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両片思いをこじらせて(エルの言い分)1

「やぁエル!素晴らしい朝だな!いつになく世界が輝いて見える!」


史上希にみるほど機嫌が悪いときに、史上希にみるほど機嫌がいい幼なじみが、これ見よがしに左手を振りかざしながら挨拶してきた。問答無用で殴りかからなかった僕は少し大人になったと思う。


「どうしたエル。辛気くさい顔をして。あぁ、昨日、俺に誕生日プレゼントを渡し忘れたことだったら気にしなくていいぞ!ここ10年くらいエルはうっかり忘れているものな。いつものことだ、俺は気にしていない」


無言を貫く僕に、カインはしつこく左手を突き出しながら言いつのる。


「もしかしたら、ベルに預けてくれているのかもしれないと思って、ベルに会ってきたんだけど、今年もベルに預けてくれなかったんだな、いやいいんだ、気にしていないから。別に無駄足ではなかったんだ。ベルが誕生日プレゼントを用意してくれていたから。うん、ベルは覚えててくれたからさ」


僕の顔にぶつかりそうなほど左手をつきつけるヤツに流石の僕も堪忍袋の緒が切れた。


「あーーーーーーーもう、うっとうしいな、なんだこの手は!!」


左手を振り払うと、ヤツはぱっと顔を輝かせ目尻を思いっきり下げてにやけた顔がさらにひどくにやける。


「あ、気づいたか?ベルがくれたんだ、この指輪。ペアリングらしい。一応婚約者だからな、指輪くらいしていた方がいいよな」

「あぁそうかよ」

「それに見ろよ、これ!エルの誕生日に俺があげた指輪にちょっと似てないか?」

「似てない。俺がもらったのは何の飾り気もないおもちゃみたいな指輪だろ、こんなに凝ったデザインじゃない」

「仕方ないだろ、ベルのプレゼントも買わないといけなくて予算的にはあれが精一杯だったんだ」

「その割りにベルの髪飾りは随分高そうだったけどな」

「気に入ったのがたまたまちょっと高かっただけだ」


これで自覚がないとかふざけるなと言いたい。


「カイン」


僕のいつにない真面目な声で、にやけた顔に一瞬緊張が走った。


「昨日、ベルと何かあったか?プレゼントをもらった以外に」


僕の質問に、カインは柄にもなくうろたえた様子で目線をそらした。少し伸びた茶色の髪からのぞく耳は真っ赤だった。答えを知っている僕は、さらに声を低くして質問を重ねた。


「質問をかえる。ベルに何をした?」




昨日はカインの誕生日だった。朝から誕生日アピールをしてきてうっとうしかったけど、本気で僕からのプレゼントを欲しがっているわけではないので放置した。二言目には「気にしてない」と口にしていたが、その言葉通り本当にヤツは僕のことは気にしてない。気にしているのはベルのことだけだ。

ヤツは毎日2回、ベルの昼休みとベルの帰宅時間に会いに行く。

僕がうっとうしいと追い出すからしぶしぶという体でいるが、本当は毎日僕に追い出されるのを楽しみにしている。時間が近づくとそわそわしてやたらと絡んでくるから分かりやすい。

あまりにムカツクから、1回時間になっても追い出さずにいたら、いつもの数倍うっとうしく絡んできた。意地になって我慢していたら、背に腹は替えられないとでもいうのに押し倒そうとしてきたから、さすがに嫌がらせのために自分の貞操を捧げる気にはなれずに追い出した。

「出てけ」と言った瞬間、嬉しそうな顔を隠しもせずに弾丸のような速さで飛び出していった。振り返ることもせず一目散にベルの職場へ向かって。


昨日はベルと婚約して初めての誕生日ということもあって、ヤツは朝からそわそわしていた。

昼休み前、面倒くさかったのでいつもの時間より早く追い出した。

いつもより早く戻って来たヤツは「プレゼントをもらえなかった」と僕に対して言う上辺だけの恨み言とは比べものにならないくらいマジな様子で落ち込んでいた。

午後、昼休みのことを引きずってまったく仕事にならないヤツの尻を叩き、どうにかこうにか任務をこなさせたけど、抜け殻状態の人間など邪魔なだけだからいつもより1時間早く帰宅させた。


ベルがカインの誕生日プレントを用意していないはずはない。

ベルはカインが大好きなのだから。

物心がつく前から、今に至るまで一瞬のぶれもなくただただ一途にカインが好きだ。

甘え下手で素直じゃないところがあるから一見分かりにくいかもしれないけれど、よくよく見ていればバレバレだ。

実際、ベルもカインほどでないにしても朝からそわそわしていた。


昨日、ベルはいつもより2時間ほど遅く帰宅した。

「ただいま」という声は小さく顔をうつむかせていたから、てっきり照れて赤くなった顔を隠しているのかと思って、こじらせカップルがようやく進展したのかとほっと息をついた。

「おかえり、カインは喜んでくれた?」と声をかけると、ベルは反射的に顔を上げた。その顔を見て、僕は息を飲んだ。


「ベル?どうたの?何が……」


真っ赤に泣きはらした目。

青ざめた顔には絶望感が漂う。


「……なんで」

「ベル?」

「なんでエルなの……」


震える声でそう呟くと、ベルは僕を突き飛ばして自室へ駆け込んでいってしまった。


残された僕は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

長くなりそうなので分けます。

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