がある」
「大輔の持ってた本を見せてもらえばいいじゃないかあ!」
「……なるほど。……それは合理的判断」
……俺に飛び火していた。絶対に死守しなければならない。
部屋に戻り、数時間を過ごしてから眠りについた。
そして後日。
登校したら、教室で悠人がクラスメイトに囲まれていた。
「あー……忘れてたー……」
と渦中の彼は呟いた。
ナンダコレ。
遠くから聞き耳を立ててみることにする。
「公崎くんは本当に強かったんだね! まさかあの大仏を倒してしまうなんて!」
と松田。
「その後、周りの魔物が恐れをなして消えていったんですぞ!」
と時野。
「ふん、なかなかやるじゃないの」
と隣のクラスの赤髪のランクS。えーと……そう、ミオとかいう名前だったか。
というか状況がよくわからない。なんで悠人は賞賛を浴びているのだろうか。
一緒に登校してきた康太に「何があったか知ってるか?」と聞いてみると、康太は首を横に振った。
「本人に聞こうにもあれじゃあ近付けんな……」
爽やか系イケメンである悠人は女子にも大人気のようだ。ミーハーな女子は彼の傍に群がっている。俺はああいうのはあまり好きではない。
「まあ大方、大仏を倒して人気者になってるんだろ。強さと名誉は比例するからな」
「なんだかトゲのある言い方だね?」
「強い人間に群がるのが嫌いなだけだ」
自分が酷く惨めに見えるから。
「結局、大輔がやったことって皆ほんとに知らないんだね……」
「裏方なんかそんなもんだろ。目立ったら裏じゃなくなるしな」
「でも……なんだか気に入らないな」
「あんまり気にすんなよ。どうせすぐ冷める」
「うん……」
結局、その日は一日中、悠人の話題で持ち切りだった。
無理もない。一年生で、それもランクDがランクAの魔物を倒したのだから。
そういえば神帯先生も倒しに行くと言っていたから、恐らく協力して戦ったのだろう。
「むー……」
その日、康太は学校にいる間、ずっと機嫌が悪かったのであった。




