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白銀のストラタム  作者: 川咲 陸
青年と白騎士
6/8

#05 魔法


「魔法を使うことは難しくありません。ただその魔法を知ってさえいればいいのです」

「知ってればいいって……」

「厳密には知って、理解することですね。

 その魔法がどんな魔法であり、どんな効果があるのか」


 成る程。

 簡単そうに言うが、理解するだけでいいって言われてもなぁ。そこが一番難しそうではある。何せ俺は一から覚えなきゃいけないのだから。


「と、いう訳でこれ読んでください」

「何じゃこりゃ?」


 そう言ってリズさんが俺に差し出してきたのは一冊の本だ。

 濃紺の派手な装飾が成された本。なんかやたら分厚いし、パラパラと捲るとビッシリと文字が書いてある。


「それは【魔導書】と呼ばれるものです。

 その中に書いてるのは基礎的な魔法の効果やら種類やらですね」

「へぇ……つまり、これを読んで基本的な魔法の理解を深めろと?」

「そうですね。とりあえずは、今日のシキさんの仕事は魔法を使えるようになることにしましょうか」


 ああ、よく考えたら俺ってこの世界の人間としてのスタートラインにも立ててないんだもんな。リズさんの話じゃこの世界の人間は誰でも魔法使える、って言ってたような気がするし。

 それに、白騎士を追うにしても魔法は使えなきゃダメだろうしな。

 それが通用するかはともかく、攻撃してくるって向こうが言ってるんだから防衛の手段は持たなければ。


「よし、じゃあちょっと読んでみますかね」

「私は此方で所長に提出する報告書の作成をしていますので、分からないことがあったら呼んでくださいね」

「あいよ」


 そう言ってリズさんはデスクトップモニターに顔を向けて作業を開始してしまった。まぁ、こればっかりは俺が覚えられるかの問題だし仕方がない。


「どれどれ……」


 パラパラとページを捲っていく。

 基礎的な、とは言っていたけど随分と書き込んであるんだなぁ……。

 何々……? 光り輝く……飛翔する……おいコレ本当に基礎的なヤツなのか!?

 なんか結構えげつないこと書いてある魔法とかあるぞ!


「えーっと、リズさん?」

「どうしました?」

「これ、基礎的な魔法なんですよね……?」

「そうですよ?」


 やべぇ、これが基礎的な魔法なのか。

 いや記憶が無くなる前の俺も使えたのかもしれないけどさ、こんな魔法を誰でも使えるってすげぇなオイ。


「さいですか……」

「難しいことは書いてないと思いますよ?」


 いかん、ハードルが上がっていく!

 これは死ぬ気で理解しないとダメなやつだ!

 何としてでも今日中に一つは覚えなくては……!



‐‐‐



 ―――どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 リズさんがコンソールを操作する音だけが響く研究室に、突然通信音のようなものが鳴り響いた。

 リズさんは何やらモニターの向こうに喋りかけた後、その通信を切ると此方に向き直る。


「所長から連絡です。どうやらここから少し離れた住宅地に魔人が現れた、と」

「つまり……」

「はい、白騎士が現れる可能性が高いです。

 立場上、私達も現場付近まで行かなくてはなりません」


 予想以上に時間が無かったようだ。

 まさかこんなに早く魔人が現れるとは。いや、手が回らないって言ってたくらいだからこれが普通のペースなのか?

 しかし、まだ魔法が使えるか試しても無い段階で現場とは……。


「本来であれば、どちらかが此処に残って追跡魔法の展開。

 もう一方が接触を試みる手筈の方が良かったのですが……仕方ありません、今回は二人で現場に……」

「―――いや、リズさんは此処に残ってバックアップしてくれ。

 俺が現場に行って接触を試そう」

「何言ってるんですか! シキさんはまだ魔法を試してもないんですよ!? 危険です!」

「分かってる。しかし、二人で行った所で二人共危険になる可能性があるんだ。だったら片方がコッチに残って追跡なりのバックアップをした方が良い。そして、その役目は魔法を使えるリズさんの方が適任だ」

「ですが……!」

「最悪、ヤバそうだったら接触もしないで様子見だけに徹するからさ。

 リズさんは白騎士の追跡に専念してほしい」


 正直、現状動きが掴めない白騎士に接触するよりは、追跡を成功させてその動きを捉えることの方が有益の筈だ。

 魔人にさえ関わらなければ奴は俺には攻撃してこない筈。白騎士は俺がこの仕事を手伝うことを知っている可能性が無い訳でも無いが……まぁ、その時はその時だ。


「大丈夫、魔導書ちゃんと読んで理解した……とは思うからさ!」

「……分かりました。ですが危なくなったらすぐに言ってください。此方から緊急帰還の魔法をシキさんに使用しますので」


 あ、ちゃんとそういう魔法あるんだ……。


「では、早速シキさんには現場に行ってもらいます。

 魔法で常に此方から通信は出来るので連絡は安心してください。

 無理だけはしないでくださいね?」

「ああ、危なくなったらちゃんと言うよ」

「それと、此方を持って行ってください」


 そう言ってリズさんが渡してきたのは小さな瓶だ。

 中には透明な液体が入っている。時々気泡が現れてまるで炭酸のようにも見える。


「なんだコレ。昨日リズさんの家で飲んだソーダってやつに似てるな」

「これは【隠蔽(ハイディング)】の魔法薬です。これを飲むと一定時間目立たなくなり、身を隠しやすくなります」

「そんなことも出来るのか!?」

「はい。ただ、あくまでも目立たなくなるだけです。姿が完全に消えたりする訳では無いので気をつけてくださいね」


 身を隠すのは自分でしろってことか。まぁそれくらいなら大丈夫だろう。

 とりあえず、もう時間が無いはずだ。そろそろ行かなくては白騎士が魔人を倒してまた姿を消してしまう。


「ではシキさん、今から現場座標付近に転移魔法で飛ばします。

 現場に到着したら白騎士が来るまで身を隠すこと。もし魔人に見つかろうものなら、最悪魔人と白騎士二体との戦闘になってしまうので」

「了解した!」

「では……転移魔法、展開します!」


 リズさんが手を翳すと、俺の足下に陣のようなものが現れる。

 それが怪しく輝いたかと思った次の瞬間には……俺の視界は、真っ白に覆われていった。

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