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LN東條戦記第2部「変革宰相」  作者: 異不丸
第1章 内はすなわち教化を醇厚にし
6/53

3 枢密院


昭和16年11月5日水曜日、宮城。


東條首相は、遅れて枢密院についた。広橋秘書官を連れている。

枢密院は宮城内にあり、その本会議の際は陛下が御臨席される。今日は、会議ではないので、顧問官も全員はいない。いわゆる懇談である。

原議長、鈴木副議長、ほかに池田、石井、有馬の各顧問官。中野正剛国務大臣は先に来ていた。


「それでは、大政翼賛会を止めたいと」

「はい」

「もともと、憲法上いろいろと疑点がありました」

「ふむ。西園寺公もそう言っておられましたな」

「議会に重きをおくべきでしょう。今はまるで幕府です」

(それは陛下のお言葉ではないか)原議長は承知していた。

「ほう、そうお考えですか」

「もちろん、今すぐではありませんが」

「準備期間は必要でしょう」

「そうなのです」


御前会議からこの方、原議長は東條贔屓となっていた。鈴木副議長はまだわからない。

「副議長、どうですか?」

「政党に戻すのはよろしいかと」

「ただ、社会大衆党などが大勢となるのでは困りますな」

「なるほど。どうですか、中野大臣」

「健全たる政党が支持されるように、国民対策があります」

「ほう」

「実は、統制経済や報道統制の緩和を考えております」

「自由経済に戻すのか?」

「徐々にです」

「報道統制の緩和とは?」

「検閲制度を改めます」

「いろいろお考えですな」

「はっ。憲法の条項を遵守するようにとの思し召しです」

「それはよいことです」


「実は、ほかにも」

「まだありますか」

「ひょっとして、総理は近衛公の政治を全否定されるのか?」

「まあまあ、有馬さん。そんな直截な」

「決してそのような」

「それはそれ、これはこれ。是々非々でしょう」

「もともと近衛公の政策にはその場しのぎも多かった」

「東條総理のご決断には、背骨があります」

「是は残して、非は改める。健全ですな」

「いろいろと研究中であると、本日は承った」

「総理、それでよろしいですかな」

「はい。恐縮です」



枢密院を出ると、東條は内務省に向かう。中野も一緒である。

「そのー、総理」

「なんですか、中野さん」

「いや、今の総理の権勢なら、何も」

「枢府に頭を下げんでもいいと?」

「ずばり、そうです」

「今日明日は、そうでしょう」

「畏れながら、陛下もご信頼です」

「今月来月も、あるいは」

「は?」

「来年はどうですか?中野さん」

「いや、それは」

「敵を作ることはないでしょう」

「ま、そうですな」

「味方を増やすですよ」

「頭を下げて、味方になりますか?」

「少なくとも敵にはならんでしょう」

「それはそうだが」

「政治とは、そういうものでしょう?」

(そうだった。わしは政治家だった)

「日本は和の国なのですよ」

「もちろん、そうです」


内務省は、桜田門の警視庁の隣。宮城を出るとすぐである。

「中野さん」

「はい?」

「日米交渉というが、実は、米欧対決なのだ」

「え?」

「日本には米国の望むような市場も資源もない。規模が小さい」

「それはわかるが」

「だから、米国は支那や満洲に入りたい」

「それもわかる」

「支那では、日本の権益よりも、英仏独の権益の方が大きい」

「あ」

「それがねらいなのです」

「どうすれば?」

「帝国は米国の共犯となれ。それがわたしの解釈です」

「まさか!」

「では、どう理解されますか?」

「そ、それは」

「あ、着きましたね」

「そ、総理」

「なんでしょうか」

「今度、乗馬をご一緒に」

「おお。それはいい。ぜひとも」



正午を過ぎていた。

二人は、これから、内務省局長昼食会に参席する。その後には、ラムゼイ機関の第2次検挙リストに関する会合が予定されていた。中野正剛国務大臣は、最初に聞いていた議会方面に加えて、広く内政方面まで担当するようになっていた。

「議会担当ということは、議員を選ぶ国民の担当でもある。当然のことですな」

中野は、反論できなかった。



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