萌えない女神(おとこ)はただのゴミ
かなりの量で誤字脱字があります。発見次第通報していただけると助かります。感想もお待ちしてます。
誰かは言う。
『ゲームは人をダメにする』と。
誰かは言う。
『家にいないで外に出ろ』と。
誰かは言う。
『だからお前はダメなんだ』と。
世間から見てMMORPGの印象は決して良いものではない。
ゲームにはまり過ぎて学校に行かなくなる学生。
働くことを放棄する社会人。
人と会話が出来なくなる人間―――。
テレビなどの報道で伝えられる内容は半数以上がこんな感じだ。
確かにそうなってしまった人がいるのは嘘ではない。だがそんなのはほんの一部であり、実際のプレイヤー達は節度を持ったゲームライフを送っている。
それにMMORPGは俺に沢山のことを教えてくれた。
他人と協力し合うこと…仲間を信じて戦うこと…共に感動を味わうこと…。
それがあったからこそ、俺は3年間【千年の記憶】を続けることが出来たのだ。
まぁ…職業に関しては多少の不満があったが―――。
「本当だよ。まったく…どうして"キミ"が回復役なんだろうね。」
!?
突然に響く男の声。
ただ黒いだけの世界に色が灯る。
「あーあ…本当にツイてない。なぜ男が回復役なんぞやるのかね。癒しといえば女の子というのが世の理だというのに。」
俺の目に映ったのは真っ白い正方形の部屋の中心で椅子に座りながら足を組み、心底残念そうな顔をしているホスト姿の男。誰だこいつ…どう見てもチャラそうだ。
「言葉を慎めよ、人間――あぁ違うか。新人。」
新人?一体なんのことだ?
「覚えてないのか?本当に頭が悪いんだな、新人女神。」
女神?それってもしかして、ユキが新しく取得した職業―――。
「あぁ、本当に吐き気がする!どうして僕の部下となる女神が、こんな萌えることも出来ない男なんだ!」
悪かったな。こっちだって好きで女神になったわけじゃねーんだよ!
……て、ちょっとまて。まさか俺は本当に…。
「あぁそうだ。ムカつく話だが、お前はこの世界…【ユグドラシル】の神々と同じ席に座ることになったんだよ。」
冗談だろ?たかがゲームの職業で本当に神様になっちまったっていうのか!?
「転生魔法を使っておいてよく言う。まぁいい。僕以外にも"ハズレ"を引いた神がいるのがせめてもの救いだな。後で冷やかしにでも行くか。」
そう言って金髪の前髪をかきあげるホスト。
そして横目で俺を睨み付けながら―――。
「なんにせよ。決まってしまったことは仕方ない。時間になるまでは勝手にしてろ。その時がくるまで、少しは力の使い方でも覚えるんだな。」
そう言い残すとホストの姿は次第に薄くなっていく。
ちょっと待て!こっちはまだ聞きたいことが――!
「うるさい。僕は機嫌が悪いんだ。とっとと失せろ、女神。」
◆◆◆◆◆◆◆
「誰がゴミだぁぁぁ……あ?」
気がつくと俺はベッドの中で一人叫んでいた。
なんだ夢か…。あーびっくりした…さっさと仕度して会社に行かないと。
「あ、ユウキ様!お目覚めになられましたか?すぐに朝食の準備をいたしますので!」
エプロン姿の少女がピョコンと姿を現す。
どうやら夢は未だ覚めないらしい。
◆◆◆◆◆◆◆
「すみません。努力はしたんですが、うちではこれくらいしか出せなくて…。」
小さな木製のテーブルに並ぶのはロール状のパンと湯気のたつスープ。そして小さな赤い木の実。
決して豪華とは言えないが、普段の食事に比べれば十分過ぎる。
しかも少女の手作りというスパイスまで入っているのだから非の打ち所もない!
「トムおじさんが作ってくれたんです!おじさん料理上手で評判なんですよ?」
どうやらスパイスは濃い目のようだ。
「それで、ジル君の様子はどうだい?」
お手製のスープを口に運びながら俺は問う。
悔しいことにスープの味は絶品だった。
「はい!おかげさまで顔色もよくなって、今もグッスリ寝てるんですよ?ふふっ♪」
そう笑顔で答えるニーナ。彼女の助けになれてよかったよかった。
「ユウキ様は素晴らしい御力をお持ちなのですね!あれはどういった魔法なのでしょうか?」
「ん?あぁ…あれは祝福ってスキルで、非戦闘状態にしか使えないやつさ。全状態異常を回復は出来るけどダンジョンや戦闘では使えないし、街に帰って神殿にいけば呪いは解除出来るから滅多に使うものじゃ――。」
「スキ…?ぜんじょう……??」
どうやらニーナにはちんぷんかんぷんのようで、頭の上から?マークが浮かびそうな状態だ。
「簡単に言えば治癒魔法だよ。」
「治癒魔法……!?と、とととということは!」
「うん?」
急に立ち上がり小刻みに震えるニーナ。
一体何をそんなに驚いているんだろうか。
「ユウキ様は癒し手様なのですか!?」
癒し手…そういや回復役をそんな風に呼ぶゲームもあるな。
「そう…なるのかな。多分。」
「むむむ村の皆に知らせてきます!!」
そう言うやいなや、ニーナは慌てて家の外へと駆け出していく。
「どうしたんだ?一体。」
うん。おじさんのスープは格別だぜ。
◆◆◆◆◆◆◆
これは一体どういうことだろうか?
俺を挟む様に村の女性が座り、持たされたコップに葡萄酒のようなものが注がれる。
ニーナの家は大きくはない。せいぜい大人5人がいいとこだ。
にも関わらず、家の中にはすでに10人以上が入ってきている。窓からは中の様子を覗き込む子供の姿までいる始末。
おそらく村の全人口がニーナの家に集まっているのだろう。
「いやはや。まさか癒し手様がこのような小さな村においでになるとは…。長生きはするもんですな。」
「はぁ…。」
村長らしき老人は顎に手を当て、うんうんと何度も頷いている。
「ささ、癒し手様。どうぞもう一杯…。」
そう言いながら右隣の女性が葡萄酒をコップに注ぐ。
「いや、流石にまだ朝ですし。そんなには…。」
「まぁ!癒し手様は謙虚ですのね♪」
謙虚とかいう問題ではなくてだな…。酒はそこそこ飲めるが、寝起き早々から飲めるかっつうの!
「おらぁ、癒し手様を見るのは初めてだ!」
「私も!あぁ、癒しの神イシュト様に感謝します!」
何人もの村人が両手を組み天を仰ぐ様に祈りを捧げる。
俺が想像する教会のイメージはこんな感じだ。
「な、なぁニーナ!これは一体なんなんだ?」
「なにって…勿論歓迎の宴です!まさかユウキ様が癒し手様とは知らず申し訳ございません!ですがユウキ様もユウキ様です。それならそうと最初から仰って頂ければよかったのに…意地悪な御方です。ウフフ♪」
ニーナの機嫌はうなぎ登り。今度はこっちがちんぷんかんぷんである。
「そんなに癒し手が珍しいのか?」
「何を仰っているのですかユウキ様!癒し手様は癒しの神イシュト様に選ばれし使徒しかなることを許されない、それはそれは素晴らしき存在なのですよ?」
つまりあれか。
この世界もゲームの中と同様に圧倒的回復役不足なのか?
「癒し手様!どうか神の御技をお見せ下さいませ!」
誰かがそう口にすると注目の眼差しが一斉に俺へと突き刺さる。
これは断れる雰囲気じゃないな…。
「まぁ…別にいいですけど…。そこのお爺さん、どこか悪いとこあります?」
「おぉ…癒し手様。わしは腰が悪くてのぉ…ほれ、ずっとこんな感じで曲がりっぱなしですじゃ。」
「腰ね…。」
俺は右手をお爺さんの腰に当てる。
というか、腰痛に回復魔法が効くのか?まぁいいや。
「ヒール…。」
口にしたのは初歩中の初歩。回復役なら誰しもが最初に覚えるスキル【ヒール】
効果の説明などもはや必要ないだろう。
「「おぉぉ!!」」
全員が歓喜の声を上げる。
俺の右手は優しい光りに包まれ、お爺さんの腰を照らしていく。すると―――。
「腰の痛みが……引いていきますじゃ!!」
くの字に曲がっていたお爺さんの背中が、ピンッと真っ直ぐになるではないか!
いやいや…。いくらなんでも、たかがヒールにそんな力ねぇよ!
「うぉぉぉ!婆さん!婆さんや!今夜は寝かせんぞぉぉぉ!」
「ちょっ……一時的だと思いますから無茶したらダメ………って聞いちゃいないな。」
「流石ユウキ様です!あと…これは身勝手な御願いだとは思いますが…」
モジモジと体をくねらせるニーナ。
俺はロリコンじゃないから大したダメージはない。
「もうしばらくの間、この村にいてくれませんでしょうか?」
「いや、流石にそれは…。なるべく早くアスタルクにも行きたいわけで…。」
「どうしても…ダメでしょうか?」
ニーナが涙目でで俺を見る。
もう一度言うが俺はロリコンではない。
だから首が縦に揺れたのは、きっと重力の仕業なのだろう。