攻撃役(アタッカー)、始めました
次からは当て字?というか()での表記を削っていきます。
「ふぁぁぁ…。流石に寝心地はよくないな…。」
テントから出て大きく背伸びをする。昨日までのベッドが少し恋しい気分だ。
「嘆いても仕方ないか…っと。」
軽くテントに触れる。するとそこに1つの窓が表示された。映し出されたのは【残り時間4:00】 という文字。そして左下に【キャンセル】右下には【強制終了】と小さく書かれている。
異世界に来て三日…今日で四日目か。何もしていなかったわけではない。俺なりに今置かれている状況を調べていた。
その成果の1つが窓の表示である。
こいつは俺が"知りたい"と思って物に触れると表示されるらしい。どういう原理で出来ているのかまでは正直分からないが、そんなことは今は置いておこう。
おかげでこのように、現在使用している物の状況・詳細が分かるようになった。
二つ目に、この窓は俺自身にも適用される…要はシステムメニューが使えるようになったのだ。これが一番の収穫である。
「まずは飯にするか。」
【強制終了】の文字に触れるとテントは氷細工の様に砕け消えていく。
そして俺は何もない目の前の空間に人指し指を構え、タッチパネルにでも触るかのようにポンッと弾く。
するとそこには、先程のものより一回り大きな窓。
状態・所持品・現在地・スキル詳細、更にはHPMPまで表示されてる。
これもどういうわけか俺が念じれば出てくる仕組みだ。
「まさか…これが神様の力なのかね…。」
疑問は山のようにある。だが今現在、最も大事なのは空腹を満たすこと。他のことは後から考えればいいさ。
メニュー画面から所持品を選ぶ。武器・防具・薬品といった項目から料理を選択すると、およそ2ページにも及ぶ俺の所持料理品名がずらりと表示された。
【千年の記憶】の職業は大きく分けて3通り。
戦う為の【戦闘職】、装備やアイテムを生成する【生産職】、生産に必要な素材を収穫する【採取職】とある。
料理は【生産職】の1つ調理人という職業が生産することが出来、通常の食材アイテムよりも効果の高い料理アイテムへと作り替えることが可能となる。
言うまでもないが俺の調理人レベルは最高値まで達しているので、大概の料理は作ることが出来るのだ!まさに3年間の結晶!
………とはいっても、ほとんどは他のプレイヤーが生産したアイテムや採集した素材を販売するマーケットで買ったものだけど。
俺は数ある料理の中から焼きたてパンという料理を選び、ポーチの中へと手を入れる。
するとそこには少し熱い物体が。引き抜いてみると、湯気の立つフランスパン状の食べ物が姿を現した。
「いただきます。」
パンに一礼をし、かぶりつく。
流石、焼きたてというだけのことはある。ホクホクの食感と柔らかいパン生地が空腹の胃袋をじわりじわりと満たしていく。
でもこれ…いつ買ったやつだっけ…。
多少の不安はあるが美味しいからよしとしよう。うん。
ちなみに、きちんとした(?)料理もある。
カレーライス、ラーメン、リゾットetc…。
なぜそれらを選ばずパンなのか。
理由は簡単。ポーチから取り出す際に非常に面倒だから。
試しにカレーライスを取り出そうとした時は、それはもう最悪だった。もろに上から掴みにいったといえば想像出来るだろうか。
まぁ、そういうわけである。
パンを完食し、清涼飲料水を飲む。
「ごちそうさまでした。」
満腹になった腹をポンポンと叩く。
周りからは『オヤジ臭い』と言われるが、癖なのでこればかりはどうしようもない。
「さてと…」
本題はここからだ。
まずはアスタルクへ向かう。これは最優先事項だ。
システムメニューから地図を開く。表示されている現在地からアスタルクの街は南西方向。距離に関してはよく分からないが、これの対策は既にあるので問題ない。
もう1つは職業。
自身のステータス画面を表示する。
職業欄には…なんでこんなデカデカと女神なんて書くんだよ。嫌がらせか!
ため息を吐きつつも職業欄の隣に書かれている【転職】という項目をタッチ。
すると、これまたズラリと多彩な職業が映し出された。
「さて…何になるか…。」
俺は悩む。
まず回復役は論外。昨日の出来事もあり当分やるつもりはない。
となると攻撃役か壁役である。
どちらの方が慣れているかと聞かれれば後者だ。
その理由は、壁役がどのタイミングでボスから大きなダメージを受けるか一番よく知っているのは回復役だからである。
加えてヴィクトリアさんの厳しい指導もあり、並の壁役よりはいい動きが出来ると思う。
が―――。
「やるならやっぱり攻撃役だよなー。」
やはり戦闘の花形は魅力的。
鼻歌混じりに俺は1つの職業を選択する。
すると、まるで特撮ヒーローの如く服装が替わった。
「こんなとこまでゲームと同じとは驚きだな…。」
職業を変えると、装備は"前回その職業で装備していたもの"に自動的に変更される。
ただでさえ職業の多いこのゲーム。その度に装備を選ぶとなると一苦労では済まされないからな。
服装を上から確認する。
先程のまでのローブ姿とは一変し、かなり身軽な服装だ。
ヘソが見えるほど短い黒色のシャツは片方の裾がキュッと結ばれておりオシャレ感が高い。膝丈のズボンはシャツと同色で、所々ダメージが入っており格好いい。
極めつけは両手両足に装備されている赤い手甲と具足。見た目はかなりゴツく、服とのアンバランス感が半端ない。
はい。どう見ても中二です。
でも仕方ないじゃないか!格好いいんだから!!
「よっしゃ!とにかくまずはスキル回しの確認確認!」
俺は上機嫌でスキルの確認を始める。
こうして、俺の新たなる職業【格闘家】としての辛く険しい道のりが始まろうとしていた。