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白銀のストラタム  作者: 川咲 陸
青年と白騎士
8/8

#07 記憶の一端



「た、助かった……」

「無理はするなと言った筈です! まったくもう……」


 景色は再び研究室に。

 リズさんの転移魔法のおかげで何とか奴の追撃は免れたようだ。

 本来なら白騎士を追わなければいけない立場だというのに何とも情けない話ではあるが、その分得られた情報も大きい。


「それより、白騎士の追跡は?」

「はい、シキさんが時間を稼いでくれたおかげで追跡魔法を使用することに成功しました。現在は白騎士も転移魔法を使って各地に転移していますね」

「それは多分、追跡魔法対策かな。

 転移魔法で移動しまくって俺達を錯乱するつもりか」

「かもしれませんね。私の魔力が切れるのを待っている可能性もありますね」


 モニターを見ながらリズさんは呟く。どうやら追跡と言っても本人の姿が見える状態で追跡する魔法ではないようだ。

 モニターにはこの町の地図らしき図の中を動く青い点。一定時間で大きく移動するこの点が白騎士なのだろう。

 ―――そうか、魔法発動中はリズさんも消耗することを考えるとこれは相当リスクがデカい。リズさんの魔力が尽きるまでに向こうが転移魔法で魔力を消耗してくれれば良いのだが。


「それより、さっきの魔法はなんですか?」

「なんですかって……リズさんが渡した本に書いてあった魔法だよ。

 あれが基本魔法なんだろ?」

「違いますよ! あの魔法は基本魔法なんかじゃないです!」


 そんな馬鹿な。だってあの魔導書に載っていた魔法だぞ。

 何より、あの魔導書を基本だと俺に渡したのはリズさんだ。


「だってこれに……あれ?」


 本に載っていた魔法だということを証明する為に、魔導書を手に取って捲っていく。しかし、そこにはあの盾の魔法は存在しなかった。

 いや、それどころか載っている魔法の内容が全て、丸ごと違う。

 一目見て基本的なものだと分かる魔法ばかりに。俺が見ていたものとは違う物に。


「……シキさんが使った魔法は、【連層魔法(マギア・ストラタム)】と呼ばれる魔法です」

「へ?」

「異なる魔法を連続して放ち、それを一つの魔法として一瞬で展開する魔法です。その性質上、魔法の層が重なっていくように見えることからそう呼ばれます」

「えっと……俺の出したあの盾がその連層魔法ってやつで、それが何か問題があるのか?」

「問題も問題です! この魔法群は私達の間では最上級(ハイエンドクラス)に分類される魔法なんですよ! どうしてシキさんがそれを使えるんですか!」

「い、いやだって理解して念じろとか言われたからそうして……」

「連層魔法は異なる魔法を一瞬で連なるように展開しなくてはなりません。それはつまり、両手で異なる言語の文を同時に書くようなものなんですよ!」


 異なる言語ってなんだ!? この世界って違う言語もあるのか!?

 それがどれだけ難しいことかは分からないけど、リズさんのこの興奮の仕方は相当ってことだよな……。


「そんなことを言われても、俺だってぶっつけでやって成功しただけだしなぁ。

もしかしたら次は成功しないかもしれないだろ?」

「それは、そうなんですけど……。

 私も盾の連層魔法なんて初めて見たので……」


 しかし、どういうことなのだろう。

 あの時魔導書に書かれていたのは、全て異なる魔法を使用するような内容だった気がする。だからこそ俺はあのレベルで基本なのかと驚いたのだが……。

 では、俺があの時見た魔導書の内容は一体何だったのだろう。

 書いてあることのいくつかは俺が覚えている以上、あの時は確かにそう書いてあった筈なのだ。

 ―――考えても埒があかない。先に違う方の問題からにしよう。


「そんなことより、リズさん。白騎士の方は?」

「そんなこと、じゃないですよ全く。白騎士は現在も転移を……あれ?」

「どうかしたのか?」

「いえ、先程より白騎士がこの研究所に近づいてる気がして……」


 白騎士が近づいている?

 転移魔法で移動しまくってるって話だし、そういうこともあるのか。


「……ん?」


 ちょっと待て。

 何故白騎士は追跡を逃れる為にわざわざ連続して転移をしているんだ?

 追跡を撒くだけなら、何処かで長時間隠れればいい。普通の人間ならそれではダメなのだろうが、白騎士に関しては別だ。

 奴の中身を誰も知らないのだ。モニターを見る限り追跡魔法は本人の姿を捉えたまま追跡する魔法ではないし、細かい精度で追跡できる訳でもないようだ。

 ならば……鎧を脱いで人ごみに紛れてしまえば誰が白騎士なのか分からなくなる。追跡していると言っても大勢の人の中から白騎士だけを判別するなんて無理なのだから。

 なのに、それをやらない。何故消費のデカい転移を繰り返すのか。


「転移で各所に移動……近づいてくる……?」


 もしかして、俺はとんでもない勘違いをしているんじゃないか。

 もしも、仮にだ。白騎士が最初から此方の追跡魔法に気づいていた場合はどうなる?

 その追跡魔法を掛け続けている相手を、逆に捉えることが出来るとしたら……。

 つまり、逆探知のような魔法だ。

 勿論そんな魔法があるかは俺には分からないが、もしそんな魔法があったとして、そして奴がそれを使えたとして、この連続転移は自分が追跡されない為の時間稼ぎではなく……俺達が居る場所を絞る為のものだったとしたら。


「リズさん! 追跡魔法を中断するんだ!」

「何言ってるんですか!?」

「いいから早く!」


 恐らく、白騎士は長距離の転移が出来ない。

 だから連続しての転移で距離を詰めるしかないのだろう。

 現に、魔人が現れてから白騎士が到着するまでは結構なタイムラグがあった。

 俺達のように長距離を転移できるのなら、俺達と同タイミングで鉢合わせするか、俺達より早く着いていた筈なのだからこれは間違いないだろう。


「ほ、ほんとに中断しますよ!?」

「ああ! 早く!」


 モニターに映る点は一定の距離を一定の時間間隔で移動している。

 点の位置は既に研究所の近くだ。

 ここまで来てしまったら、あとは向こうの魔法が曖昧な場所しか分からないような魔法であることを祈るしかない。


「中断しましたよ! 一体どうしたんですか!?」

「コッチの魔法を利用して向こうが逆探知のようなことをしてるんじゃないかと思ってな。そういう魔法ってある?」

「……あります。追跡魔法を逆手に追跡魔法を発動した相手の位置を逆に探る魔法が。迂闊でした、私がその可能性を考慮してなかったなんて……」

「あるのか……。だいぶ近くまで来てたし、こりゃ此処まで来るかもな」


 リズさんが追跡魔法を中断しているのでモニターには既に点は映ってはいない。

 しかし最後の位置がかなり近かったので、恐らくもう意味は無いだろう。

 ―――なんて考えてると、モニターに内蔵された通信機が鳴る。相手は所長のようだ。


「……はい、こちらエリザベス・ベガリスです。

 はい、はい……わかりました。直ちに向かいます」

「どうかしたのか?」

「すぐに所長室に来るように、だそうです」



---



「……」

「えぇ……」


 所長室に赴いた俺達が見たのは、何とも言い難い異様な光景だった。

 白騎士だ。

 白騎士がそこに居たのである。

 恐らく此方の居場所はバレたと思っていたのでそれ自体は驚かなかった。

 問題は白騎士が応接用のソファーにこじんまりと座っていることである。

 シュ、シュールすぎる……!


「―――来たか。途中で私の魔法に気づいたようだが、一足遅かったようだな」


 なんか格好つけたこと言ってるけど礼儀正しくソファーに座ってるせいで格好がついてない。

 なんかちょっと内股なのは何なんだよ……!


「えーっと、どういったご用件で……?」

「―――これ以上貴様達に私の周りをコソコソ嗅ぎ回られるのも面倒なのでな」


 そう言って白騎士は立ち上がると、所長を一瞥してから俺に向き直る。

 あ、やっぱり話があるのは俺になのか……。


「―――取引だ。貴様達には一切の攻撃をしないことを約束しよう。

 その代わり、私に今後接触することは控えてもらいたい」

「控えるってことは、少しは接触していいのかな?」

「―――その男であれば、私に接触することを許そう」


 そう言って白騎士は俺を指差す。

 どういうことだ。俺を攻撃したりしたくせに、何らかの事情で接触する時は俺じゃなきゃダメなのか。

 訳分かんないなコイツ……。


「―――魔に最も近き男よ」

「それ俺のことなのね……。なんだよ?」

「―――私は、貴様が知りたいであろうことを全て知っている」


 遂に確定的な言い方になったな。全て知っているときたか。

 だからなんでそれを最初から言わないのか。もしかして俺の興味を引きたかった構ってちゃんじゃないのかコイツ。


「―――訳あって全てを語ることは出来ないが、その一端だけを貴様に伝えよう。貴様なら、恐らく大丈夫だろう」

「それってどういう……」


 まるで大丈夫じゃない俺も居るかのような言い方だ。

 所々含みのある言い方しやがって……。

 しかし、これで何か分かるのだろうか。

 さっき戦っていたときはまるで俺に記憶を取り戻してほしくなさそうな素振りだったくせに、本当に訳が分からない。


「―――魔に最も近き男よ。貴様は、この世界の人間ではない」

「……はい?」




 

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