知性ある邂逅
〜〜〜〜〜生徒会の場合〜〜〜〜〜
生徒会メンバー達は、夜の街を歩いていた。総勢にして20人。その先頭を歩くのは生徒会長である春乃であり、その真後ろに斑鳩と紫音が控えている。
「さっきからあまり動かず……ですか」
斑鳩は、悠人から送られてきた座標を見てそう呟いた。
「あちらさんはウチらが居場所を把握してることを知らへんはずや、罠ってことはあらへんやろけど」
「ええ、アジトで待機していると思うべきでしょう」
そう斑鳩と紫音が話しているところに、春乃が口を挟む。
「――で、その情報はどンぐれェ信用できンだ?」
「というと?」
「手放しに公崎のやつを信用し過ぎだっつってんだヨ。テキトー言ってるかもしれねえじゃねえか」
春乃は未だに悠人を信用していないのである。現作戦は、突然現れてランクSSになった少年に最重要事項を任せている。そのことに、疑問を抱いてもいるのである。
「彼の禁呪の力は本物ですよ。……ま、後輩から聞いたに過ぎませんがね」
「その後輩の情報はどれだけ信用できる?」
自分を除く19人の命を預かっているが故に、春乃は慎重になっているのだ。
最近の魔導犯罪者の中には魔物武装を持っている者もいる。全員が全員持っているわけではないからこそ、誰が結界内で人を殺せるのかがわからない、というのも悩みの種であった。
「彼は他者を傷つける嘘はつきません。知り合ってからずっと、そうでしたからね」
「……お前がそこまで言うとはな。いいぜ、これで送られてきた情報が間違ってたら、公崎の奴に始末書全部押し付けてやるヨ」
「それ、ええなあ」
生徒会はそう語らいながら、悠人から送られてきた情報の場所へ向かう。
接敵するまで、もうすぐ。
〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜
「…………ごほっ」
冷たい感覚で目を覚ます。雨だ、雨が降っている。
俺はコンクリートの壁に叩き付けられて、もたれ掛かるようにして気を失っていたらしい。
「……ぐっ」
痛みを堪えて、起き上がる。どうしてこんなことになったんだったか……。
そうだ、俺はさっきの2人組に話し掛けたんだ。
そしたら変異した腕にぶん殴られて……クソ、やっぱ他の半魔とは対話できねえのか。
「おうい、汝れよ、大丈夫かの?」
うん? どこからともなく声がする。男のものか女のものか……低いから男っぽいが、女と言われてもまあわかるような声だ。
キョロキョロ見回しても、声の主は見当たらない。おかしいな、割と近くから声掛けられたはずなんだけど。
「ここじゃ」
いきなり、目の前にローブを纏った人の姿が現れた。脱がれたフードの中から、女? ……いや、男の顔が現れた。黒い髪をポニーテールで結わえているので余計に判別に困ったが、見ているとなるほど男に見えなくもない顔立ちをしている。金色の瞳をしているのも珍しい。
「――――」
「驚かせてしもうたかのう」
まるでステレオタイプそのままの年寄りのような話し方をする人だ。
「さて、吾にもやることがある故、そう長く汝れに構ってやることができなんだが……忠告ぐらいはと思うての。……あの2体の魔物は追っておいた方がよいぞ」
「え? い、いやアンタは一体……」
まさか急に現れてアドバイス言うだけの人という訳ではあるまい。
「吾か? そうさなァ……」
瞬間、目の前の男性の髪色が銀に変わった。白目の色もまた、黒く変異する。
そして、俺は魔物の気配を認めた。
そう、目の前に。
俺が驚いたような顔をしていると、男性の髪色は黒に戻り、また白目も人間のそれに戻った。
「あ、アンタも……!?」
半魔か、と聞こうとしたが、そんなことはわざわざ聞かずともわかる。それを察したのか男性は頷いたあと、愉快そうに言う。
「まさか裏表もハッキリとしておらん半魔をアーザルで見ることになるとはのう。ついお節介を焼いてしもうたわい、かかか」
男性はそう言って笑う。
「ま、そういうことじゃ。せいぜい生き残れよ、若き半魔。生きておれば会おうぞ」
「あ、ああ……」
息付く暇もなく男性は目の前で消えた。あのローブ、フードを被ると見えなくなるのか……。
しかし、あの姿の変化は一体なんだったんだ。俺は魔物の力を使ってもああはならない。
裏表がハッキリしていない、とも言っていた。それはどういうことなのか。
…………いや、それよりも。
魔物を追った方がいいと、彼は言っていた。
考えてもどうしようもないことを考えるよりも、動いてどうこうできる問題を片付ける方が先だ。
雨がポツポツと降り始めた。携帯で時計を見ると、そこまで時間は経っていない。
康太に電話をかける。
「もしもし?」
『大輔、どうしたの?』
遅いね、とは言われない。なら大丈夫だろう。
「雨降ってきたから、ちょっと遅くなるぜ。やまないか待ってみるよ」
『ん、わかった。こっちもアニメ見て休憩してるからさ、ゆっくりでいいよ』
「おう、ま、なるだけさっさと帰るよ」
通話を切り、携帯端末をポケットにねじ込んで走り出す。魔物の気配がする方へ。
彼は追えと言って、殺せとは言わなかった。
半魔が急に話し掛けてきて驚いただけなのかもしれない。ともかく、会話が通じるのかどうかを判断しなければならない。
俺は小雨の中、走り出した。
〜〜〜〜〜???〜〜〜〜〜
「……行ったようじゃの」
遠くの建物の屋上から大輔を見守っていた男は、身を翻して元の目的地へ向かうこととした。
――さて、と。大きな魔力がまあ大量に動いておるわ。
パチン、と軽い音を立てて指を鳴らす。すると虚空に魔法陣が映し出され、そこから丸められた紙が現れる。
それを手に取って広げると、レナウセム文字がびっしりと書き込まれていた。
――ふむ、せいとかい、か。幾度となく我々の邪魔をしおった連中じゃのう。そして……。
紙には、天真のトーレスが普段拠点として使っている場所の座標も記されていた。
――罪狩りの情報収集能力も侮れんわい。
男は微笑み、紙を投げ捨てた。捨てられた紙は突然発火し、跡形もなく消え去る。
――さて、今日も今日とて殺すかのう。
男はローブを風にはためかせ、雨が降る夜の街を駆ける。




