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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
騒乱の夏休み
144/207

夜の帳の中で 2

      〜〜〜〜〜公崎悠人の場合〜〜〜〜〜



 魔導車は高速で飛び続ける。

 西部へはもう目と鼻の先だ。

「…………む」

 須崎先生が小さく声を上げた。

「どうしたんですか?」

「こちらに近付いてくる反応がある。ここらで停めるぞ」

 そう言うと、車はその場で停まった。そう、空中で。

「よし、降りろ。敵は人の形をしているかもしれんが魔物(ガルナ)だ。くれぐれも注意しろ」

 降りろと言われても、と思いながら視線を彷徨わせていると、バックドアが開いた。……ここから飛び降りろってことなのだろうか。



「行きますよ」

 慣れたように佐村先輩が降り、潜堂先輩と会長が続いて降りた。

「公崎」

 僕も降りようとしたところで、須崎先生が僕に声をかけた。

「なんです?」

「くれぐれも気を付けるように」

 そう凛とした表情で言ったかと思うと。

「お前に何かあったら、鹿沼のやつに何を言われるかわかったものではないからな」

 表情を崩し、困ったような笑顔で言った。

「……はい!」

 僕は須崎先生に背を向けて、車を降りる。



 着地すると、佐村先輩が携帯を見ていた。

「近くに反応が1つと、離れた場所にもう2つ反応がありますね」

「せやったら、近い方から潰していこか」

「んで、場所はわかってんのかヨ?」

 僕も気になって携帯を見てみる。僕らがいる周囲の地図に赤い丸が表示されている。この範囲内のどこかにいるということなのだろう。

「もう少し近付かれれば、僕も感知できるんですけど」

「あン? テメェは感知タイプなのかヨ?」

「いえ、彼は魔力(エナ)が異様に多いので、無理矢理感知しているのでしょう。本来は繊細な魔力(エナ)コントロール能力やら発達した感受性が必要なんですが……多分彼は魔力(エナ)の多さでゴリ押ししてるんでしょうね」



「バケモンかよ……」

 ひ、酷い言われようだ……。

 しかし、この街……深夜なのもあってか僕らの足音以外なんの音もしない。なんだか不気味だ。

「……!」

 魔物(ガルナ)特有の魔力(エナ)を感じる……! 感知範囲に入ってきたみたいだ!

「います、4時の方向!」

「どう動いてます?」

「こちらの様子を伺っているのか、大きな動きは……いえ、こっちに来ました!」

 魔力(エナ)がどんどん近付いてくる! いや、これは……!



 僕は咄嗟に指を鳴らした。

 瞬間、僕ら一行を光の半球状の膜が包む。

「これは……!」

 佐村先輩が声を上げた瞬間、眼前のビルに穴が空く。

 閃光が僕らを襲う。

「ビームかなんかかァ!?」

魔力(エナ)を飛ばしてきてます!」

 しかし、僕が事前に張った防御障壁によってこちらにダメージはない。

 行動詠唱。僕が密かに鍛えていたものだ。

 指を鳴らす、息を深く吐く、手を高く掲げる……自分の動作をトリガーにして、かつその動作の際に魔力(エナ)を注ぎ込むことで、口頭の詠唱をせずに魔法を発動させる、というもの。

 要は、パソコンのショートカットキーに動きを登録するようなもの。



 僕は前提として禁呪を詠唱しなければ魔法が使えない。禁呪は自分の魔力(エナ)だけで魔法を発動するのに必要な、言わばリミッター解除。

 しかし、これではどうしても詠唱が長くなってしまう。咄嗟に魔法が使えないのは弱点だ。

 どれだけ早口を練習しても舌を噛んで痛かっただけだし。

 そこで、行動詠唱と思考詠唱を試してみることにした。

 そもそも、口頭での魔法語詠唱は魔法発動への道筋を立てるためにある。周囲の魔力(エナ)や空気中の魔素(マナ)に、自分がどのように現実に影響を及ぼすかを示すためにある。

 それを行わない分、消費魔力(エナ)がとてつもなく大きいのだ。

 シエルちゃんは平然と思考詠唱をするから、とんでもない魔力(エナ)保有量なんだと思うけど、僕だって魔力(エナ)は多い。なら、もしかしたら僕にも出来るかもしれないと思ったのだ。

 思考詠唱のコツをシエルちゃんに聞いてみたけど、やってみたら出来ただけだと言われてしまったので、自分で模索し始めた。

 結果、思考詠唱はできなかったけれど……行動詠唱として、指を鳴らす行為に禁呪を落とし込むことに成功した。ただし、比較的詠唱の短い防御魔法だけだけどね。



「来るで!」

 大きな風穴の空いたビルから、何かがゆっくりと近付いてくる。魔力(エナ)でわかる。魔物(ガルナ)……いや、半魔(ナルクス)だ。

「おい公崎、テメェは見てろ」

「え、……と言いますと?」

「お前にあたしらの手の内を明かしてやろうって思ってナァ。お前の戦い方は映像とか見て分かってっケド、お前はあたしらがどうやって戦ってるか知らねーだろ」

「確かに、そうですね」

 そうこう話している内に、半魔(ナルクス)がその姿を現した。



 人の面影を残した、巨大な、四足の獣。

 ブリッジをしている人のような、化け物。

 手足は細長く、よく見れば人の物であるとわかる。

 胴体は肥大化して、細い手足で支えられているのが不思議なくらいだ。

 そして頭は逆向きであるはずなのに、顔のパーツは上下逆になっている。つまり、ブリッジをしている体勢なので頭が下、顎が上に来ているはずなのに顎の方に目、頭の方に口があるのだ。

 目は虚ろで、左右別々の動きをしている。

 口は縦に開いていて、何かをずっと呟いているようだ。

「まさか結界の中であんなもんを見ることになるたぁナ!」

「ええ、まったくです」

「なんで平気なん? え? めっちゃキモない? 無理なんやけど……?」

 潜堂先輩が本気で引いている……。



「ちょっとウチ無理やさかい、2人でどうにかしたって……」

「し、紫音!?」

「ゴキブリとかと同じ反応してやがんナ……」

「いやー! 名前も聞きたない! 言わんとって!」

 ……き、緊張感ないなあ……。

「まあなんとかしますか。会長が戦うの、久々では?」

「いつもはお前らがなんとかしちまうしナァ。ま、手の内見せるっつったし丁度いいだろ」

 会長はそう言いながら、魔導武装を顕現させた。

「んじゃ……行くぜ、星雲」

 それは、1本のナイフだ。装飾も何も無い。

「それではオレも。……雲影」

 こちらは鞘に収まっている日本刀だ。



「────────────────!」

 半魔(ナルクス)は声を上げた。

「さて……行くぞ佐村ァ!」

「はい、会長!」

 2人は半魔(ナルクス)との距離を縮めてゆく。

「──────!」

 半魔(ナルクス)の口に魔力(エナ)が溜まっていく。さっきと同じ攻撃をしようってことか……!

「やらせっかヨ!」

 会長はその場で立ち止まる。

 そして、詠唱を始めた。

煌めき(ラスタル)蠢け(ファヴェス)

 詠唱が始まった瞬間、会長の足元には魔法陣が、そして周囲には輝く何かが現れ始めた。それらは大きさも色も異なり、銀河のような形状のもの、星雲のようなものまで見えた。まるで、なんかじゃない。宇宙そのものだ。

 そして、会長を中心にして12の大きな惑星が現れた。

 あれらは魔力(エナ)が形作る幻影。僕らが魔法を詠唱する時に現れる魔法陣のようなもの。あの宇宙もまた、魔法陣の一部なんだ。

蟲星(キブラスタ)ッ!」



 会長の周りを回っていた惑星のうちの1つが、輝いて砕けたかと思うと、無数の小さな蟲に変貌した。

「いやー! いやー! ほんま無理! なんでそんなことすんの!?」

 潜堂先輩がガチめの悲鳴を上げる!

 蟲たちは半魔(ナルクス)の口に入ったかと思うと……それぞれの身体とは見合わない規模の大きな爆発を起こした。

「────────!」

 魔力(エナ)を溜めていた器官が破損し、行き場のなくなった魔力(エナ)が体内で暴発し、半魔(ナルクス)はよろめく。

「佐村ァ!」

「わかってます! …………そこッ!」

 佐村先輩は納刀したままの刀を構え……一閃した。

 半魔(ナルクス)はその場に倒れ、その身体を覆っていた魔物(ガルナ)魔力(エナ)が空気中に霧散していく。残ったのは、仰向けになって倒れている男の死体だけだった。



「まあ、こんな感じだ。あたしのは煌星魔法っつってな。異世界の星がモデルになってるんだとヨ」

「オレは身体強化魔法をよく使います。簡単な魔法しか使いませんから、詠唱は省いてます」

 会長はだいぶ特殊な魔法を使っているのに対し、佐村先輩は1年生で習う魔法を使っているらしい。

「これで連携が取れるナ!」

「無茶では?」

「残りの11の星を見せてへんやん」

「うぐ……まあそれはおいおいな、おいおい」

 11種類の魔法、か……。

「あ、ちなみにやけど」

 潜堂先輩が扇子を顕現させた。そんな魔導武装まであるのか……。



「ウチはこういうことできます。せやなあ……会長、ナイフ投げて」

「ほらヨ」

 会長が空中へ向けてナイフを投げる。

時よ(メルタル)止まれ(フォスタオル)

 ナイフが止まった。

時よ(メルタル)加速せよ(ラスキオル)

 ナイフはゆっくりと進み始める。

時よ(メルタル)減速せよ(クロゥブン)

 最後に、ナイフは凄まじい速度で飛んで行った。

 加速の詠唱で減速して、減速の詠唱で加速したのは一体……?

「ウチが操ってんのは物体やのうて、物体の周りの時間そのものなんよ。時間そのものが早なったらそん中のモンは時間に比べて遅なるし、時間そのものが遅なったらそん中のモンは早なるんや」



 時間操作の魔法……。煌星魔法よりレアなのでは……。

「ああせや、忘れるとこやった。時よ(メルタル)戻れ(ベアルトル)

 ナイフが、逆再生されたように会長の手元に戻ってきた。

「あーしんど。魔力(エナ)使いすぎたわぁ。斑鳩ー、おんぶ」

「え、いっつも数十発は撃って……はぁ、わかりましたよ。ほら」

「やったー」

 え……? この状況で……?

「あの、向こうにまだ2体の半魔(ナルクス)が残ってるんですけど……?」

「気にすんナ、あいつら年がら年中あんなん」



 呆れたように会長は言った。

 ……僕らは、緊張感ゼロで半魔(ナルクス)の元へ歩き始めた。



      〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜



「……!」

 なんかすげえ魔力(エナ)が4つ、こっちに近付いて来てやがる……!

「余所見している余裕があるのかッ!」

「うわーッ! あっぶねェーッ!」

 目の前をチェーンソーが掠めた。ほんとデタラメな射程距離だ!

「さあて……どうすっかなー……」

 このままここでこいつと戦ってても埒が明かない。こっちは近寄れねえし向こうはあの場から動きやしねえ。遠距離攻撃はねえしなあ……。

 そもそも、近付いてきてるあの4つの魔力(エナ)がわかんねえんだよな。いや……わかるわ。1個だけとんでもなくでけえ。あれ悠人だな。



 となると……生徒会とかってことか? でも生徒会どころか普通の人間は半魔(ナルクス)の居場所がわからんはずだしなあ……。

 ただ、感じる気配から魔物(ガルナ)のそれは感じない。完全に人間たちだ。生徒会かプロの魔導士か……そんで悠人がいるから生徒会、ってとこか。

 …………もしそうだとしたら、俺、ヤバくね?

 もしも生徒会が半魔(ナルクス)の位置を把握できる何かしらを手に入れていたとしたら、俺の反応とかもバレてんじゃねえの?

 いやー……考えたくねえけど……リスクはむしろ率先して考えとかないと後で困るんだよなー……。



 こんなこと考えてる間も俺は迫り来るチェーンソー回避してるし……どうすっかなー。

 …………………………逃げるか!

 というかさっきから気になるのが、アイツは一切近づいてくる魔力(エナ)に反応を示していないところだ。わかった上で俺と戦ってんのか、俺と同じように投げる魂胆なのか……。

「よし、埒が明かんから俺は帰る! じゃーな!」

 俺は眼前に迫ったチェーンソーを蒼空で弾いて、そう叫んでから跳躍した。

「なに!? 逃がすかこのっ……!」

 まあそら驚くわな。だがその隙が欲しかったんだぜ!

捕らえよ(カフトーラ)!」

 奴が攻撃の手を止めたところに、魔力(エナ)で生成されたロープが飛ぶ。



「んなッ……き、貴様ァ!」

 芋虫のようになった敵を他所目に、俺は脱兎のごとく逃げ出した。

 あとは任せた、悠人と愉快な仲間たち。

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