ランクSS
〜〜〜〜〜公崎悠人の場合〜〜〜〜〜
「失礼します」
僕は先日言われた通り、生徒会室を訪れていた。
「入れ」
女性の声で入室を促され、僕は扉を開ける。
入ってすぐ目に付いたのは向き合う形で置かれた一組のソファと、間に机。そして部屋の奥には生徒会長の机と椅子……なのだが。
「…………へえ、お前が、ねえ」
生徒会長の机に思い切り足を乗せて寛いでいる、女ヤンキーがいた。
口には何かを咥えている。離れたところにいる僕からはタバコにしか見えない。
「え、ええと……?」
「佐村ァ、お前が連れて来たンだろ、あたしはそういうの苦手だからヨォ、頼むぜ」
「わかってますよ、会長。むしろ会長が入ってくると話が拗れますので、大人しくココアシガレット舐めててください」
「今日はチュッパチャプスだ」
「これは失敬」
なんだ……どういう状況なんだ……!?
「とりあえずそこにかけてくれるかい」
「はい」
促されるままソファに座る。対面側に佐村先輩と潜堂先輩が座った。
「さて、まずはキミについて聞きたいんですが、よろしいですか?」
「え? ええ、まあ」
「ランクがD……でしたね?」
「そうです」
僕個人としてはAかBぐらいはあると思っていたんだけれど……まあ、測定器がそう示したんだからそうなんだろう。
「隣室に最新の魔力測定器を用意させました。再度魔力を測ってみてください」
そう言って、佐村先輩は立ち上がり、ついてきてください、と言って生徒会室の隣室に僕を案内した。
入学式の日に見た計器に似たものが設置されている。
「まあ普通に考えて、禁呪を使える人間がランクDであるはずがない、ということです。あの日、キミが使っていた計器なのですが……魔力を溜めておくタンクが破損していたんです。まあ、容量を超えるようなことがない限り計器は正常だったので、あの日はそのまま計測が続きましたけどね」
ええと……どういうことだろう。
「ま、とりあえず計測をしてくれれば説明しますよ」
……僕自身も少し気にはなっていたし、言われた通りにしよう。
計器に触れ、魔力を注ぎ込む。注がれた魔力はタンクに溜められてゆく。
大輔から聞いた話なのだけれど、ランクSは天空旅団の中でも最強だったと呼ばれる聖騎士を基準にしているらしい。聖騎士の魔力量をランクSの上限値とし、そこからA、B、C、Dと分割されていく。正確に言えばEまであるのだが、これは魔力を持たない無魔力者を指すので関係ない。
「…………」
僕は魔力を注ぎ続ける。原則、倒れる寸前まで放出しないといけないので大変だ。とはいえ、計測が終われば戻ってくるのだけど。
やがて魔力を出し切った。疲れた……。
「まさか、本当にこんな日が来るとは思いませんでしたよ、公崎くん」
「……え、なんですか?」
「メーターを見てみてください」
「え? ――ら、ランクSSぅ!?」
「魔導士協会が正式にランク上限をSSであると認可しました。まあ、レナウセム含め現時点ではキミだけですけどね」
そ、そんなこと言われても。
……でも、自分の魔力量については深く考えたことはなかったな。
そんなに沢山あるとは……その、思ってもみなかったけど。
「実際のランクがわかりましたから、キミのDってランクも修正されます。一応、全クラスにSは2人以上配置するのが決まりなんですが、今年は奇数だったのでキミのいるB組はランクSが1人しかいませんでしたし、これで体裁上のバランスは取れるでしょう」
「いや……取れてないと思います……」
確か、他のクラスよりAとBの人達が多かったはずだ。
「とはいえ、今からクラス替えもできないのでねえ。まあ、来年なんとかなるでしょう。あー、それで実際のランクがわかったところでキミを呼び出した理由の方に入るのですが」
「やっとですか」
「必要なことだったんです、そう気を悪くしないでください。……まあ一旦生徒会室に戻りましょうか」
言われるまま生徒会室に戻り、またソファに腰掛けた。
「さて、ランクSSの公崎悠人くん。キミに1つ相談なのですがね」
「生徒会に入る気ぃあらへん?」
……横にいた潜堂先輩がそう言った。
「ああっ、オレの決めゼリフなんですよ!?」
「間ぁ持たせすぎやさかい、まどろっこしゅうてしゃあないんやもの」
「うう、せっかちですね。大阪人を笑えませんよ」
「別に嫌ってやしまへん」
「はぁ……で、どうだい? 生徒会に入らないかい?」
「ま、待ってください。色々説明不足だと思います」
そもそも僕は生徒会がどういう組織なのかさえも知らないのだ。
「そうですね、では簡単に説明しましょう。我々は表向きは他の高校と同じく生徒による自治体として存在しています。しかし、その実態は……」
「裏ではなぁ、魔導士候補生の中でも強い人ら、つまり生徒会メンバーがプロと連携して魔導犯罪者やら魔物を追っかけてるんよ〜」
「…………まあそういうことです」
つまり、生徒会メンバーは魔導士候補生の中でもエリートで、プロと同じ現場に立てるということか。
「昨日キミと出会ったのも、プロの要請を受けたからだったんです。まあ、到着した頃には全て終わってましたけどね」
「……1年生の僕でも、魔導犯罪者を逮捕する権限がありますか」
「ええ、生徒会に入りさえすれば、3年生や大学部の生徒達よりも強い権限が与えられます」
「それは……いったい?」
「単独行動の許可です。無論、その後の不始末は自己責任になりますが、ね」
それは――願ってもないことだ。
「あ、もちろんオレたち生徒会に与えられた特定範囲内のみの話です。エルゼラシュルド周辺区域はどこで魔導犯罪者と戦おうが自由ですが、そこから外に出ると正当防衛以外での戦闘は許可されません」
「逆に言えば、周辺区域なら自由やーいうことやね」
僕は決意を固めた。元々、魔導犯罪者を捕まえるためだけに志した魔導士だ。なら、そのチャンスをみすみす逃すわけにはいかない!
「僕、やりま――」
「待て、1年」
「す――って、え?」
僕の声を遮ったのは、生徒会長だった。
「もうちょい考えろ、今この場で答えを出すンじゃねぇ。明日だ、明日同じ時間に来い。それでもやるッつーんならよ、仲間にしてやる」
まあ、確かにそうか。多分意思は変わらないだろうけど、1日考えてきたと言った方が心象はいいだろう。
「わかりました。じゃあ、失礼します」
「オゥ、しっかり考えてこいヨ」
僕は、生徒会室を後にした。
〜〜〜〜〜生徒会室にて〜〜〜〜〜
「もー、なんでああいうこと言っちゃうんですか。せっかく新人ゲットのチャンスだったのに」
斑鳩は不満そうに言った。
「二つ返事で頷くようなやつが使いモンになるか。あとになって後悔してますなんて言われちゃ、たまったもんじゃねえからヨ」
「そういうとこしっかりしてますよね、会長」
「書類仕事とかは全部ウチらがやってるけどな」
「い、いーだろ戦ったりすンのはあたしがやってんだから!」
そう言って生徒会長、夜野 春乃は頬を少し膨らませた。
「確かに会長の煌星魔法は強いですからね」
「あたしはバカだしよ、せめて身体動かすぐれーはしねーとナ」
「うふふ、まあウチらは会長についてってフォローするさかい、会長は好きにやってくれはったらええよぉ」
「へっ、言ってくれるじゃねえか。……よし、今日はもうなにも無さそうだし、あたしらも解散するか」
「そうですね。帰りましょうか」
「斑鳩、機材直しときや」
「わかってますよう」
斑鳩は後頭部を掻きながら気怠そうに立ち上がる。
「しっかし、お前もなんだって変な細工までしてあの1年を引き入れたんだ?」
「? 変な細工ですか?」
「ランクSSなんてでっち上げてまでよ、そんなに欲しいのか、アイツ」
「いやまあ確かにランクSSの存在そのものはでっち上げましたけど、これで認可も通ることでしょう。なにせ、機器に細工はしてませんから」
ランクSSが認可された、というのは後輩の見様見真似でついた大嘘だった。飄々と嘘をつく、というのは斑鳩のとある後輩が普段から行っていたことなのだ。
春乃と紫音は怪訝な面持ちで斑鳩を見る。
「……冗談だろ?」「冗談やろ?」
「マジですって。仲のいい後輩から聞いてたんです、自分と同じクラスに計測器をぶっ壊した、とんでもない生徒がいる……ってね。以前から新しい計器は発注してたんですよ。それで、まさに計器を壊したって生徒――つまり公崎くんに会ったものですからやってみたんですが、本当に旧計器じゃ測れない量でしたよ、アレ」
「い、いや、待て。一から説明しやがれ、時系列順にナ」
斑鳩はいいですよ、と言ってから始める。
「まず前提として、オレは中学時代から仲のいい後輩がいます。頻繁にSNSで絡んだりするような仲ですね。で、その後輩がここに入学したあと、妙なことを言ったんです」
「それが、計器を壊したって子のことなわけやね?」
「その通り。実際、オレらも把握していたでしょう? 当時は経年劣化とかで片付けた記憶がありますが」
「せやねえ、がっつり割れとったねえ」
「まさにそれが公崎くんによるものだったわけです。ランクSまで測れる計器を壊したわけですから、当然それ以上のものを測るための計器が必要なわけで、オレが勝手に発注しときました。メーカーさんには変な目で見られましたけどね。で、あとは会うだけってとこだったんですが……どうも直接会う機会がなかなか取れず……昨日、偶然ながらやっと会えたってとこです」
「でも、なんでそんなに見ず知らずの子のためにやったん? 後輩ちゃんに頼まれたからなん?」
「……言っときますけど、後輩、男ですからね」
不穏な空気を察した斑鳩は先手を打っておいた。紫音は他の女子と話すだけで機嫌が悪くなるので、彼は常に気を付けているのである。
「まあ、なんと言いますかね」
斑鳩は、少しだけ過去を思い出しながら、続ける。
「不当な評価をされている人がいることが――許せないだけ、なんですよ」
誰よりも、誰よりも傷付いていたのに。
自己を殺し、周囲の空気のためだけに、3年間を過ごした自分の後輩のことを。
なにもしてやれなかった自分のことを。
斑鳩は思い出して――しかし、仄かに蘇った苛立ちを胸の中にしまいながら。
「ええ、ただ……それだけなんです」
彼は、笑顔を見せた。
「で――それは叶ったかよ?」
「勿論。本当にランクSを超えた人間が出たとなれば大騒ぎでしょう。先程のデータも確保済みですし、ね」
「そらよかった、うん、よかった」
一瞬だけ曇った斑鳩の表情に紫音は気付いたけれども、それだけ言った。
「さあ、帰りましょうか。明日も彼は来ることですしね」
「あァ、そうだな」
そうして、3人は生徒会室を後にした。




