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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
騒乱の夏休み
119/210

対峙、天真のトーレス。

      〜〜〜〜〜公崎悠人の場合〜〜〜〜〜



「…………」

 僕はたった1人で、暗い街並みを歩く。

 視界には、光の柱が見えている。そう、天真のトーレスの目印だ。

 つい先ほど、葵やミオたちとはぐれてしまったところだ。いや、はぐれた、というよりはどこかへ逃げ去ってしまったと言うべきか……。

 トーレスがここにいるということは入場した時からわかっていた。そこで僕は悪知恵を働かせることにした。

 ここに配置されている怨霊は魔法で作られたものだ。幻覚魔法の魔法語さえあればそれっぽいのが作れるので、僕でも作ることが出来る。禁呪のせいで量が大変なことになってしまったが、作戦は上手くいった。

 ……しかし不気味だなあ、ここ。

 その時、羽ばたく音が近くで響く。僕はそちらへライトを向ける。すると、カラスが飛び立っていっているのを見た。あんなものまでいるのか……!



 光の柱に見えるマーキングに近づいてゆき、やがて離れたところにトーレスとその両親を認めるまでに近付いた。さらにそこから障害物に隠れながら近付く。

「いやーッ、ミッションっての、大変だねッ!」

「ええ、そうね、トーレスちゃん」

「ちょっとママッ、外ではタレスでしょッ。ま、誰もいないからいいけどねッ!」

「あら、ごめんなさい。周りに誰もいなかったものだから」

「許してあげるッ!」

 ……親子の会話にしては随分と違和感がある。両親は、自分の子供が魔導犯罪者だということを知っているのか……?

「しかし、見られたのはマズかったなあッ。ま、あんな弱っちいの、ほっといても大丈夫だろうけどッ」

「そうね。殺そうと思えば簡単に殺せるもの」



 ――――!?

「タレス、父さんはあの少年を殺しておいた方がいいと思うぞ?」

「えーッ、どうしてーッ?」

「すぐにどうこうはならないだろうが、手口は見られたろう?」

「……確かに、お仕事の邪魔をしてくる生徒会の奴らと手を組まれたら、厄介だものねッ!」

 マズい、このままでは大輔の身が危ない……!

「そ・の・ま・え・にィーッ!」

 飛び出そうとした僕は、その声で動きを止めた。トーレスが僕の方を見ている!

「そこにいるのだぁーれッ!」

 まさか、バレたのか!?

 真横でカラスがけたたましく鳴き声を上げる。

「あッ! ぼくにぶつかったおにーちゃんじゃん! なんでぼくをそんなに警戒してるのかなッ?」



 カラスが飛び、トーレスの母親の元に向かう。そして、カラスはその肉体の中に吸い込まれていった。いったい何が……!?

「もしかして……聞いちゃったのかなーッ? そっかそっかァ、ぼくのこと知ってるってことは、そういうことだよねッ! …………パパ、向こうはどう?」

「高ランク3人と無魔力者(エナガロシア)3人と一緒にいるね。殺すなら、高ランクがいない時がいいんじゃないかな?」

「じゃ、それでけってーいッ!」

 ――――どうする? どうするどうするどうするどうする!?

 やはりここで捕まえてしまうしかないか……!

「おっと、動かない方がいいよッ! 聞いてるかどうかは知らないけど、ぼくは魔物(ガルナ)を使役できるんだッ。ぼくとしても遊園地で戦ったりはしたくないんだッ! ここは見逃してくれると嬉しいんだけど、なッ?」



「……そんなのが通るわけないだろ、魔導犯罪者。僕はここでお前を逮捕……」

「さっきのカラスってさッ、もうわかってると思うけど、魔物(ガルナ)なんだよねッ! 動物を無理やり半魔(ナルクス)にしたってわけッ! で、それが既に弱っちいおにーちゃんを取り囲んでるんだッ!」

「な――――」

「暗いところからカラスが急にわーって飛んできたら……目玉くらいは抉り取れるかなッ?」

 人質のつもりか……!

「もしも見逃してくれるなら、騒ぎは起こさないって約束するよッ? ぼくは遊園地に遊びにきたんだもんッ! お金にならない殺しはあんまりやらないんだよねッ!」

 …………ここで僕が飛び出し、奴らを逮捕したとしても。大輔たちは間違いなく襲われてしまう。無魔力者(エナガロシア)と一緒にいるとも言っていた。魔力(エナ)耐性のない人達が襲われてしまえば――!

「どうするッ?」

「……わかった。僕はこのまま後ろを向いて立ち去る。ただし、絶対に彼らには手を出すな」



「うんうんッ! 賢いねッ! じゃ、ママ、カラスたち、戻してッ!」

「いいの?」

「どうせ今じゃなくてもいいしッ!」

「わかったわ。うちの子が優しくて良かったわね、魔導士候補生くん?」

「………………」

 僕は答えず、そして振り向かずに、向こうに僕の姿が見えるように歩く。どちらにせよマーキングは付いたままだ。奴らが遊園地から出たあと……生徒会の援軍も呼んで一気にケリをつけるしかない。

 そうすることしか、できなかった。



      〜〜〜〜〜天真のトーレスの場合〜〜〜〜〜



「ふぅッ! せっかく遊んでるんだから、邪魔しないで欲しいよねッ!」

 トーレスはそう言って頬を膨らませた。

「確かにそうだな。だけど、無駄骨じゃなかったみたいだぞ?」

 父は、そう言いながらトーレスの頭を撫でる。

「どういうことッ?」

「娘3人を殺したい、という依頼があったのを覚えているかい?」

「先月くらいのやつかなッ? でも、殺害対象が引っ越したせいで居場所がわからなくてどうしようもなかったと思うんだけどッ?」

「そうとも。で、なんとも幸運なことにだね。あの弱い少年と一緒にいたのがその娘たちだったんだ」

「ほんとッ?」

「ええ、だから1匹だけ残しておいたわ。家まで連れてってもらうためにね」

「うわぁい! またシトリーに褒めてもらえる! 明日、さっそくお仕事しよーねッ! 今日はめいっぱい遊ばなきゃッ!」

「ああ、そうだな」

 トーレスたちは笑う。仲睦まじい、どこにでもいる親子のように。




      〜〜〜〜〜公崎悠人の場合〜〜〜〜〜


「……くそッ!」

 誰もいない暗闇の中、僕は怒りに身を任せて壁を殴った。

 このアトラクション内では携帯は使えない。早く脱出して、生徒会に連絡を取らなければ。明日、いや今日の夜にでもトーレスと決着を付けなければならない。マーキングは僕が解除するまで消えないから、見失うことはないはずだ。

 ……落ち着け、僕。これからどうするべきかだけ考えろ。奴らの言葉を信じるならば、恐らく奴らが園内にいる間は何も起きないはずだ。とは言え、僕の事情で今日を切り上げる訳にも行かない。外に出て生徒会に報告はしても、すぐに増援を呼ぶのは恐らく悪手だ。一般人を巻き込んでしまうことになる。ただでさえトーレスの実力がわからない状況だ。もし仮に無差別に人を魔物(ガルナ)に変えられてしまえば……。



 なにより、大輔には悟られてはいけない。下手な動きは不審を生む。何事も無かったように振る舞わなければ。

 トーレス達が園内から出たのを確認したところで生徒会と一気に叩く! これが一番迅速かつ間違いない動きのはずだ。

 大輔たちは既に片方のミッションを終えている。ミオ達と合流するとしよう。ミオの魔力(エナ)は……向こうだな。

 僕は駆け出した。



      〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜



「大丈夫かい?」

「……ああ……すまん、立ちくらみがしてな。寝不足かも」

 俺は息を切らせながら立ち上がる。冷や汗が止まらない。

 非常に小さい魔物(ガルナ)の気配に囲まれていた。気付いても動けなかった。カラスのような風貌の魔物(ガルナ)が、 作り物の電線に止まってじっとこちらを見つめていた。

 高所にいるがために、俺からの手出しはできなかった。この空間ではアレらも「よくできた装飾」になってしまう。それらに槍を振りかざしながら襲い掛かれば、気でも違えたと思われるに違いない。

 が、ほんの数秒前にほぼすべて飛び立っていった。たった1羽を残して。だが、俺はその緊張感から解放されたが故によろけて倒れたのである。

 ――あいつら1羽1羽は大した魔力(エナ)量じゃない。だけど……もしもあいつらが襲いかかって来ていたら……怪我では済まなかったかもしれない。



 いくら高魔力(エナ)保有者でも魔物(ガルナ)の気配はわからない。人間である限りは。

 人に襲いかかるカラスというギミックにさえ見える状況だ、少なくとも無魔力者(エナガロシア)である八ヶ代家の人達は危なかった。魔力(エナ)そのものが魔物(ガルナ)に対する防御力にもなるが故に、無魔力者(エナガロシア)は身を守る術を持たない。

 そして、今は……あの残った1羽をどうするかが問題だ。せめてここが暗ければ、誰も見ていない間に蒼天を投げて殺せただろうが……。

「あー、ちょっとトイレに行ってくるよ」

「ん、いってらっしゃい!」

 シエルに見送られ、俺は駅周辺の明かりの外に出る。

「……よし」

 蒼天を顕現させ、カラスに向けて思い切り投擲した。

 魔物(ガルナ)の気配が消える。当たったらしい。

 しかし……あの量の魔物(ガルナ)が俺たちを取り囲む動きといい突然どこかへ行く動きといい、明らかに不自然だ。誰かが使役してんだろうな……トーレスとか、それに類する魔導犯罪者とか。



 ……ともかく、今は俺がどうこうできることはない。警戒だけは怠らないようにしないとな。



      〜〜〜〜〜天真のトーレスの場合〜〜〜〜〜



「残していた1匹が殺されたわ」

 トーレスの母はそんなことを言った。

「……どういうことかなッ?」

 お化け屋敷という場、見た目はカラス。

 普通の人間に魔物(ガルナ)を感知することはできない以上、お化け屋敷の仕掛けだと思うはずだ。

「最後に感じたのは、他の魔物(ガルナ)の気配だけ。暗闇から襲撃されたものだから、誰の攻撃かはわからないけど」

「うーん、やっぱり探知能力も人工じゃ劣るのかなッ。向こうはもしかすると天然の半魔(ナルクス)かもしれないねッ」

 そうつまらなさそうにトーレスは言う。

「もしかすると、罪狩り(エミルナルタ)の連中かもしれんぞ」

「…………そうだとしたら、ぼくらの動きを把握されつつあるってことになるのかなッ?」

「そういうことだ」

 トーレスは爪を噛む。このままでは自分はおろか、シトリーや仲間たちにまで危険が及ぶかもしれない。

「じゃ、予定を早めようかッ! 今日の夜、あの3人を殺すよッ! そのあとすぐシトリーのところへ戻るからねッ! そうと決まれば早くここ出るよッ! あー、楽しみだなぁッ!」


 心底楽しそうに、心底幸せそうに。

 彼らは、暗闇の中に消えていった。

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