ある夏休みの1日・1
〜〜〜〜〜公崎悠人の場合〜〜〜〜〜
後日。
僕は生徒会室で、生徒会への参加を希望した。
「ふうん。ま、やる気があるならそれに越したことはねーわナ」
会長はそれだけ言って、僕の参加を認めてくれた。
「よし、じゃあ書類はこっちで作っとくから、帰っていいゼ」
「えっ?」
い、いいんですか、そんなんで。
「まずは正式にランクSSの申請が通るのを待たなければなりませんからね。今、君のランクは書類上はDということになっていますが……生徒会に入ることができるのはランクSのみですからね」
「昨日の再計測はそういうことだったんですね」
「です。まあ、純粋にオレの興味って面もあるんですがね」
物好きな人だなあ。僕みたいな赤の他人のためにそんなことができるだなんて……。
「というわけで、魔導士協会の返答には少し時間が掛かるでしょうから、まあ待っててください。なにか進展があったらこっちから連絡しますから」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなわけで、僕は学生寮に帰ってきた。
ランクSS、か……。
僕としてはあまり目立ちたくないから、そういう大層な肩書きはいらないんだけどな。
やれやれ、むしろランクDだった方が楽なのになあ。
「ただいま」
「…………おかえり」
部屋に入ると、葵が迎えてくれた。
「いやあ、なんだかもう慣れちゃったなあ」
「…………どういうこと?」
「自分の部屋に女の子がいるってことにさ。ここ、一応男子寮だし。エミリアちゃんもそうだけど、結構自由だよね……」
「…………あの兄妹は特例だと聞いた」
「留学生だし、向こうの文化的に色々あるのかもねえ。で、君は?」
「…………ルール違反だけど?」
むん、と胸を張って葵は言った。いや胸を張ることじゃないよ。
「僕らの学年は男子の数が奇数だから、まあ誰かが1人部屋になるのは必然なんだけどさ」
「…………ちなみに女子は偶数」
「君の元ルームメイトが1人部屋になってるじゃないか!」
「…………問題ない。…………というか、私はむしろ逃げてきたに近い……」
逃げてきた? どういうことだろう……。
「…………それはそうと、これを見て欲しい」
葵が僕に2枚のチケットを見せてきた。
「なんだい、これ?」
「…………おきのとりパーク団体チケット、おきのとり健康ランド団体チケット」
「なんで? なんでそんなの持ってるの? 美術館の時もそうだったけど無から精製してるの?」
「…………私は懸賞マイスター。…………家具類は一切当たらないのにアウトドアな物ばかり当たる。…………世界はもう少しインドア派に優しくするべき」
「当たってるだけで凄いと思うよ……」
「…………というわけで、行こう?」
そういうことになった。
〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜
悠人が俺の部屋を訪ねてきた。
「や、大輔」
「よう。どした?」
横には幽ヶ峰を侍らせている。アルカニアは女子寮住まいなので、何故かここに住んでいる幽ヶ峰が正妻ポジションを確保しているな。しかし、女も住んでる男子寮ってなんなんだろうな、幽ヶ峰しかりエミリアしかり。
「葵がこんなの当ててね」
言って、悠人はチケットを取り出した。遊園地とプールの団体チケットである。
「美術館の時からそうだけど幽ヶ峰は一体何者なの? チケットの錬金術でも嗜んでんの?」
「うん、僕もそうなんじゃないかと思ったよ、本気で」
「…………行く?」
「いいのか?」
「もちろん! 康太くんもシエルちゃんもね」
「サンキュー。で、いつ行くんだ?」
「他のみんな次第かな? とりあえず先に遊園地に行くつもりさ。プールの日程もまた考えないとね」
いつものメンバーになりそうだな。
「俺たちはどうせ暇してるから、いつでも大丈夫だぜ。なんなら今からでも行けるぐらいだ」
「……暇なんだね?」
「宿題はもう終わらせちまったしな……」
俺は最初にまとめてやってしまうタイプなのだ。面倒なことって先にやっとくと楽なんだよな。
ちなみに康太は現時点で真っ白です。まあ夏休みに入ってから1週間程しか経ってないし、猶予はあるんだが……。
「…………しゅく……だい……?」
「あっ、葵が痙攣を!」
「アレルギーかなにか?」
こいつも白紙なんだろうな……。
「じゃあ僕らはちょっと買い物に行ってくるよ。詳細はまたメッセージ送るね」
おー、と返して2人を見送った。出掛けるついでのお誘いなわけだ。お隣さんだし、声掛けた方が早いしな。
「大輔ー、なんだったのー?」
「遊園地のお誘いだ。明日か明後日に行くってよ」
「やったあ!」
「ま、楽しみにしとこうぜ」
無料でいける遊園地は……最高だな!
〜〜〜〜〜佐村斑鳩の場合〜〜〜〜〜
「斑鳩、前のシャツの鑑定結果出たらしいで」
公崎くんを見送ったあと、生徒会室で帰る準備をしていました。
そこへ、内線が掛かってきたのです。
「やっとですか。で、ウチの生徒だったんでしょうか」
「それがなぁ、その……わからんかったらしいんよ」
「わからなかった?」
「血液からDNAが出えへんかった……というか、血液のほとんどがなあ、魔物の魔力と同じ成分だったらしいんよ。それも、あの現場で死んでたもんとは違うタイプの」
「……なんですって?」
となると、半魔、ということか。
「協会の推理やけど、半魔同士が争った結果やないかって。あの場にあった被害者の体内から、あの場で死んでた半魔と同じ魔力が検出されたみたいやから、あのシャツを着てた方が全部解決してもうたって感じやろか」
「まあ、そう考えるのが妥当でしょう。あの件以降、結界内の死者や行方不明者は確認されていませんし……もしかすると」
「半魔殺しの半魔がおる、とでも言いたいん?」
「……まあそういうことです」
もしもそんな存在がいるのならば、仲間にしたいところなのですが。
「ともかく、次の動きがない限りはこちらも動けません。人を襲わないことを祈るしかないでしょう」
しかし……何者なのでしょうか、半魔というのは。
〜〜〜〜〜鹿沼大輔の場合〜〜〜〜〜
「――――!」
ドクン、と。俺の体内で何かが蠢いた。声にならない声を上げてしまう。
「? どうしたの、大輔?」
康太は、ゲームの手を止めて俺の方を向いた。
「いや、なんかこう……くしゃみが出そうで出なくてな……」
息をするように嘘をついた。慣れたもんだ、こういうのは。
「あー、辛いよね、それ」
とだけ言って、康太はまたゲームに視線を戻す。シエルと一緒に遊んでいるのだ。もちろん、CERO指定は守っている。
「そういや、ティッシュが切れそうだったよな。購買行ってくるわ」
「んー」
「いってらっしゃーい」
テレビ画面から目を離さず声だけで送られた。
見られないので好都合だ。
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テスト勉強をしていたあの日に回収しておいた立ち入り禁止の屋上へ直通の魔法陣を使い、また屋上へ向かった。もはや見慣れた場所だ。
「――――ッ! ぐ、う、ううううううううう!」
魔物の魔力が日に日に増大している。俺の内側を侵食している。
これが、イェルヴァさんの言っていたことだろう。俺は今まで、全身の3割のみが魔物だった。半魔とも呼べない、中途半端な存在。
だが、それが遂に進行したということだ。
表と裏だと、イェルヴァさんは言った。表が人間であるならば、裏は魔物であるのが半魔だと。
体内を痛みが駆け巡る。俺はその場に倒れ伏し、のたうち回った。
あの日と同じ痛みだ。自分の身体が自分のものでなくなってゆく感覚。
「げほっ」
咳とともに、吐血した。しかしその血は床に触れてすぐに、蒸発するように掻き消えてしまった。
それを境に、痛みもまた消えた。
わかる、感じる。
違う。中途半端だった今までとは、明らかに。
魔力の量が増えたのだろうか、世界の空気が全く違う。
流れる魔素を感じる。内なる力を感じる。
肉体の半分が魔力になった今ならわかる。
器が、人間としての俺と同じ大きさの器が出来たのだ。平たく言えば、2倍になった。まあ、元々の魔力が少ない以上、増えたところでどうしたというところはある。全部合わせてもせいぜいランクCとかBぐらいじゃないだろうか。これでやっと平均レベルとは……。
自分の魔力の残量までくっきりと感じられる。魔物としての器は生まれたばかりで空っぽだ。
そうか、魔力の上限は魔素に対する感受性に直結する。今までの俺は鈍感だったという事だ。
だが、自由に使うのはまずい。
魔物の魔力だ。これを使って魔法を行使したとして、それが誰かを傷付けた時、何が起こるかわからない。本当の意味で人を傷つけてしまう恐れがある。
魔物は、結界の中でも人を殺せる。
なら、絶対に使うべきではないだろう。
何をするべきかだけを考えろ、余計なことは考えるな。
感傷に浸るな、自分はまだ人として生きられるのだから。
どうせもう、元には戻れないのだから。




