決闘の相手は王子様
アルカニア城。
広大な敷地と、美しい景観から人気の観光スポットとなっている。
現在進行系で王族が住んでいながら、中庭や聖堂など、国民に一般公開されているスペースも多いらしい。でも、安全面の観点から王族が通る際は一部通行禁止になったりするとか。
そこの、中庭。
「貴様はアーザル人だったな。ならば一応、この我が! 決闘の規則を説明してやろう!」
ズビシィッ! と僕を指差すお兄さん。
決闘騒ぎになって、流石に会場で戦うわけにもいかなかったので広い場所に出てきたのだ。
結構な人数のギャラリーがいる。うう、見られてるなあ。
「この公明正大な兄の中の兄の優しさに感涙しながら聞くがいい! この決闘とは――」
「お互いが同時に魔法を撃ち合って、先に当てた方が勝ちよ」
「……まあそういうことだ!」
なるほど。
「いい? 先に魔法を唱えて、かつそれを当てないといけないの。決闘中は決められた範囲の中なら動き回ってもいいから、至近距離まで近付いて単純な詠唱の魔法を当てるのも1つの手ね」
そうなると、僕は結構不利だ。1発当てるだけでいいなら、禁呪を唱えなければならない僕は魔法の発動がかなり遅くなってしまう。
動き回って相手の魔法を回避した上で、魔法を撃つ。禁呪によるタイムロスを考えると、相手が2~3発の魔法を撃つ間隔で僕が1発撃てる程度だろう。
「神よ、我らの聖なる戦いを見届けよ!」
ミオのお兄さんがそう唱える。だけど、何も起こらない。
「悠人も唱えて」
「え? あ、うん」
同じ詠唱をする。すると、僕とお兄さんが大きな半透明のドームに囲まれた。
触ってみると硬かった。防御魔法とは少し魔力の質が違うのかな? そう考えていると、ミオが魔法越しに話しかけてきた。
「これは決闘をする時だけ効果がある魔法なの。この魔法は内側からも外側からも干渉できなくするけど、代わりに決着がつくまで消えないのよ」
……防御魔法に転用するのは難しいかもしれない。
「というか、禁呪がなくても詠唱できたんだけど……」
「これ、空気中の魔素だけを使用する魔法だもの。人間の身体を経由する必要がないからね。代わりに、魔素の消費は大きいからアーザルでは使えないわ」
そんな魔法もあるのか……やっぱり、僕らの知ってるような魔法は氷山の一角に過ぎないんだろうな。
「またミオと親しげに話しおってからにいいいいいい!」
……あっ、お兄さんが地団駄を踏んでいる。
「ええい! さっさと決闘を始めるぞ貴様ァ! 祖はグラン・ザナス! 子たるロイ・アルカニア!」
えっ、なにそれ。
「あれ、レナウセムの公的な口上みたいなものよ。悠人はアーザル人だから、そういうのは無しで名乗ればいいわ。……あと、名字が先でも翻訳段階で変わるから、そこも普通でいいわ」
「便利だなあ翻訳。ほんとどういう原理なんだろう」
大輔とか、意外と知ってたりして。彼は本当に色んな知識があるようだし。
「えーっと、公崎悠人です。ロイさん、よろしくおねがいします」
「ええい好青年の皮を被りおって! 化けの皮を今剥がしてやるからな!」
き、嫌われてるなあ……。
「今回はアタシが立会人になるわ。結界の中央に魔力で出来た短剣が落ちてくるから、それが地面に刺さった瞬間、決闘の始まりよ」
落ちてくるのはコインじゃないんだなあ。
僕は短剣が落ちてくるのを待つ。やがて、まるで水滴のように、結界の魔力が頂点部分に溜まり、短剣の形になって落ちてきた。
地面に突き刺さり、決闘が始まる。
「炎の槍よ!」
「怨嗟の英雄の力をもって!」
そこまで言ったところで、ロイさんの魔法が発動する。僕は横方向に飛び、これを躱す。
考えろ、なんの魔法を撃つかを! 精密射撃を狙って単純な詠唱にするか? いや、回避されるリスクを考えると小さいモノじゃダメだ。一撃で倒すためには……。
「ちいっ、避けるか! 二十の炎の剣よ!」
マズい、数に物を言わせてきた!
急いで、かつ落ち着いて詠唱するんだ僕……!
「限りなく大きな水の珠よ!」
間に合った!
僕の掌から、結界の大きさギリギリの魔法陣が出現し、すかさず大きな水の塊が飛び出した。ロイさんの炎の剣をどんどんと消していく。
「あ、あれ?」
……いや、飛び出してなんかいなかった。結界の半分を埋め尽くしてもなお、僕の魔法陣から水は溢れ続けている。マズい、焦って魔力コントロールをしくじったかもしれない……!
「お、おい悠人とやら! これちょっと危ばばばばごぼぼぼっべびびびぶぶ」
「ろ、ロイさーん!?」
魔力で出来ているとはいえ、水は水。酸素はしっかり奪ってしまう。
しかも、僕が先に魔法を当てたからか、決闘の結界が消えてしまっている。このままではギャラリーにまで被害が……!
「でぃ、解除!」
僕がそう叫ぶと、水はゆっくり消えていった。
「ふう、危なかったあ」
「…………」
僕はほっと胸を撫で下ろす。ギャラリーには被害はないようだ。
「き、貴様……禁呪を使ったのか、今?」
「? ええ、まあ」
「それも、英雄詞だ。貴様が使用したそれは……使用できる者が限られる、禁呪の中でも最上位に位置する物。アーザル人の貴様がそれをどこで知った?」
「え、これってそんな凄い物だったんですか」
父さんが教えてくれただけなんだけどなあ。その旨を伝えてみる。
「そうか……いや、いい。貴様が妹と仲良くすることについてはもう我は何も言わん」
急に態度が急変したぞ? どうしてだろう……。
「悔しいが、英雄詞を語る男にこれ以上文句は言えまいよ。決闘にも負けたことだし、な」
そう言って、ロイさんはずぶ濡れのまま、僕の方へ歩いてきた。
そして、僕とすれ違いざまに小声で呟いた。
「聖騎士の担い手よ。……その力、誤るなよ」
「――っ!?」
今、聖騎士って……?
振り向くと、何事もなかったかのようにロイさんは歩いている。
「あと、ミオを傷物にしたら殺すからな。正夫になった時だけは許してやる。では、また会うこともあるだろう。これにて失礼する」
手をひらひらと振りながら、ロイさんは歩いていった。……風邪を引かないか心配だ。
それよりも、だ。
気になることは沢山ある。英雄詞とはなんなのか、何故僕が聖騎士の所有者だとわかったのか……。
……でも、きっと。
また会うこともあると、彼は言ったから。
僕はその時を待つことにしよう。
その時に語ってくれるだろうから。
「大丈夫、悠人?」
ミオは、ロイさんの後ろ姿を見つめていた僕に心配そうに声をかけた。
「ああ、うん。大丈夫だよ」
僕がそう言うと、ミオは安心したらしく表情が和らいだ。やっぱり優しい子だなあ。
「じゃあ、とりあえず逃げましょうか」
「え、なんで?」
ほんとになんで?」
「…………周りを見ればいい」
葵に言われ、僕は見渡す。ギャラリーがかなりざわついているようだ。
「王族は屈指の魔力保有者なの。全員がランクSってほどに、ね」
「遺伝って凄いねえ」
「それをアンタは遥かに上回る魔法で倒したわけ」
「……いや、僕はそんな。魔法の威力はだいたい禁呪のおかげだよ」
「悠人の中ではそうでも客観的に見れば大事件なわけ。さあ、アンタのところに人が集まる前に逃げるわよ! 魔力の多い男ってやたらモテるんだから!」
「えっ、ちょ、待って! 引っ張らないで!」
かくして。
僕のアルカニリオスツアー初日は、幕を下ろすのであった。




