純白の少女
眩しい…目の眩むようなの白色。
なのになぜだろう?こう、見ているだけで心が豊かになっていく。
「え?……ひゃぁ!?」
女の子は自分の立っている場所に気が付いたようで、慌ててスカートを押さえながら飛び退く。
どうやら心の声が漏れていたようだ。
「み、見ましたか?」
「あぁ見た。だが気にするな。俺は大人だ。少女の下着ぐらいで喜ぶほどウブではない。」
「そのわりには顔、にやけてますよ。」
おっといかん。素直な性格が裏目にでたか。
スマートだ。スマートにいかなければ。
「それで…その……貴方は魔術師様なのですか?」
若干頬を染めながらも少女は再度問いかける。
歳は大体14~15。栗色の長髪で顔立ちはそこそこなのだが、服がなんというかボロい。
浮浪者とまでは言わないが、ところどこが毛羽だっており肌触りも悪そうだ。
「よっと…。なんでそう思うんだい?」
体を起こしあぐらをかく。その仕草が怒っているように見えたのだろうか。
少女は一瞬迷いをみせるが、意を決したようで。
「み、見ていたんです!向こうの木陰から…貴方が素手でハイベアーを倒すところを!魔法も使っていらっしゃいましたし…魔術師様ですよね!?」
瞳を爛々と輝かせながら少女は問う。
さて、どうしたものか。
この少女、どう見ても害があるようには思えない普通の人間だ。
だがそれは一般世界の話であって、本当にここが【千年の記憶】の世界だとするなら話は変わってくる。
可愛い姿を装った魔物かもしれない。違ったとしても何かの罠である可能性も否定出来ない。
よし、結論が出た。
ここはやはり関わら―――。
「魔術師様!どうか願いを聞いて下さい!」
関わ―――。
「私に出来ることはなんでもいたします!だからどうか――。」
る!!
◆◆◆◆◆◆◆
「なるほどね。弟さんが原因不明の病気にかかったわけか。」
俺は純白の少女ニーナと共に彼女が住んでいるという村へ案内されていた。
しかしあれだな。少女が『なんでもします!』と口にすると、それは一種の兵器になる。
例え"なんでも"が出来なくても、この言葉を聞くことが重要なのだと俺は思う。
「はい…。村のお医者様に見てもらっても原因が分からなくて…。せめてアスタルクの街まで行けば大きな病院があるのですが…。」
「問題があると。」
ニーナは困り果てたという表情で頷く。
「私の村からアスタルクまでは徒歩で4日ほどかかります。それだけなら問題ないのですが、最近魔物の数が増えてきて一人ではとても…」
「なら護衛を雇えばよかったんじゃないか?」
「うちの村にそんな強い人いませんよ。もしいたとしても雇えるだけのお金なんて…。」
「なるほどね。で、偶然見かけた俺に何とか弟の治療もしくはアスタルクまで護衛をしてもらおうと思ったわけだ。」
「ご迷惑ですよね…。こっちの勝手ばかり押し付けて。魔術師様には何の関係もないのに…。」
「優樹。」
「はい?」
「俺の名前だ。別に迷惑じゃない。困っている子供を助けるのは大人の務めだ。仮に俺が見てもどうにもならない場合はアスタルクまで送ろう。こっちも用事がある。」
今の俺には情報が必要だ。
その為、出来るだけ早く始まりの街アスタルクへ辿り着きたい。
しかし、転位魔法を使うのは駄目だ。
理由は簡単。
どう使っていいか分からないし、万が一事故が起きて次元の彼方にでも吹き飛ばされたらたまったもんじゃない。
地図が見れれば一人でなんとかなるとは思うが、そのやり方も分からないとなると道案内が必要になる。
「ユウキ様は変わってらっしゃいますね。」
「そうか?」
「えぇ。魔術師様は私達平民と違って強力な力を御持ちです。階級だって天と地ほどの差があります。私は…てっきり断られるものだと…。」
「そんなものなのか。ま、俺は厳密に言えば魔術師じゃないしな。」
そう口にすると、ニーナの表情が少し曇る。
いかんいかん。大人が子供を不安がらせてどうすんだ。
「安心しろ。魔術師ではないが"治療"に関してなら多少の自信がある。お兄さんに任せなさい。」
胸を張って答えると、ニーナは少し安心したようで笑顔をみせる。
やはり女の子には笑顔が似合う。先に言っておくが俺はロリコンではない。断じて違うのだ。
「ユウキ様!見えました!あれが私の住んでいる村です!」
そう言うと駆け足でニーナは村の入り口へと向かう。
視線の先には確かに村があった。
だが村というよりか集落といったほうがいいかもしれない。
立っている家々はかなりボロい。村の中には牛や羊が放し飼いにされており、周りは木の柵で囲まれているだけ。
人口はおおよそ20人がいいとこだろう。
「おう、ニーナちゃんお帰り。薬草は見つかったのかい?」
「ただいま!トムおじさん!薬草は見つからなかったけど、凄い人を見つけたのよ!」
飛び跳ねながら俺の説明をするニーナ。身ぶり手振りから察するに、大分大袈裟に説明しているようだ。
なんだか首筋が痒くなるな。
「ユウキ様ー!こちらです!早く早く!」
人に頼るという行為はあまり個人的には好きじゃない。
だけど…あんな笑顔を見せられたら、こういうのも悪くないかと思ってしまう。男って生き物は単純なもんだ。
◆◆◆◆◆◆◆
俺は大した人間じゃない。
仕事がバリバリ出来るわけでもないし、他人に自慢出来るような特技もない。
"期待される"ということに慣れていない人種なのだ。
だが今の俺に対する視線は"ソレ"である。
実に居心地が悪い。社会の荒波でコミュ力を上げていなければ発狂していたかもしれないな…。
「どうですかユウキ様!弟は治りますか!?」
期待と不安が要り混ざっているのだろう。ニーナは強く両手を握っている。
俺はニーナの弟ジルの手を握った。
治療に自信があるとは言ったが俺は医者じゃない。あくまでも"回復役としての"という意味だ。
ジルの息づかいは荒く、体温も高い。腕には何やら斑点模様まである。
はっきり言って何の病気か分からん。
正直に言うべきだろうか?
俺は横目でニーナを見る。
彼女は無言で目を閉じ祈っていた。
…なんとかしてやりたい。
どうにかして助けてやりたい。
俺は回復役だ。どんな状態異常も、どんなダメージも回復させてきた!…ゲームの中でだが。
それでもここは【千年の記憶】の世界。
ならきっと出来ることがあるはずだ!
「おねぇ……ちゃん…。」
ジルがうわ言でニーナを呼ぶ。
くそ…せめて現在のステータス情報が分かれば…。
小さなジルの手を強く強く握る。すると――。
「これは…」
ピコンという電子音と共に窓が現れる。
そこには―――。
【ジル】
【HP35/80】
【MP0/0】
【状態:呪い】
という表記。
「うっそだろおい…。」
「ユウキ様!何か分かったのですか!?」
俺の何気ない言葉に不安の色を深めるニーナ。
どうやら彼女には窓が見えていないようだ。
だがこれでジルがなんの病気にかかったかが判明した!これなら…。
「原因が分かった。ちょっと思い出すから待ってろ。」
「はい!」
呪いの状態異常だろ?たしかこいつは通常の状態異常回復スキル使っても治らないやつだ。
これにかかると毒と同じく体力減少状態になってしまう。
呪いを解除するには大きく3つの手段がある。専用アイテムを使うか、一回死なせて復活させるか、特殊なスキルを使うか、だ。
そして幸いなことに俺はその特殊スキルを持ち、なおかつここは発動条件も満たしている。
1つ大きく息を吸う。
上手くいくだろうか?
ニーナもジルの手を握る。
そうじゃない。いくだろうか?じゃないんだ。
だってそうだろ!俺は回復役なんだぞ!!
出来て当然だろが!!!
「祝福…」
俺の体から薄い光が包む。
そしてソレは次第に部屋中へと広がった。
こいつ本当に回復役引退するかと不安に?なりますが、安心してください。まだ焦る時間じゃありません。