大草原、不回避
初感想をいただきました。ありがとうございます。
最初のうちは、なるべく早く更新していきたいと思います。
公共の場ではむやみに奇声を発しないように。
幼い頃から誰もが一度は聞いたことのある台詞だと思う。
俺は今年で24歳の大人だ。間違ってもそんなことはしない。
だからこそ言わせて欲しい。なにせここは―――。
「なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」
公共の場ではないのだから。
◆◆◆◆◆◆◆
「落ち着け、落ち着くんだ俺。」
ぶつぶつと独り言を口にする不審者がいた。
勿論、俺だ。
とにかく今の状況を把握しよう。
まず場所だ。
俺は自宅でゲームをしていた。これは間違いない。
なら俺の家は青い草木が広がる大草原のど真ん中に存在しただろうか?
答えはNOだ。
俺が住んでいるところは大都会とまではいかないが、ここまで自然溢れる場所ではない。
というかそもそも家がここにはないんだが。
次に服装だ。
今日は休日で俺は部屋着姿だった。これも間違いない。
なら俺の部屋着とは長く白いローブに装飾が細かい靴と手袋、更には沢山の宝石が入ったネックレスを装着したものだったろうか?
答えはNOだ。
そんなふざけた部屋着があるなら見てみたいものだ。もう見てるけど。
以上の結果、1つの結論が出る。
「なんぞこれ… 。」
全く理解が出来ない。
もしかしたら寝落ちして夢でも見てるのかと考え両手で頬を叩いてみる。
うん、夢にしては痛い。
ガックリと項垂れ両手を地面につける。orzなんてポーズ現実にするやつなんておらんやろ、と馬鹿にしてすみませんでした。
そんなことを考えている俺の目に映ったのは1つの指輪。
2匹の龍が互いに巻きつき、指輪の形を形成している。そして龍の鱗1枚1枚に細かい文字らしきものが彫られていた。まさに巧の技術。
しかしなんだろう。どこかで見たことがあるな。
それもつい最近―――。
「あ…。」
思い出した。これは確か双龍の指輪だ。
双龍の指輪とは【千年の記憶】の最新パッチで追加された装備。こいつの凄いところは、装備するだけでMPのオート回復量を増加させる効果を持っている。
魔法職からしたら喉から手が出るほど欲しい一品。
だがこれには、1つにして最大の問題があった。
それは獲得方法である。
この指輪を獲得する為にはまず指定されたボスを20体倒し、尚且つボスが稀に落とすレアドロップも同じ数だけ集めなければならない。そして更には――。
「て、そんなことはどうでもいい!」
そう。問題はそこじゃない。
なんで俺の指に双龍の指輪がはまってるかが問題なんだ。
指輪をはめる趣味はない、だがら指輪自体持っていない。
贈る予定の相手もいなければ、結婚する予定などあるわけがない。
独身万歳。
「というか…よくよく見ればこの服装…。」
立ち上がり再度自分の服装をチェック。どうにも見覚えがある。そう…これは―――。
「ゲームキャラの装備じゃねーか!?」
服も靴も手袋もネックレスも――全部俺が苦労に苦労をかけて集めた回復役専用装備。
思い出すなぁ…。このローブ取るのに一体何ヵ月かかったことか。サスケとジョージに強制労働をさせ――。
「じゃなくてだな。」
一人ノリツッコミをするローブ姿の男がいた。
残念ながら俺である。
◆◆◆◆◆◆◆
なんとなくだが自分が置かれている状況が見えてきた。
俺はどうやら【千年の記憶】の自キャラであるユキになっている…と思う。
どういう原理でこうなったかは分からないが、おそらくこの予想は正しい。
なぜなら、身に付けている装備は全て先程まで【始まりの街アスタルク】でユキが身に付けていたものとまったく同じだからだ。
コスプレの趣味があれば持っているかもしれないが、俺にそんな趣味はないし。
ということは、他にも大量の装備・アイテム・金を所持していたはず。
それらは一体どこにあるのか?
答えはすぐに出た。
それは腰に巻いている小さめのポーチ。
これはゲーム開始と同時にNPCから貰うことの出来る魔法のポーチ…だったと思う。名称は忘れた。
試しに手を入れてみると、外見からは想像出来ないほどの謎空間が広がっている。
「これどうやって物取り出すんだ?」
手を動かしてはみるが、何かが触れる感触は全くない。
せめて……こう…飲物なんかが出てくると助かるんだが――。
「ん?」
指が何かに触れた。恐る恐る触ってみると、何やら瓶の様な形をしている。
思いきって掴み引き抜くと、ポーチの中から出てきたのは大きなフラスコ型の瓶。コルクの栓で閉められており、中にはどう見ても体に悪そうな青色の液体が入っている。
「飲物…だよな…」
これが俺の所持アイテムだとするなら、多分回復系の物だと思う。
……いや、まてよ。確か対ボス用に何種類か毒薬も入ってた気が… 。
「はぁ…。せめてアイテム名だけでも分かれば…」
人差し指で瓶を小突く。その何気なく行った行動が幸いした。
なんと瓶から浮き出す様に小さな窓が飛び出したのだ。
そしてそこには親切にも日本語で【生命の水】と書かれている。
「生命の水って…確かHP回復アイテムだったよな…てことはだ。」
コルクを摘まみ軽く力を入れて引っ張る。キュポンという音と共に容易に栓を開けることに成功。俺こんなに力あったけ?まぁいいや。
まず匂いを嗅ぐ。…うん、いける気がしてきた。
三回ほど深呼吸をし、俺は覚悟を決め青色の液体を口にする!
「………なんか普通のスポーツドリンクみたいな味だ。」
生命の水なんて大それた名称のくせして予想外にショボい。そういえばこれ所持数99でカンストしてたぞ 。
そうそう!思い出した!偽りの塔で雑魚敵からやけにドロップするんだよ、コレ。
そりゃショボくても仕方ないわ。納得。
一気に水を飲み干し、空になった瓶をポーチの近付ける。すると、まるで掃除に吸い込まれる様に空瓶は謎空間へと消えていく。
「なるほどなぁー。でもこれ、わざわざ念じないと出てこない仕様じゃ…。」
もしそうだとしたら実に使いにくい。
いくら【千年の記憶】古参プレイヤーの俺でも戦闘スキルならいざ知らず、消費アイテムや装備品を全て覚えてるなんてことはない。なにせ、今現在ユキが所持していたアイテムすら覚えてないんだからね!
でもまてよ…。
さっきアイテムを小突いたら窓が出てきた。ということは、システムウィンドウもどうにかしたら出てくるんじゃないのか?
さっきも言ったが、俺は今ゲームキャラクターのユキになっている。
そして目の前に広がる大草原も、何となくだが見覚えがある。おそらくは【千年の記憶】の戦闘フィールド…。
つまりここはゲームの中の世界…【神世界ユグドラシル】なのだ!!
「って、アホか。漫画やラノベじゃあるまいし。夢ならさっさと覚めてもらわない……と…?」
何やら背後に気配を感じる。
というかデカイ影が俺を被っている以上、間違いなく何かがいる!
機械の様に首をひねり、視線をずらしていく。そこにいたのは―――。
「グモォォォ!!」
「困るんだよなぁぁ!!」
大きな熊に出会っていた。