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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
騒乱の夏休み
116/210

みんなで遊ぼう!おきのとりパーク!2

      〜〜〜〜〜公崎悠人の場合〜〜〜〜〜



 大輔の反応からわかったこと。

 まず、あの少年は天真のトーレス本人である可能性が高いこと。普通の少年があんな殺気を放てるわけがない。

 そして、大輔と面識があることも。

 なら……僕はどうするべきだろう。

 2つ目のアトラクションを乗り終え、僕らは次の行き先を決めようとしていた。

 大輔は、何事も無かったかのように待ち時間を表示している掲示板の前に立っている。

 それも一人で、だ。なら、聞くチャンスだろう。



「大輔、いいかい?」

「ん、なんだ?」

 驚くほどいつも通りだ。

「さっきの子供についてなんだけど……」

 そう言った途端、大輔の纏う空気が一変した。緊張が走る。

「…………さあ、知らねえな」

「僕は天真のトーレスを既に知っていると言ったら?」

「それでもだ。……ヤツが何故、わざわざ俺に接触してきたかわかるか?」

「脅し、だろう?」

「当たらずも遠からずだ。警告だよ、アレは。なにかやろうってんなら、むしろわざわざ俺に接触しない方がいいんだよ。でもアイツは自分がここにいることを示した。今この場では、ヤツは本当に何もするつもりはないんだろうさ」



 そう言ってから、大輔は掲示板に視線を戻した。

「それって……魔導犯罪者が目の前にいるのに、指をくわえて見てろってことかい」

「ああ、そういうこった」

 大輔は事も無げにそう言う。

「でも僕なら――僕なら捕まえられる」

「そうかい、そりゃ大層なこったな。でも動くな、魔導士協会への通報もだ」

「どうして……!」

 僕は苛立ちながら大輔に詰め寄る。けれど、大輔は表情を変えずに言う。

「ヤツを下手に刺激すると何が起こるかわからねえんだよ!」

「でも! こんなところで放置するだなんて!」

「誰もがお前みたいに強いわけじゃねえ!」



「……君ともあろうものが、怖気付いたのか?」

「お前が俺のことをどう評価してるかは知らねえけど、一般人にどれだけ被害が出るのかを考えりゃビビりもするぜ。一般人がお前と同じぐらい強いんなら、俺も行けって言うだろうけどな」

 僕は押し黙る。確かに……人を魔物(ガルナ)に変える手口もわからないままなのは危険かもしれない。

「……わかった、なら、被害を出さなければいいんだね?」

 そうだ、大輔の懸念はもっともだ。

 だから……相手に何もさせなければいいんだ。人を守りつつ、魔導犯罪者も捕まえる。それも、迅速に。

 生徒会の応援も呼んでおいた方がいいだろう。とは言え、到着を悠長に待ってる暇はないかもしれないけど。



 その時、大輔の遥か後ろにトーレスが歩いているのを見た。両親も一緒にいる、間違いない。

「よし……じゃあ次のアトラクションに向かおうか。これなんか待ち時間が短くていいんじゃないかな?」

「? まあ、そうだな。これ乗ったら飯でも食いに行くか」

 大輔はそう言いながら、みんなの元へ歩いていった。

 僕は遠くに見えるトーレスを視界の中心に捉え、小声で詠唱を始める。

「……歴史に(イロサフテ)葬られし(レトゥニデル)斥候よ(トゥキャスル)

 これは、禁呪だけで成り立つ詠唱だ。対象に、僕にしか見えない光の柱を発生させる。マーキングする、と言えばわかりやすいかも。

 更に、詳細な地図があればそちらにも表示される。もちろん僕にしか見えない。

 これでトーレスの動向はわかる。どこかで折を見てヤツを倒せば逮捕ができる。



 誰一人として魔導犯罪者は見逃す訳にはいかないんだ、僕のような人間を出さない為にも……!



      〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜



 危なかった。もしもトーレスを追い掛けるなんて言い出したらどうしようかと本気でヒヤヒヤした。

 半魔(ナルクス)とは言え、自我を失ってしまえばただの魔物(ガルナ)だ。そうなると、魔力(エナ)の多い人間を襲うようになるはずだ。

 だがあの日の半魔(ナルクス)はトーレスを襲わなかった。つまり……トーレスには半魔(ナルクス)、ないし魔物(ガルナ)を使役する力か、それに類する何かを持っている可能性がある。

 夏休み中の遊園地なんて人の多い場所で半魔(ナルクス)を出されでもしたら、軽い被害では済まないだろう。

 なにせ、半魔(ナルクス)が殺した人間は結界の中でも復活できないのだから。



「うう……」

 エリーが完全にダウンしていた。何事。

「完全に酔ってしまわれたようですわ」

「あー、まあしゃあねえよ。次はあんまり揺れないやつだし、そっちで休憩するのがいいだろうな」

「すまない……」

「謝るなって。歩けるか?」

「少しふらつくけれど、まあ大丈夫さ……うわっ?」

 エリーがふらついて倒れそうになる。

「おっと」

 俺は慌てて抱きとめた。やはり2連続はキツかったようだ。

「――――――!」



「? どうした? 顔が赤いぞ?」

 まさか風邪か? 具合が悪いのは絶叫マシンだけのせいではないのかもしれない。

 エリーの額に手を当てて熱を測ってみる。

「んー……風邪って訳じゃなさそうだな」

「わ、あわ、あわわわわ」

「なんでそんなキョドってんのお前」

「い、些か距離感が近いと思うのだよね、僕は!」

「言われてみりゃそうか。悪い悪い」

 なるほど、恥ずかしかったわけか。大衆の面前でやるような事じゃなかったな。

 俺はエリーがちゃんと立てることを確認して、手を離した。

「よし、行こうぜ」



      〜〜〜〜〜エリオット・レッセリアの場合〜〜〜〜〜



 あわわわわわ! あわわわわわわわわわ!

 ど、どうしよう、どうしよう!

 抱き締められた上に……額を触られた!

 たしかこっちでは熱がないかどうかを額によって判断するのだったね。つまり大輔くんは僕の身を案じてくれているというわけだ!

「お兄様お兄様。嬉しいのはわかりますけれど、置いてかれてますわよ」

「…………ハッ! す、すまない。急ごうか」

「あと、あまり興奮し過ぎないでくださいまし。いいですか? わたくし達はヒューロであると同時にエルナーでもあるのです。あまり感情を昂らせると……半獣になりますわよ?」

「わ、わかっているとも! ……アーザルという人族(ヒューロ)社会では他種族はとても生きにくいこともね」



「それは結構ですわ」

 エミリアは周りを軽く見回してから、僕の耳元に口を寄せて小声で話し始めた。

「……いいですか、大輔さんという想い人を得て初めてスラーマの期を迎えた今、お姉様は高揚期を超えなくてはなりません。お母様でさえ2度目の高揚期に打ち勝てずお父様を襲ってわたくし達をもうけたわけですし……」

「ま、まさか……。僕は純血のエルナーじゃないんだよ? 祖エールレーンのようにはならないと思うけれど……」

「いいえ、混血のエルナー達もみな高揚期を迎えますわ。とは言え、ぶっちゃけ超心配なのでこれを今日の食事の後に服用なさってくださる?」

 エミリアはそう言って、僕に錠剤を手渡した。



「これは……もしかして」

「ええ、こちらの世界の医師に作っていただきました。フェロモンを抑える物です」

「ふ、ふぇろもん?」

「お姉様にわかりやすく言うならば……色気、みたいなものです」

「……もしも服用しなかったら?」

「すぐにどうこうはならないとは思いますけれど、男にしてはやたら艶っぽいな、とは思われるかもしれませんわね。わたくし的にはさっさと女だとバラして付き合っちまえと思っているのですけれど」

 それはダメだ。僕は今まで男として育てられてきて、今更女らしくなんてことはできない。

 間違えて付けられたエリオット、という名前。本当なら僕がエミリアで、エミリアがエリオットだったはずなのに。

 レナウセムでは、名前とは神と契約するものだ。創世神である祖エールレーンに認識してもらうためのもの。故に、名前を変えることができない。名前を変えてしまえば祖エールレーンはその人間を認識することができなくなり、魔法が使えなくなってしまう。



 そして僕は、男として育てられることになった。名前は絶対だし、貴族という立場でもあったから、そうせざるを得なかった。親も何度も僕らに謝ったけれど、僕は後悔していない。エミリアもまた、曰く女性の格好をすることが趣味になったらしく、気にしてはいないようだった。


 だけど。


 もしも普通の女の子だったら、僕は大輔くんとここまで仲良くできていただろうか。

 男友達、という立場だったからこそ、大輔くんと一緒にいられているのではないか?

 そして、もしも実は女でしたと言ってしまったら、どうなるだろう。

 今まで騙していたのかと幻滅されるだろうか。変わらずに接してくれるだろうか。

 けど……もしも愛の告白をして、断られたらどうしよう。

 それなら、僕は……このままでいい。



「これはありがたく貰っておくよ。まだ高校生なのに高揚期で大輔くんを襲ってしまったりしたら……何より彼に一番迷惑を掛けてしまうしね」

「……まあ、それはそうですわね。わたくしとしたことが、面白さを優先してしまいましたわ……」

 僕はエミリアの手を取って駆け出す。

「ほら、行こう! だいぶ遅れてしまったからね!」

「……ええ、そうですわね」

 もしも、いつか女だと発覚してしまうその日が来るとしても。

 それまで僕は、彼の友達でいたい。

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