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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
騒乱の夏休み
120/210

またのご来園をお待ちしております。

      ~~~~~鹿沼大輔の場合~~~~~



「んー! 楽しかったねえ!」

 伸びをする康太。

「またこようね!」

 康太と、そして俺と手を繋いで歩くシエル。とても満足げな表情だ。

 そう、俺たちは日が暮れてきたので帰路についているのだ。

 ゴーストタウンから出たあと食事を取り、とにかく様々なアトラクションを回ったのだ。クタクタになるまで。

 八ヶ代家ともだいぶ回ったものだ。シエルは初めて同年代の友達ができて終始嬉しそうだったし、なんなら連絡先まで交換しちゃったぜ。女子大生と……連絡先交換……ぐへへ。

 まあ……感覚としてはママ友みたいな感じなんだけどな……。

 しかし俺は将来高収入が約束された男。俺のような特筆するところのない男でも年収さえあれば……あれば……。

 現実に目を向けよう。そう、俺にはまだまだ楽しいイベントが待っているではないか。

「更に明後日はおきのとり健康ランドだぜ? こんなに遊んでいいのかよってレベルだよな」

「そのおきのとり……なんとやらはどんな場所なんだい?」

 そうエリーが聞いてきた。よくぞ聞いてくれました。

「要は一年中遊びにいけるプールだ!」

「プール……ああ、水たまりかい?」

 わざわざ和訳するとは。



「ま、そこで泳ごうってのさ」

「ああ、なるほどね。泳ぐのはいつぶりかな」

 プールが通じないっての、訳にミスかなんかがあるのかね。

「前々から気になってたんだけどさ、こっちの人間と会話してるの、どういう感じなんだ?」

 聞いた話だと、確か自動翻訳されるはずなんだよな。俺がいくら日本語で会話しても向こうにはレナウセムの言語で聞こえるらしい。要は、言語の壁がないってことだ。

「僕らは今、日本語を認識しているんだ。なんなら日本語で喋ってもいる。ほら、口の動きはそのままだろう?」

 確かに……。しかしキレイな顔してんなコイツ。唇もなんか艶っぽいし……いかん、引き返せなくなる。

「中途半端に日本語を話せるから、僕らはややこしい方さ。日本語で聞こえるし、日本語で話すことはできるけれども……思考はレナウセム語で行っているからね」

 バイリンガルなんぞでは割と普通ではないだろうか。

「そっち、レナウセムって地域なんだよな。他の言語は?」



「ないさ。神が定めたもうた統一言語だからね」

 地球と同規模なのに……? 日本でも方言とかで差は出るというのに……ほんと不思議な世界だ。

「で、明後日はそのプールやらがたくさんある場所に行くんだ。水着はあるか?」

「うーん……ちょっと待ってくれたまえ、エミリアに確認を取ってみる」

「おう」

 エリーはエミリアを呼んでヒソヒソ話を始めた。




      ~~~~~エリオット・レッセリアの場合~~~~~



「どうしたらいいと思う?」

「難しいこと聞きますわね」

「だよね……」

 アルカニリオスで生活していた頃、エリーもエミリアも最低限泳げるほどの教育は受けていた。

 実家には泳用湖(リマース)――アーザルで言うところのプールだ――と呼ばれる泳ぐための施設があったし、家の土地内であったがために他者の目に触れず、本来の性別の水着で泳ぐ教育を受けていたのだ。

 ……しかし、今度行く場所は公的な場所である。

 レナウセムにおいて一般的な男性用水着は言わずもがな下半身を隠すのみのズボン型。対して女性用水着は、こちらでいうとワンピースとショートパンツを合わせたようなもの。そして、それらに下着など当然付けない。エリオットは下着に縮小化の魔法を込めたモノを着用することで男性のような身体つきを得ているので、下着のない水着では胸が隠せず、Gカップにもなるたわわな胸が露わになってしまうのである。

 故に、エリオットは苦悩していた。

「いくら男のフリと言ったって上半身丸出しはまず不可能だし、なんらかの手段で可能だとしても僕が嫌だ……かと言って胸を隠すと不自然極まりないだろう?」

「そう悲観的にならないでくださいまし。わたくし、一つ秘策を思いついてしまいましたわ」

「本当かい!?」

「ええ……こちらの世界の水着を見てみる、というのはどうでしょう? 水泳が娯楽であることはどちらの世界も変わりませんが、如何せん衣服も文化が違いますから、なにかいい塩梅の水着があるかもしれませんわ」

「確かに……! さすが僕の妹だ」

「弟ですわ……」



 話し終え、兄妹は大輔の隣へ並ぶ。

「ちょっと相談があるのだけれどもね」

「おう」

「明日……一緒に水着を買いに行かないかい?」

 エリオットは決死の覚悟で大輔を誘った。異世界の文化に触れようとしている以上、こちらの文化に詳しい人間が必要だ。エリオットとエミリアだけでは大衆に溶け込めない変なデザインの水着を買ってしまうかもしれない。

 しかし、他に誰か頼れるわけではない。唯一頼れるミオでさえ、明日は悠人と出掛ける用事があるのだと嬉しそうに語っていたので頼ることができなかった。

「持ってないのか?」

「家に置いてきてしまったんですの。とは言え、最後に泳いだのも数年前ですから、どうせなら新しいものをと思いまして」

「学校指定のやつでもいい……いや、ありゃちょっとガチ過ぎるな。競泳用だしな……」

 大輔の言葉に、エリオットは表情を曇らせた。

 学校指定の水着。男性用も女性用も胸を隠せる、いわゆる競泳用……なのだが、先述したように、魔法が込められた下着がなければ悲しい事態が起きてしまうので、買ったまま放置していた。二学期から水泳の授業が始まるのだが、エリオットはそれをすべて休むつもりでいる。

「あの、大輔さん。少し気になることがあるのですけれども」

「うん?」



「胸を隠せる男性用の下着というのはありませんの?」

「うん? あるとは思うけど……なんでだ?」

 そこで、エミリアはまず初歩的なことを聞いた。水着を買うにしても、まずそれがなければならない。もしもすべて上半身をさらけ出すような水着しかないのであれば、そもそも瓦解してしまう。

「ほら、ウチのお兄様は非常に中性的な顔立ちをしていますから、胸を隠していないと逆に騒ぎになってしまうかもしれませんわ」

「……なるほどな。言われてみればその通りだ」

 エミリアは心中でよっしゃあと雄叫びを上げた。

「少し待っていてくださる?」

「? おう」

 レッセリア兄妹の緊急会議が再び始まる。



「胸を隠せる男性用水着は確かに存在しているようですわ。つまり、これに魔法を込めれば……!」

「今回は遊びに行ける……!」

 エリオットが喜ぶ様を見ながら、しかしエミリアの表情は明るくなかった。

 ――さっさと女だと暴露して結ばれちまえばいいですのに。なんともまあ遠回りですの。

 エミリアとしては、自らの姉が自室でひたすら大輔のことを考えて黄昏れ、ため息をつく様を見飽きたのである。

 かと言って、エミリアが大輔に「実は自分は男で、エリオットは女なのだ」なんて言ったところで信じてもらえない気がする。

 ――お姉さまは魔法を解くだけで女だってことを証明できるんだから楽ですわよね……わたくしほんとどうしましょう。男子風呂にでも突入してやろうかしら。

 そこまで勢いで考えて、しかしあまりにも大胆過ぎることに気付いてエミリアは赤面する。

「ほんと……わたくし最近どうかしてますわ」

「どうしたんだい、エミリア?」

「いいえ。わたくしも水着を買おうかと思っただけですわ」



「エミリアは隠しやすいからいいよね……」

「一応、魔法で隠してはいますけれどね」

「はあ……僕はいつまで隠していられるだろう」

 エリオットもまた、いつ女であることが露見してしまうか気が気でなかった。

「ともかく、今はどう水着を乗り切るか、ですわ。明日に賭けましょう、お兄様?」

「そうだね。それに……大輔くんとお出かけだ。楽しみだなあ、うん」

「……ほんと、乙女やってますわね」

 エミリアは、やれやれと言ったふうにため息をついた。



      ~~~~~鹿沼大輔の場合~~~~~



 中性的なのも考えもんだな、とか、そんなことを思いながら、帰宅する人たちの中で俺は歩く。

「ね、悠人。このあと、なにか予定あるかしら?」

「うん? いや、帰って……いや、途中でコンビニにでも寄ってご飯を買うぐらいかな」

「なら、アタシと晩餐に行かない? いいお店を取ってあるの」

 俺の前から甘ったるい会話が聞こえてきた。おお、頑張ってるな王女様。

 どうせ少し離れた遊園地前の駅まで歩くだけだが、人の流れが多くてかなりゆっくりだ。手持ち無沙汰なので、康太に話しかけよう。

「なー康太。前から青春の匂いがするな」

「そうだねえ。悠人の背中にドロップキックをキメても怒られないんじゃないかな?」

「アレ挟んでる乙女どもにボロ雑巾みたいにされると思うぜ」



 俺は何度か酷い目に遭わされているからな。異世界から帰ってきたアルカニアに何故か火だるまにされた時はマジで理不尽だと思いました。

「あー、モテないねえ」

「モテないなあ」

「もてなーい!」

 シエルが高らかに復唱した。やめて、純粋な声でそんなこと言わないで。

 泡吹いて倒れそうなほどダメージを受けていると、ポケットに突っ込んだままの携帯にメールが届いた。

「あん?」

 まさか、前に頼んだ限定フィギュアが発送されたか? シエルと手を繋いでいない方の腕で携帯を取り出して画面を開く。

『1件の未読のメッセージがあります』

 どうもそうっぽいな。



『伊乃:今日はどうもありがとう。お陰で、日奈も美姫もとっても喜んでたわ。ところで、お礼と言ってはなんなのだけど、今晩、ウチで晩ご飯を食べない? 帰りに寄ったスーパーで抽選がやっててね、とんでもない量のお肉が当たっちゃったの。私たちだけじゃ食べ切れないと思うから……人助けと思って、食べに来てくれると嬉しいわ』



 ご 飯 の お 誘 い ィ!!!!

 勝ったな。悪いな康太。俺は女子大生に晩ご飯に誘われてしまったぜ。しかも、しかも相手の家で! 勝ちでしょこんなの!

「ふっふっふ……康太、俺は今晩、用事ができちまった……」

「なに、悠人のモノマネのつもり? 絶望的に似てないよ」

「ちげーよ! 悠人にも失礼だわ! ……ごほん。見ろ、このメッセを!」

 俺は携帯を康太に見せつけた。勝ったわ。

「ふんふん……ええっ!? 大輔だけ抜け駆けはズル……」

 ブブッ。携帯がバイブした。おや? 何かな?



「……できればお友達を連れてきてくれると嬉しいです。だってさ?」



「ちっくしょう!」

 ああ、わかってた、わかってたさ。俺なんかどーせシエルの保護者さ。一生春なんか来ないんですー!

「……で、康太はどうす」「行くに決まってるでしょ?」

 言いながらニッコリ。あーうん、デショウネー。

「シエルはもちろん連れてくとして、あと……おーい、エリオット、エミリア。肉、食べに行かない?」

「あら、よろしいのですの? ちょうど今晩の献立に悩んでいたところですの」

「僕もいいのかい? じゃあ、お言葉に甘えて」

 肉が拡散していく……。嗚呼、無情……。



 涙をちょちょぎらせながら、俺は項垂れた。そこで、前から小さい声が聞こえてくる。

「…………後ろでは肉、真横では高級レストランのディナー……私はどうすれば……」

「アンタの席はないわよ。なんで至極当然のように選択肢に入れてるのよアンタ」

「…………ぐすん。……仕方ない。……鹿沼、私もご相伴に預かりたい」

 わあ、食欲お化けが増えた。

「いいのかよ? 悠人、取られちまうぞ?」

「…………ミオには前に異世界での借りがある。……今日ぐらいは黙って引き下がる。……前に共同戦線を張ったけれど、かと言ってここに敵はいないから」

「そうかい。じゃ、連絡しとくよ」

 俺、康太、シエル、エリオット兄妹、そして幽ヶ峰の六人。結構な人数だぜ、すぐに肉なくなっちまうんじゃねえの。



「……返信きた」

 六人で行きます、って送ったのだが……返信はメッセージではなく写真だった。

 そこには、大喜びする日奈ちゃんと慌てて顔を隠す美姫ちゃん、そしてなんか山。ピンク色の山が写っていた。……いや、違う! あれ全部肉だ! 生肉だ!

「こんなんなってるってよ」

 携帯の画面を見せると、どよめきが起こった。

「…………天国なのでは」

 多分、旅原さんとこいつがいたら一瞬で無くなるんだろうな、肉。

 そういや旅原さん最近見ないけど何やってんのかな。なんだかんだ林間のときはお世話になったからちょっとお礼とかしときたいもんだが。



「大輔、ちょっといいかい?」

 そこで悠人が俺に話しかけてくる。

「どうした?」

「僕らはここで別ルートで帰るよ、いいかい?」

「デートだろ、いいぜ」

「そんな、デートだなんて。前にミオのお兄さんに決闘を申し込まれてね、そのお詫びなんだってさ」

 ふ、不憫! 鈍感もここまで来るとぶん殴りたくなってくるなオイ。

 チラリとアルカニアの方を見ると、微妙な顔をしていた。デート、真っ向否定だもんな……ごめんな、変なこと言っちまって……。

「ま、俺たちも行くところがあるからな。楽しんでこいよ」

「うん。明後日は健康ランドの方だから、水着とか用意しておいてね。それじゃ!」



 そう言って、爽やかに悠人とアルカニアは人混みの中に消えていった。逆方向なんだな。

「じゃ、俺らは……っと」

 添付された位置情報は……そこそこ遠いな。

「電車で行くかね」

 そういうことになった。



      ~~~~~天真のトーレスの場合~~~~~



 とある、雑居ビルの一室。

「おい、どうなんだ、力ってのをくれるんじゃなかったのか!」

「そうよ、結界の中でも人が殺せるんでしょう!? 私は早く邪魔な娘を消さないと……」

 まくし立ててくる二人の男女を見て、トーレスは深い溜め息をつく。

「もー、うるっさいなッ。さっさとやったげるから黙っててよねッ」

 トーレスの母が、トーレスに紫の水晶でできたナイフを手渡す。

「お金は……うん、ちゃんと本物だねッ。じゃ、バイバーイッ!」

 渡された50万円が偽札でないことを軽く確認し、トーレスは駆け出した。

「な……!?」

 そして、ナイフで男の胸を突き刺す。



「亡き喚けッ! 負晶刀(ランヴラバル)ッ!」



 ナイフから、老若男女の悲鳴のような音が響き渡る。

「が……あ……ギ……ヒヒ?」

 突き立てられた部分から、肉塊が噴出する。そして肉塊は男の全身を包み込み、しばらくして消えた。残った男の目は白目が真っ黒に変異し、黒目は真っ赤に輝いている。

「はい、半魔(ナルクス)の出来上がりーッ! じゃ、次はおばさんねッ!」

「え、いや、待ちなさいよ! なんでそんなモノを……ギャアアッ!」

 そうして、2体の半魔(ナルクス)がそこに生まれ落とされた。

「ふう……心臓に刺さないと(レン)が作れないなんて不便だよねッ。なんだかすぐに探知されるみたいだし、これだから紛い物の半魔(ナルクス)は駄目だねッ!」

 トーレスはそう言って、ソファに深々と腰掛けた。

「ほら、さっさと行った行った! ぼくは生徒会対策を考えるのに忙しいのッ!」



 手で払うようにしてトーレスは半魔(ナルクス)たちに促す。すると、2体は窓から飛び出していった。

「ふう……なんだっけ、ヤカシロ? ニホンの家名はややこしいったらないねッ」

「そうね、トーレス。しかし……これからどうするつもり?」

「父さんが生徒会の偵察に行ってるのを待つしかないねッ。とりあえずさっきのが最後の仕事だとして、生徒会だけ何人か殺したらシトリーのところに戻ろうかッ」

「そうね、トーレス。母さんもそれがいいと思うわ」

 トーレスは満面の笑みを浮かべた。

 それは、年相応の、無邪気なものだった。

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