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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
騒乱の夏休み
118/207

ゴーストタウンの迷子

      〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜



 おどろおどろしい雰囲気の街中を歩く。駅周辺には街頭などがあったのだが、本格的に街に入ると街灯がついておらず、空には月の光こそあれど、それでも薄暗い。マトモな光源といえば配られた懐中電灯ぐらいだ。これ、小型ディスプレイ付いてるんだよな。ハイテクだ。

「う、うう……外はあんなに晴れていたのに、どうしてこの中は夜なんだろう……」

 俺の右腕にしがみついて離れようとしないエリーが震えた声でそう言った。

「お、恐らくですけれど、ここの天井が投影しているのでしょうね。エルゼラシュルドの訓練室と同じ要領だと思いますわ」

 俺の左腕にしがみついているエミリアがそう言った。

 何この……何? 俺の人生で女の子にこんなに密着されることなんかあっていいの? こういうのってイケメンだったり強かったり両方を合わせ持つやつの特権じゃないの? 恐るべしお化け屋敷パワー。俺もうここに住みたいんだけど。



 まあ俺自身がどうこうじゃなくて、お化け屋敷って極限状態で恐怖を和らげる緩衝材が俺しか無かったってだけなんだろうけどな! やっぱつれぇわ。言えたじゃねえか俺……。

「で、びょーいんってどこー?」

 恐怖など知らぬと言わんばかりの元気さで俺の周りを歩くシエル。先程から何度か怨霊に襲われたのだが、エリーとエミリアは凄まじい悲鳴を上げ俺の腕をへし折る勢いで強く抱き締めていたのにシエルは何故か爆笑していた。なんで?

 ちなみに、エリオット兄妹はすげえ柔らかいです。恐怖が和ら……げばいいんだけどね。

「シエルちゃんもそうだけど、大輔くんもよく驚かないよね……。振り向いた時にいたり、角から現れたりすると心臓が止まる思いだよ……」

「………………」

 違うんです。

 ビビる時、声出ないタイプなだけなんです。



「あ、アレではなくて? 病院と書いてありますわ」

 エミリアの指した先、遠くに病院の廃墟らしい建物が見えた。

「うわぁ……」

 雰囲気がありすぎる。この街歩いてるだけでも怖いのに、あんなとこ入ったらマジで漏らすんじゃねえか俺。

「他のグループは……いないみたいだな」

 ミッションは『ナースステーションのカルテを回収』だったな。回収対象はわかりやすく置いてあるらしいし、さっさと取って逃げ帰ろう。

 病院の中に足を踏み入れる。冷たい空気が頬を撫で、両腕が兄妹の悲鳴と共にへし折れそうにぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!

「さむーい!」

 シエルがキャッキャとはしゃぐ。なんではしゃげるの……?

 放置された車椅子やリハビリ用の歩行器……小綺麗なのに、まるで使用感がない。というか……暗い! 月の光さえないこの空間、マジでライトがないと何も見えねえ。



「とにかくナースステーションを目指すか。院内見取り図は……あれだな」

 ライトで辺りを照らしまくり、やっと見付けた院内見取り図。

 どうも2階にそれはあるらしい。嫌だなー怖いなー……。

 屋内は外に比べて怨霊配置数がとにかく少ない。というか、一見した感じ気配さえない。

 半透明な奴らは「ァァァ……」とか「ォォォ……」みたいな呻き声だったり「私の子供を知りませんか……知りませんか……」と呟きながら遭難者たちを追いかけて来る。心臓に悪いったらない。

「最寄りの階段から2階に上がって、さっさと……」

 言った途端、バァン! と大きな音がした。

「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「………………!」

 腕! 腕が! 血が止まっちゃう!

「むこうのドアがかってにしまったみたい」

 シエルがそうのほほんと言った。驚いている素振りさえ見せねえ、つよい。



「敵が配置されてない代わりに仕掛けがあるってわけか……なるほどな……」

 屋内はビックリ系重視なんすね、ちくしょう。

「は、早く行こう」

「そうですわね……」

「ごーごー!」

 俺たちは2階へ向かう。



      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 パンフレットによると、実際の廃病院から使われなくなった機材やら本などをそのまま流用しているらしい。全部お祓いした上で使われているとのことで、ここに霊が出たとかの噂はない。安心!

 なのに。

「…………うう…………おねえちゃん…………どこ……?」

 どこからともなく、ずっとこんな声が聞こえている。幼い女の子のような声だが、周囲に怨霊の姿はない。

「だ、大輔くん。これどこから聞こえてきてるんだい?」

「い、いやわからん。探してみるか?」

 内容からして迷子の可能性もあるし。

「そうですわね。正体が例えば霊……でしたら、それはそれでわかっただけマシというものですわ」

 そういうことになった。



      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 しかし、声の主は案外早く見つかった。

 ナースステーションの中に、うずくまって泣いている女児がいた。

「おねえちゃんどこぉ…………?」

 よりにもよってこんなところで迷子とは。

「どうした?」

「ぴぃぃぃぃぃっ!?」

 しまった、すげえ驚かれてしまった。

「よしよし、落ち着け落ち着け」

 頭撫でとけ。

「……おばけさんじゃない……?」

「そ、お化けさんじゃないぞー」

「…………おねえちゃんどこ?」

「悪い、わからん」

 さて……どうしたもんかな。

「ここで見捨てておくのはバツが悪いですわね。かといって……」

「探してる側からしても、ここは心当たりの一つだ。行き違いになる可能性はあるわな」



 しかし……場所が場所なんだよな。懐中電灯しか灯りがないような場所でずっと一人ってのはかなり怖いだろう。

「仕方ねえ、どうせ30分経ったらクリアしようがしまいが関係ないんだ。外の迷子センターで呼び掛けた方がいいだろ」

 この広く暗いエリアで再会させてやるのは難しいだろうしな。

「えーっと……どうしたもんかな」

 子供との距離感が掴めねえ。……そうだ。

「シエル、この子の面倒見てやってくれ」

「はーい!」

 恐怖とは無縁かつ、この中では最も近い年齢。多分、俺が相手するよりはよっぽどいいだろう。

「シエルはねー、シエル!」

 一人称が自分の名前系女子の自己紹介はちょっとややこしい。

「ひな。ひなはね、ひなだよ?」

 円滑なコミュニケーションである。見知らぬ男子高校生がいきなり名前聞き出す状況とか事案だもん。たとえ善意でもネ!



 このままここにいるか、俺たちに着いてくるかを聞きたい。ここにいるということは恐らく病院内でこなせるミッションなどなのだろうが……。

 グループで入場した場合、誰かがミッションをこなせば即座に全員の脱出が可能となる。この子の保護者なりが達成しているのであれば俺たちがここでカルテを回収してから外に連れていけば良いし、達成していなくても病院内ないしこの付近だろうから、保護者を探しつつ脱出を目指せばいいだろう。

「あのね、あのね? ライトみせて!」

 ミッションは懐中電灯に付いているディスプレイ上に表示されている。

「うん」

 ひなちゃんはシエルに懐中電灯を渡し、俺に見せてくれた。

「……ふむ、院長室にある『魔法医学』って本を取ってこいってミッションか」

 院長室は確か最上階だな。

「いっしょにいく?」

 シエルが手を伸ばした。

「うん!」

 そういうことになった。なら、ちゃんと保護者に会わせてやらないとな。



      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 突如現れてはクラウチングスタートをし、陸上選手みたいな走りで追いかけて来る人体模型、自力で動ける視力検査表、開閉を繰り返す病室の扉、フラフラ歩く血塗れのナース……。

 それらでエリーとエミリア、ひなちゃんは喉が裂けんばかりの悲鳴を上げ、俺はあまりの恐怖に心臓が何度か止まりそうになり、シエルは爆笑していた。

 院長室に辿り着き、指定された本を取る。ライトで数秒照らすとミッション完了となった。

 俺たちはそそくさと病院を後にし、怨霊たちからひいこら言いながら逃げて、ゲート付近まで戻ってこられた。

 懐中電灯のディスプレイを見ると、まだ悠人たちはミッションを終えていないようだ。

 ゲート周辺は安全地帯だし、ここで仲間たちを待つとしよう。

 ちなみに、エリーとエミリアはもう腕を掴んでいない。恐らく最初で最後の女の子との密着イベントだったと思う。

「ここ、さっきもきた!」

 このゲートからのスタートだったか、よかった。

「なら、保護者もここに戻ってくるかもな」

 このアトラクション内は雰囲気重視が故に携帯電話が使えない。死角が存在しないほどカメラが張り巡らされており、犯罪は今まで起きたことがない。立件されてないからセーフとかじゃなく。



 ミッションを終えた人が続々と駅を模したゲートへ向かってきている。悠人たちはまだだ。

 その中に、不安そうな顔をした女性が中学生くらいの女の子と手を繋ぎながらゲートへ向かってきた。

「日奈!」

「おねーちゃーん!」

 シエルと手を繋いでいた日奈ちゃんは、女性の元へ駆けていった。

「えへへ、よかった!」

 そう満面の笑みでシエルは言う。なるほど、天使ってのはこの子のことなんだな?

 女性は俺たちの元へ歩いてきて、深々と頭を下げた。

「ウチの妹がお世話になったみたいで……」

「や、いいんすよ。うちの子も近い歳の女の子と話ができましたし」

 シエルは楽しそうだった。そう、彼女に近い年齢の友達はいないからだ。学校とかに通わせてやりたいけど、この子を1人にするわけにもいかないしなあ……。



「あら、綺麗な子……」

 言って、女性はシエルに目線の高さを合わせる。

「おいくつ?」

「んー……わかんない!」

 多分10歳くらいだろうとは思うのだが……。

「え……?」

 やべえ、怪しまれた。なんて言って誤魔化すか……?

 そもそもこの子を預かってるのは、俺に懐いてくれているからだ。魔導士協会の方で預かってもらうことを提案しようと思ったこともあるが……この子は思考詠唱ができる特殊な子だ。懐いているらしい俺から引き離すとどうなるかわかったもんじゃない、と言うのが向こうの見解らしい。

 …………でもそんなこと言えるわけないじゃん。

 使い魔(ファミリア)だって言ってもこんな幼い子とそんなの結んでるって言ったらもっと怪しまれるかもしれん。

「……俺が魔導士候補生だってことと、この子とは現場で出会ったってことしか話せないっす」

 なら、事情はあるけどヤバくはないよアピールするしかない。魔導士協会公認だよって言えばなんとかなるだろ。

「へえ……きっと私にはわからないことなのかしら。私、無魔力者(エナガロシア)だもの」



 そう言って女性は笑った。

 無魔力者(エナガロシア)。読んで字のごとく、魔力(エナ)を体内に保存できないとか、魔素(マナ)魔力(エナ)に変換できない人達のことを指す。ランクとしてはEになる。

 とは言え、そこまで珍しい存在でもない。俺の故郷でも結構な人達が無魔力者(エナガロシア)だったからな。

「病院の中ではぐれてしまって困っていたの。なにかお礼がしたいわ」

「そんな、大丈夫っすよ」

 女性は多分大学生くらいだ。とても……その、色っぽく笑う。

「うふふ、遠慮しないで。うーん、そうねえ…………そうだ! お昼はもう済ませたかしら?」

「いや、まだっす」

「お弁当を作ってきたのだけど、良かったら少し食べてくれないかしら?」

 なんだと……!? 遊園地特有の結構高いご飯をどうするか悩んでいたところだ。いや、でもなあ……出会ったばかりの人にご飯食べさせてもらうって割となんか、アレだな……。

「ちょっと待ってくださいまし」

 エミリアが助け舟を出してくれた。

「わたくし達、あと4人の友人を待っていまして……。流石に8人分ご相伴に預かるわけにはいきませんわ」

「あら、そうだったの」

 迷子を見つけたぐらいでお昼ご飯を食べさせてもらえるなんてのは流石に気が引ける。



「でも、なにかお礼をしないと気が済まないわね……」

「じゃあ……日奈ちゃん、でしたっけ。あの子がうちのシエルと友達になる、とかどうですか?」

「そんなことでいいの?」

「こっちも、なにか貰ったりするのは気が引けますから」

「私も、流石にちょっと押し付けがましかったかしら。ごめんなさいね」

 なんか……変わった人だなあ。艶っぽいんだかおっとりしてるんだか。

「私は八ヶ代(やかしろ)伊乃(いの)。沖ノ鳥島の大学に通ってるの。普通の大学だけどね」

「俺たちはエルゼラシュルドの学生です。あー、俺は鹿沼大輔。んで、こっちがシエルと……」

「エリオット・レッセリアです」

「エミリア・レッセリアですわ」

 とりあえず自己紹介した。あと名前がわからないのは……伊乃さんの隣にいる中学生くらいの女の子だ。

「……美姫(みき)

 それだけ言って、そっぽを向いてしまった。

「ごめんなさい、この子ちょっと人見知りなの」



 伊乃さんはうふふと笑う。

「うちの日奈もね、ほんとは人見知りする子なの。けれど、シエルちゃんにはよく懐いてるみたい」

「吊り橋効果ってやつですかねえ……」

 あんな暗くて怖い場所で助けられたら……ねえ?

「もし良かったら、日奈だけでも連れていってあげてくれないかしら? この子、学校でもそんなに友達が多い方じゃないから……こんなに嬉しそうにしているのを見るの久しぶりなのよ」

「もちろん。やっぱり子供は子供同士で遊ぶのが一番っすからね」

 でも、この子をこっちで預かるのもなあ。

「なんなら一緒に回りません? 俺たち、小さい子の相手ってそんなに得意じゃないんすよ」

「大輔くん!?」

 エリーが驚いた。

「まあ落ち着け。ぶっちゃけこれはチャンスだ。シエルとより良いコミュニケーションを学べるかもしれん」

「でも悠人くんたちは……」

「あいつはどうせ幽ヶ峰とアルカニアとイチャつくだろ?」

 それにだ。

 ……こんな美人な! 大学生と! お近付きに! なれるんだぞ!



「あら、いいの? じゃあ日奈とシエルちゃんの相手をしておこうかしら。美姫、いい?」

「……うん」

 いやっほう!

 そう、何を隠そう俺の理想の女性のタイプは無魔力者(エナガロシア)! あと子供が好きな人!

「……嬉しそうですわね、大輔さん」

「あったりめえよ!」

「ですってよ、お兄様」

「…………知らない!」

 エリーがそっぽを向いてしまった。しまった、友達と来てるんだからもうちょい配慮すりゃよかった。

「エリオットくんだっけ? 大丈夫、私は後ろで日奈とシエルちゃんを見ておくから。君は鹿沼くんと仲良くすればいいのよ」

「……え?」

「私は君が鹿沼くんと仲良くしているの、後ろから見ているからっ!」

 …………うわーい思ってた展開とちがーう。

 少しげんなりしながら、悠人たちを待つのであった。

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