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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
騒乱の夏休み
135/208

動く、思惑。

      〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜



「お土産買ってきました」

「ましたー」

 俺はプールに遊びに行った後日、俺は八ヶ代さんちに遊びに行っていた。常連感がある。

 伊乃さんと俺は机に座って談笑しており、シエルと次女の美姫ちゃん、三女の日奈ちゃんはテレビの前に座ってアニメを見ている。

 お土産の入った袋を渡す。中身は浮き輪を使っているイルカのぬいぐるみだ。

「ふふ、プールに行ってきたんだっけ?」

「そうっす。友人が団体無料チケット当てましてね」

 俺がそう言うと、話を聞いていたらしい日奈ちゃんが声を上げる。

「ぷーる!」

 わあかわいい。



「この子たちもプールの授業が始まってるから」

「いいっすね。ウチは夏休み空けてからっすよ」

「随分とシーズン外れなのねぇ」

「室内プールなんスよ」

「なるほどねぇ」

 エルゼラシュルドはとにかくお金が掛かっている。

 しかも国立なのだ。税金で運営されているのだな。

「伊乃さんはプールとかは?」

「高校生の時に入ったぐらいかも」

「んじゃ、また行きましょうよ。美姫ちゃんと日奈ちゃんも連れて」

 なんて自然なデートのお誘いなのだろうと俺は俺に感心した。



「ええ、そうね」

 はい勝ちー(相手が誘いに乗ってくれたため)。

「エリオットくんとエミリアちゃん、あと葵ちゃんも連れてきて欲しいなぁって」

「? どうしてです?」

 というかナチュラルな名前呼びだ。これが年上か……ッ!

「特に大輔くんってエリオットくんと仲、いいのよね?」

「……ええ、まあ」

 雲行きが怪しくなってきてないか?

「……腐腐(ふふ)、楽しみだわ」

 ダメみたいですね。



「そういえば……」

 慌てて話題を逸らすことにした。

「あの写真は?」

 飾られている家族写真らしきもの。

「ああ……うち、もう両親離婚しちゃったから」

「あ、すんません……」

 二度とプライベートに口突っ込むな俺。馬鹿。

「いいのよ、ロクデナシだったから」

「しかし……なんだかなあ」

 恐らく、母親だと思しき人。

 なんだか……見覚えがある、気がする。会ったことは、ないはずなのに。



「さあ、お昼ご飯作っちゃいましょうか」

「……ああ、はい。手伝いますよ」

 違和感を胸の奥に押し込めて、俺はキッチンに向かった。



      〜〜〜〜〜公崎悠人の場合〜〜〜〜〜



「……ヨォ、来たな」

 生徒会室。そこに僕は足を運んでいた。

「あー、悪いんですけどね、次は任務に同行してもらいます。如何なる理由があろうともね」

「はあ、まあ当然だと思います」

 むしろ前回許可が出たのがおかしかったと思う。

「ランクSSを持ち上げといて出さへんのかいって上に怒られてもうたんよぉ」



 しゃーない人らやわぁ、と潜堂先輩が言う。いや、協会の方が正論だと思うんだけど……。

「アルカニリオスの王女様とのお付き合いも大事ですが、しかし今は天真のトーレスの逮捕に力を貸して欲しい、というわけです」

「僕もそうしたいです」

 大輔のことも気がかりだ。今のところ、大輔に直接の被害が及んでいるようには見えないけれど……用心はするに越したことがない。

「居場所はわかるんだろ?」

「それが、だいぶ離れた場所に移動したみたいで……近辺に柱は見えなくなりました」



 トーレスに付与したマーキング。それは悠人にしか見えない光の柱となって敵の居場所を示すものだ。

「まぁ確かに、沖ノ鳥島はバカデケェ島だからナ。南部エリアから撤退してる可能性は充分にあるって訳だ」

「ええ。しかし……恐らく戻ってくるはずです」

「へぇ? 根拠とかはあるん? ……いや、皮肉とかやなく」

「奴は……その、僕の親友と一度接触しているらしく……どうも僕の親友はトーレスが魔物(ガルナ)を使って殺人を行っていることを知っている、らしいんです」



「…………鹿沼くんですね?」

「はい。生かしたままにしているとは思えません」

 僕がトーレスに接近した時、奴は妙なことを言っていた。恐らく、僕が大輔から話を聞いていたのだと勘違いしたのだろう。

「じゃあ、そいつを守ってりゃいいんじゃねえノ」

「ええ。奴は魔物(ガルナ)を使役してるわけですからね。本人ではなく魔物(ガルナ)半魔(ナルクス)が襲いに来る可能性は高いでしょう」

「せやったら、男子寮に人を回すことも考えた方がええね?」

「そうですね」

 ……よし、これで大輔の身の安全は確保できたはずだ。



「それで、次はどうするんです?」

「あたしたちの活動許可区域は南部だけだからナ、こっちに戻ってくるまではなにも出来ねぇ」

「待機、ですか」

 歯がゆい。こうしている間にも半魔(ナルクス)が増えているかもしれない。

「そろそろ結界内殺人も隠されへんで。今までの犠牲者はみんな結界の外……海で死んでたいうことになってるけども」

「ええ、立て続けに2件ですからね。半魔(ナルクス)の存在を隠しているのは裏目に出るかもしれません」

「あ? なんでだ?」



 話を聞いていた会長が声を上げる。確かに、公表しようがしまいがパニックの1つや2つは起きそうなものだけれど……。

「それに、公表しちまったら魔導士の反対派が動く理由になるだろうがヨ。あたし達に税金使うなってナ」

「そんなものは無視すればいいんです。協会の張っている結界を消した上であなた達を守らなくなるだけだと脅せばいいですからね」

「問題はそこやないんやろ?」

「ええ。完璧な魔物(ガルナ)は間違いなくこの結界内では存在できませんが……半魔(ナルクス)は違う。また、半魔(ナルクス)は名の通り半分が人間、半分が魔物(ガルナ)というもの。つまり……」



 斑鳩さんは一拍置いて言う。

「あの日に戦った半魔(ナルクス)は知性がありました。故に、人間の社会の中に半魔(ナルクス)が紛れ込む恐れがある、ということです」

「……それ、防ぎようはあんのかヨ?」

「ええ。今レナウセムのナドバルカ帝国から半魔(ナルクス)を見分ける魔導具を取り寄せています。アルカニリオスはここ数十年以上半魔(ナルクス)の被害がありませんから、そちらの方面の技術に弱いんですよね」

 ナドバルカ帝国? 聞いたことがあるような……。そうだ、アメリカと同じ座標上にあるレナウセムの国家だったな。

「魔導士協会はそれが届き次第、公表する方向のようです。つまり、半魔(ナルクス)という存在を明示した上でそれを防ぐこともできると発表すれば生まれる不信感も小さいだろう、ということですね」



「今は秘密裏に動くしかない、と?」

「せやねぇ。とは言うても、トーレスが戻ってこんことにはどうしょうもないんやけど」

「それまではどうすれば?」

「さっき出た話の通り、大輔くんを守る方向でいいでしょう。トーレスが半魔(ナルクス)を使役するなら……大輔くんの周囲で動きがあった時、トーレス側にも動きがある可能性が高いですからね」

「……話は決まったかヨ? なら、それでやるぞ」

 そうして僕たちは、男子学生寮の付近で待機することになった。

 僕がトーレスに接近したことで、大輔の身を危険に晒してしまった。なら……始末をつけるべきだ。

 僕が全部……なんとかしてやる!



      〜〜〜〜〜???〜〜〜〜〜



 沖ノ鳥島、上空。

 そこは、ユニオンが所有する飛行船の一室。表向きは企業の宣伝用のモノなのだが、企業自体がユニオンの隠れ蓑の1つなのである。

「あーあッ。跡ついちゃったなーッ」

 天真のトーレスは、接合された腕を見てボヤく。

 その両脇には、両親の姿がある。

「あら、ブラディアの治癒に不満があるのかしら」

 そこへ現れたのは、齢40にもなる女性だ。しかし、その肉体からは年齢を感じさせない。少なくとも30代程度にしか見えないだろう。

 女の名は、教唆のシトリー。天真のトーレスを含む一派の元締めである。

「死んで回復したいんだけどさッ、逮捕詠唱されてるから無理なんだよねーッ!」



「あらまあ、それは不憫なことね。で、目撃者はちゃんと消しておいたの?」

「まだーッ!」

「ちゃんと後片付けはしなさいって何度も言ってるでしょう?」

「そうなんだけどなーッ、ヤカシロ? って奴らはもう死んだかなッ? それだったらあっちのを動かすんだけどなーッ」

「今やりなさいな。親の片方でも飛ばせばいいじゃない」

 シトリーが優しく叱るような声音で言うと、トーレスは少しだけ考えて、口を開く。



「じゃあパパに頼もうかなッ! ママより強いしッ!」

「ああ、父さんに任せなさい」

 トーレスの父は頷くと、歩いてその部屋を去っていった。

「いつも思うけど、自我があるのねえ」

「ベースは人間だからねッ。負晶刀(ランヴラバル)で自我を持ったケースは父さんと母さんが初めてなんだけどッ」

「不思議なもんねえ……アレ、殺意だけ増幅するモノでしょう?」

「ま、わかんないならわかんないでいいんだけどねッ! 便利なことには変わりないしッ!」



 言いながら、トーレスは歩きだし、部屋の出口へと向かう。

「しばらく僕は客を取らないことにするよッ。グラーダとリムレスによろしく言っといてッ」

「あら、あなたはどうするつもり?」

「パパがしくじった時のために、近くにいようかなってねッ!」

「捕まっても知らないわよ?」

「あんなのに捕まるわけないじゃんッ! じゃ、行ってくるねッ!」

 そう言って、トーレスは元気に部屋から出ていった。



 残されたシトリーは大きなため息をつく。

「まったく……面倒な部下をあてがってくれたわねえ」

 本土にある本部への不満を漏らしながら、シトリーは自室に戻るのだった。

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