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表紙
【表紙】
【帯言葉】
松井には予感があった。
現役を離れて何年にもなる。飛行機に乗ったことは数回しかない。
しかし、ここは戦場であると、予感は教えるのだ。
偵察員の声がする。
「右前方13000、高度5000。単発機4機。逆行」
続けて、編隊指揮官が命令を発する。
「護衛1番、3番。高度5000に上がれ」
「輸送1番機、高度2000。直進」
「ゆ1、高度2000。直進。よし」
輸送1番機は松井の乗機だ。操縦員が復唱し、機が傾く。
「輸送2番機。高度そのまま。直進」
後方の輸送2番機には、外務省の次席全権が乗っている。
別の声がする。
「無線受信中。英語。支那語ではない」
副官の奥田中尉が前方に行き、すぐに戻ってくる。
「明らかに、米国人の英語です」