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回復役(ヒーラー)なんぞやってられるか!  作者: こしひかり
【第一章】回復役(ヒーラー)、引退します。
7/50

癒し手の価値とは

「聖騎士長!ご報告があります!」


緊張した面持ちで右手を胸に掲げる若い騎士。

彼が緊張するのも仕方ない。なにせ目の前にいるのは王国最強の肩書きを持つ聖騎士なのだから。


「アスタルク北東に位置する村にて、癒し手がいるとの情報が入りました!」


「ほぅ…。」


その言葉を聞き、書類作業の手を止めた。


「それで…。なぜ私に報告なのだ?」


「そ、それは…。」


若い騎士は言葉を詰まらせる。どう説明すべきか悩んでいるのだ。

その表情を見て聖騎士はフッと笑う


「冗談だ。どうせ、現地調査の仕事をこちらに丸投げしてきたのだろう?まったく…癒し手というやつは…。」


「は、はぁ…。」


「いかんな、私語が過ぎた。これより直ちに遠征部隊を組み、アスタルク北東へと派遣させる。隊長はマルコ。人選は任せるとやつに伝えろ。いいな?」


「はっ!」


威勢の良い返事と共に再度右手を掲げ、若い騎士は部屋を後にする。


「癒し手…か…。」


一人部屋に残った聖騎士は、瞳を閉じ思い出す。

自分の知る唯一無二の癒し手を。


「一体…お前はどこに行ってしまったんだ…。」


窓を開けると、冷たい風が"彼女"の髪をなびかせる。

燃えるような赤い髪を。まるで熱を冷ますかのように。


「ユキ…。」


決して誰にも聞こえぬよう、彼女――ヴィクトリアは小さく呟いた。



◆◆◆◆◆◆◆



「もうダメだ… 。」


深夜。

まともに眠ることも出来ない俺の精神はそろそろ限界に達しようとしている。


ニーナの村に滞在して今日で三日目。

『こういうのも悪くないか』という気持ちがあったことは認める。村の人々は神でも崇める様な態度で俺に接し、俺自身も優越感に浸っていた。

調子に乗ってヒールをしたり、光術師が得意とする光系スキルを使ってみせたりと…はぁ……本当に馬鹿なことを…。

そのせいで村人達が俺に会いにくる回数も次第に増え、(スキル)を見せてくれという要求も必然的に多くなった。


スキルというものは制限なく何度も使用出来るものではない。

まずスキルを発動するとMP(マジックポイント)が消費される。

次にキャストタイムとリキャストタイム。

簡単に言えば、スキル発動までの時間と再度同じスキルを使用するまでの待機時間という意味だ。

これは別に魔法系スキルに限ったことではなく、剣や体術スキルにも存在する。


例えばヒールという回復スキル。

これは対象のHP(ヒットポイント)を少量回復させるものだ。

効果が小さい為、MP(マジックポイント)の消費量は少なく発動までの時間も再度使用出来るまでの時間も短い 。

だがいくら少ない消費量で使えるからと言って、休む間もなく使い続ければMP(マジックポイント)はすぐに底をつく。

それが例え、双龍の指輪を装備した熟練の回復役(ヒーラー)でもだ。

そしてどうやら、(この)世界でMP(マジックポイント)を消費すると精神力までもが失われる…と思う。

頭は重いは全身はダルいは…ほぼ間違いない。

それが三日間も続けば、誰でもうんざりして帰りたくなるだろ?

まぁ…帰れないんだが…。


「とにかく顔洗ってさっさと寝―――ん?」


もう夜も深いというのに村長の家からうっすらと灯りが漏れている。

何となく気になり窓へソッと近付く。

すると中からは村長と……ニーナの声が。


「ニーナよ。癒し手様の様子はどうじゃ?」


「はい。今日はもうお休みになっておられます。」


「そうか。」


「あの…村長…。私はいつまで癒し手様を引き留めればよいのですか?」


「出来るだけ長くじゃ。癒し手様の噂は隣村にも伝わっておる。一目奇跡の技を見ようと今よりも多くの人が集まるじゃろう。ふぉふぉ。」


「ですが村長!これではまる見世物小屋です!癒し手様をこのように扱っては天罰が…。」


「案ずるなニーナ。王都の騎士団には連絡をいれておる。もう2~3日もすれば癒し手様を迎えにくるじゃろう。それまでの辛抱じゃ。その際にはお主にも情報提供の礼金を分け―――。」


二人の会話を最後まで聞くまでもなく、俺の足は村の出入口へと向かっていた。


「ま、流石にね。おかしいとは思ってたが…。」


怒りがないと言えば嘘になる。

だがそれよりも『あぁ、"またか"』という諦めにも近い感情の方が強かった。

使われるだけ使われて、ポイッと捨てられる。それはゲームの中でもよくあったこと。

そして、俺が回復役(ヒーラー)を辞めたい理由の1つでもある。


「はぁぁぁ…本当に……。」


空を見上げる。星を見るとセンチメンタルな気分になるのはなぜなのか?

……どうでもいいか。


回復役(ヒーラー)なんてやるもんじゃないな。」


俺は一人、村を出る。

心残りがないわけじゃない。ニーナの弟ジルの様子も心配ではあるが、これ以上ここに留まっていると俺の体がもたない。

というかストレスが溜まりすぎて、いつ攻撃スキルを使うか分かったもんじゃないからな。

自分の性格だけによく知ってる。 回復ばかりやっていると、たまにはガス抜きで攻撃したくなる性分なのだ。


「どっかで試しにやってみるか。」


そんなことを考えながら、夜の道を進んでいく。

今回はちょっと短いです。次は長く書きます

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