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俺の友達が強過ぎるんだが。  作者: 日向 渡
外伝 とある少年のサマーバケーション
104/210

アルカニリオス見学ツアー

 異世界ランディースの、レナウセム地方。

 僕たちの住む世界とは異なる歴史、文化を持つ文字通りの異世界だ。

 レナウセムそのものが惑星なのではなく、あくまで広大な惑星の一地方でしかない。

 そして、その中でも一二を争う巨大な国家がある。

 それが、アルカニリオスだ。

 最も早く僕らの世界――彼らが言うにはアーザル――と繋がったのはアルカニリオスの領地だった。

 日本が魔法先進国である所以らしい。



      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「や、やあ……君が我が娘のご学友かね……? うぐっ」

「え、ええ、まあ」

「良かった、気が強い子だからね、友達ができるか心配だったんだ……」

「いい子だと思いますよ。まあ……確かに気は強いですけど」

 そこまで言ったところで、目の前の男は倒れ伏してしまった。

「あら、貴方? 体力が足りなくなってきたのではなくて?」

「は、ははは……私ももう歳かな……」



 僕の眼前には、倒れた30代くらいの男性と、その背中に座っている30代くらいの女性。あー、ミオの両親……らしい。

 アルカニリオス城に着くなり「友達を一人で連れてきなさいって言われたのよ。ちょっとアタシの両親に会ってくれない?」とかとんでもないことを言われ、部屋に入ってみたら王様らしい人が王妃らしい人の椅子になっていた。玉座は部屋の奥にあるのに。

 僕があからさまに反応に困っているのに、周囲から特に助け舟は来なかった。なんなら、状況の説明さえ。誰か助けて。



 そこで、謁見室の重厚な扉が開いた。

「もう終わったかし……うわ、またやってる……」

 ミオが入ってくるなり非常にうんざりした顔をしていた。日常茶飯事なの?

「お母様、それ恥ずかしいからやめてよ!」

「あら、これでもゼルさんは喜んでいるのよ? ね、貴方?」

「正直勘弁して欲し……」

「ア・ナ・タ?」

「大好物です…………」

 せ、世知辛いッ! 異世界でも男の立場はこんなもんなんだね……。



「でもいいの? あの人、王様なんでしょ?」

 小声でミオに問うと、ミオは「あー……」と微妙な表情をした。

「私のお父様だけど、立場上は正夫(せいふ)っていうの。王ではないのよ、厳密に言えば」

「……どういうこと?」

「後で教えたげる。とりあえず、この場を離れたいわね。アレ、娘的にキッツいのよ」

 実の親が目の前でSMプレイを繰り広げている女の子の表情というのを、僕は初めて見たかもしれない。

「そうだわ、いいことを思いつきました。ミオ、その方を今日の社交会にお呼びなさい」

「えっ? いや、アタシは別に出るつもりは……」

「アーザル初の友人を貴女の兄弟姉妹に紹介しようと思うのよ。ええと、ご学友さんはそれでよろしいかしら?」

 ……あれよあれよという内に話が進み、急に振られてしまった。



「そのあたりの判断はミオに任せますよ」

 と答えると、ミオは溜め息をつく。

「まあ、元から父様母様に紹介するだけで終わるとは思ってなかったけど……はぁ」

 そうだ、確かミオは異性の友達ができたのなら紹介しろとご両親に言われて、僕を連れてきたんだった。以前は同性の友達として旅原さんを連れてきたらしい。

「悪いけど、夜の予定は決まったみたい」

「君主催のツアーだ、異論はないさ」

「じゃあお父様、お母様、アタシ達はこれで。お昼にはまだ時間があるし、こっちの繁華街を案内するわ」

「いいね、楽しみだ」

 僕はミオのご両親に会釈して、部屋を後にした。これ大丈夫? 無礼とかじゃない?



      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 悠人たちが去った後の謁見室のことである。

「なあモーラさん、いい加減その……来客が来る度に私を椅子替わりにするのやめない?」

「いやだわゼルさんったら。女王は威厳が大事なのよ、威厳が」

「向こうの言葉で……そう、サディストというらしいよ、モーラさん」

「あら、それってばこっちの言葉でどういう意味かしら? “サイコーの貴婦人”?」

 ゼルはしまった、と口を閉じる。ゼル・アルカニアはアーザルオタクである。特にその趣味のない妻、モーラ・アルカニアの前では向こうの言葉は使わないようにしていたのだが。

「あー……そう、そういう意味さ。素晴らしい言葉だね、まったく素晴らしいとも!」

「ところで、今ググッたら他人に肉体的・精神的苦痛を与える人、だそうですわよ、ゼルさん?」



「…………いつから携帯電話を?」

 そんなの今まで持ってなかったのに、という顔をした。

「つい先週ですわ。侍女の子達と電子文通したりしてますのよ」

「やっほーい異文明ってスバラシイナー……」

 やっちまった。今のゼルに相応しい言葉である。

「それにしても、さっき来た子……名前なんて言ったかしら?」

「ユート・キミザキだったかな?」

「なるほど、ユートね。そのうち、ユート・アルカニアになるかもしれない子」

「……本気かい?」

「あの従順さ……というか、水のごとく我が娘に流される主体性のなさ……完璧ね」



 ゼルは押し黙った。黙って、思う。

 ――私の若い頃に……そっくりだなあ……。

 いつの間にか、正夫になっていた。もちろん、彼女のことは好きだ……否、愛している。他の人なんて考えられないほどに。

 愛しているのだが。いつ結婚が決まったかを、とんと覚えていないのだ。これはきっとゼルが今まで流され続けてきた結果なのだろう。

 というか、こう、モーラと食事したあと眠くなって……気付いたら婚姻の儀の真っ最中だった。

 儀式の司祭は自分の血印と名前が記された紙を持っていた。もちろん、自分で記載した記憶はないのだが。



 まあ、ミオはそんなタイプじゃないし大丈夫だろうと一人心中頷いた。

「ところでゼルさん?」

「なんだい?」

「お忘れかもしれませんけど、どうやらわたくしはサディストのようですわ」

「そうだね、サイコーの貴婦人だとも」

「…………今晩、足腰立たなくさせて差し上げますので、覚悟してくださいまし♡」



 ミオはまだ知らない。

 数年後、新たな妹ができることを。



      〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「いい? 基本的にレナウセムは女性優位社会なの。今や軍や騎士団の人間のほとんどが女性なのよ」

 城を出て、僕はミオにこの世界……レナウセムについてレクチャーを受けていた。

「それはなんというか……すごいねえ」

 そもそもレナウセムを作ったという創造神が女性だったことから、女性の方が魔素(マナ)に対して適性があるとかなんとか。

「うちの国で一番偉いのは女王なの。だけど、それとは別に王もいるわけ。そっちの世界みたいに女王と結婚したから王になるわけじゃなくて、女王と結婚した人は正夫に、王と結婚した人は正妻になるのよ」

「んー……んん?」

 い、イマイチよくわからない。

「そちらで例えるなら……女王が首相で王が大臣のようなものよ。首相や大臣の妻は政治には関わらないでしょう?」

「あー、なるほど!」



「ってことは、完全に王政なの?」

「議会もあるわよ。王家議会と国民議会って2つに分かれてて、どちらかが何かしらの案を出すと、もう片方は対案を出さなければならないの。王家議会は国益を、国民議会は国民の利益を第一に考えなければならないの。そっちで言う与野党みたいな区分はないわね」

 なるほど、面白いなあ。

 呑気に色んな制度なんかを教えて貰いながら歩いているうちに、僕らは城下町の中心街に到着した。

 基本的に建物は石材で作られているようだ。総じて建物はそこそこ高く、4~5階建ての建物がずらりと並んでいるが、個々の横幅は狭い。

 ゴシック様式に近い。近いんだけど、こう、バロック様式まで混ぜてしまったような歪さがある。

 一見するとブリュッセルのグラン=プラスのようだけど、見たことの無い装飾がされていたりする。



「これらはダァレン様式と言って、古くから伝わる建築様式で作られているの。壁には複雑な装飾、地面からは垂直で、屋根は尖っている……これらは全て土属性の魔法によって建築されたものなの」

「これを……全部かい?」

 見渡す限り建物だらけだ。とんでもない量だよ。

「設計図さえあればその通りに作れるのよ。だから、どれだけ複雑な装飾でも土属性の高位の魔法使いなら簡単に出来ちゃうわ。ほら、そっちのサグラダファミリア、数年前に完成しちゃったでしょう? ウチの国でも有名な魔法使いのせいよ、アレ」

「……こっちの世界の建築関係の人間みんな怒らないかい……?」

 仕事とか奪われそうで……。



「建築用の魔法をそっちにも教えてるから大丈夫じゃない? 最近の重機は最先端の魔科学によって作られてたりもするらしいわよ? なんでも、無魔力者(エナガロシア)でも建設魔法を擬似的に使えるようにするとか」

「君は政治だけでなく魔科学についても詳しいんだね」

「まあ、仮にも王家の人間だからね」

 そこで、さっき聞いた話を思い出した。

「そういえば、男の人はみんな王になるんだよね?」

「そうよ」

「じゃあ、君も将来は女王に?」

「……国のトップは一人よ、流石に。女王以外の女はみんな王と同じポジションに就くわ。その時は私達は王姫(おうき)って呼ばれるのよ。無理矢理日本語に訳せば、だけど」



 訳せば? ……そうだ、よく考えたら僕らの世界とこちらの世界の使用言語は違うんだった。

「さっきのご両親も日本語を?」

「いや、普通にレナウセムの公用語よ? なんでかは知らないけど、そっちとは違って私たちに多言語の概念はないもの。会話用の公用語と魔法語だけ」

 いったいどういう理屈で僕らは会話が成り立っているんだろう。

「さて、歩いてたらちょうどいい時間だし、お昼でも食べましょうか。こっちの食文化を見せるには……大衆向けレストランでいいわね」

「僕ら風に言うならファミレスだね」

 そうして、僕らは手頃な店に入った。




 それを、遥か遠く、民家の屋根の上から双眼鏡で覗いている存在があった。

 黒い外套に身を包み、顔さえ確認できない。


「…………今はまだイチャつけばいい。…………いずれ悠人は返してもら」


 ぐぅぅぅぅぅぅぅ…………。

 腹の虫が、空に虚しく響き渡った。


「…………うう、おなかすいた……」


 悲しき尾行者は屋根から降りて、日本円が使える飲食店を探し始めるのであった。

 ……そのあと悠人達を見失うのは、ご愛嬌。

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