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回復役(ヒーラー)なんぞやってられるか!  作者: こしひかり
【第一章】回復役(ヒーラー)、引退します。
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オープニング2

『ユ、ユキ氏、落ち着くでござるよ^^;』


『ユキさん堪えて堪えて』


俺の叫びを聞いて真っ先に個人チャットを送ってきたのは忍者のサスケと狂戦士(バーサーカー)のジョージ。

この二人は固定を組む前からの付き合いで、俺の苦しみを理解している数少ない友人だ。

だが俺の昂った気持ちはもう抑えることが出来ない!


『こっちがどれだけ負担背負ってると思ってんだ。回復(ヒール)は遅い、事前の強化(バフ)は入れない、OH(オーバーヒール)MP(マジックポイント)はすぐなくなる。』


『え』


『え、じゃねぇよ。今まで我慢に我慢してきたがもう限界だ。しゃむ猫さん一人で回復役(ヒーラー)出来るなら俺はもう抜ける。そもそも回復役(ヒーラー)やれる人がいないからやってただけで、俺は攻撃役(アタッカー)がやりたいんだよ!』


『なら最初からそう言えばよくね?』


『おい、やめろって』


精霊術師の咲夜(さくや)がそう書き込むと、踊り(ダンサー)のルリルリが仲裁に入る。

ヒートアップした俺の頭も徐々に冷えてきた。


「我ながら馬鹿なことを…。」


やっちまったぁ…と思いながらキーボードを打つ。


『ごめん。言い過ぎた。でも悪い、私はここで抜けるわ。またどこかで会ったらよろしく。』


そうチャットに書き込むと『しゃーないね』や『乙乙』など簡単な別れの挨拶がくる。あっさり過ぎて少し寂しい気持ちもあるが、これはこれで良かったのだろう。

コマンドで離脱を選びパーティーから抜けると手を振る動作だけし、俺は転移魔法を使って【始まりの街アスタルク】へと飛んだ。


『ユキ氏、本当に抜けるでござるか』


サスケが珍しく^^を使わず個人チャットを送ってくる。普段はふざけているが、こいつも根は真面目なゲーマーだ。


『まぁね。ちょっと回復役(ヒーラー)やるのも疲れてきたし。これからは攻撃役(アタッカー)やってくよ。』


『ドゥフフwww忍者のことなら拙者にいつでも聞くといいでござるよ^^』


『サスケェ…』


『なにせ拙者、今しがた(マスター)忍者になったでござるからな^^にんにん^^』


『へいへい』


『嘘じゃないでござるよ!職業欄に追加されてたでござる(`・ω・´)』


『んな馬鹿な…』


システムメニューから職業選択を選ぶ。

俺が今まで習得してきた職業がずらりと並んでいるが、光術師以上にやり込んだ職業はない。悲しいなぁ…。

そんなことを考えながらカーソルを下げていくと、なんとそこには初めて見る職業名が。


『本当にあったわ…』


『おぉ!ユキ殿はなんでござるか?極光術師でござるか?』


俺は目を疑った。

そこに書かれていた職業は―――。


『女神』


『え』


『女神って書いてある』


『…』


『…』


なんとも言えない空気が流れる。

というか!職業女神ってなんだよ!それ職業じゃねーだろ!

もしこれになったらあれか?『ユキさんの職業何ですか?』って聞かれたら『女神です』って答えなきゃいけないのか!?

ただの痛々しい奴じゃねーか!


『じゃ、拙者これからしゃむしゃむ氏の放送に参加するからバイバイキーンでござる^^;』


それだけ言い残すとサスケからの個人チャットは途絶えた。

あの野郎…そんなにリアル女がいいのか!多少は分かるけど!!


「それにしても何だよ…女神って…。」


口では文句を言うが俺もゲーマーだ。新しい職業には非常に興味がある。

さっそく職業を光術師から女神へとチェンジさせてみる。


「どれどれ…ステータスは……うぉ!MP(マジックポイント)すげぇなおい!基礎回復(ヒール)量も増えてるし、完全に光術師の上位だなこれ。」


光術師から女神へと転職(?)した俺のキャラクターは異常なまでの強化を果たしていた。

女神の肩書きは伊達ではないらしい。


「肝心のスキルは…っと。」


使用可能スキルを確認。光術師の時とほぼ変化はないが、新しいスキルがいくつか追加されている。


「【女神の寵愛】に【神のいたずら】…おぉ!【天撃】なんてのもあるのか!名前だけは無駄にかっこいいなー。」


攻撃スキルなのか回復スキルなのか、詳細が記載されていない為まだ分からない。

この勢いそのままにフィールドへ出て試してみたい。みたいのだが――。


「でもなぁ…。」


チラリと先程のチャットログに目を配る。

回復役(ヒーラー)に飽きているのは本当だし、攻撃役(アタッカー)をやりたいのも本心だ。

実際、女神と(マスター)忍者どっちやるかと問われれば迷うことなく後者を選ぶだろう。


(でも新しいスキルは使ってみたい。すごく気になる。しかしなぁ…。)


葛藤に頭を抱えているとピコーンっと個人チャットの音がする。相手は…。


「ヴィクトリアさんか。」


彼との付き合いはサスケやジョージよりも長い。【千年(サウザンド)記憶(メモリー)】がオープンされてからパーティーを組んでいるので、実に3年間共に戦ってきた戦友である。

彼の凄いところは向上心だろう。同じ失敗は繰り返さない。(メイン)壁役(タンク)ではない俺やサスケの意見にもきちんと耳を傾け、そして取り込んでいく。

ジョージもヴィクトリアさんを師匠と崇めるほどだ。

彼の壁役(タンク)技術は全サーバー含めてもトップクラス。回復役(ヒーラー)の俺が言うんだから間違いない!


『ユキ、大丈夫か』


その言葉と同時にヴィクトリアさんが目の間に転移してきた。転移魔法は魔法職しか使えないので厳密にはアイテムを使って移動したが正しいのだが…まぁ細かいことはいいか。


『ははは、我ながら恥ずかしいところを…』


『いや、ユキの言うことは正しい。回復役(ヒーラー)でない私から見ても、あの女には無駄が多かった』


『そりゃ私と比較すればね。他の回復役(ヒーラー)よりかは……多少まし?かな』


『そうなのか?私はユキ以外の回復役(ヒーラー)を知らないからな…よくわからん』


考える動作をするヴィクトリアさん。

3年付き合ってきたが彼は結構謎が多い。

まず俺以外とは絶対にパーティーを組みたがらない。まぁこれはわかる。頼りになる相棒がいないと不安なのは俺も一緒だ。

だが問題なのは、本当に"俺もしくは俺が入っているパーティー"にしかこないということ。

MMORPGはその名の通り大人数でやるゲームである。

勿論、ソロプレイも出来なくはないのだがレベリングや素材集めにかかる時間は倍以上になってしまう為まずやる奴はいない。

そんな苦行を彼はやっているのだ。

俺は一度だけ彼に働いてるのか?と聞いたことがあった。するとヴィクトリアさんは『当たり前だ!』と言って怒ってしまい、1週間ほど口を聞いてくれなくなったのをよく覚えている。


もう1つは彼のロールプレイへのこだわりだ。

彼のキャラクターは赤い長髪の女性キャラクター。そして職業はオープン当時からずっと変わらず騎士系をやり続けている。

勿論、上級職を取るためにいくつかの職は極めているのだが俺は彼が騎士系の職業以外になっている姿を見たことがない。

3年間1種類の職業しかやらないというのは相当の覚悟、もしくはプライドがないと出来ないだろう。

あのサスケですら最初は魔術師になろうとしてたのだ。

ちなみに、これをネタになんちゃって忍者とたまに呼んでいるが。


『それよりもユキ』


『うん?』


回復役(ヒーラー)を辞めるとは本当なのか?』


『あぁ…あれね…』


『私は―――』


ヴィクトリアさんは少し困った動作をしてチャットを打つ。


『私は嫌だな』


『え…』


『ユキ以外の回復役(ヒーラー)とは組みたくない。これからもずっと私のパートナーでいてほしい』


突然の告白。ヴィクトリアさんも照れる動作をしている。

普通なら『お前は俺の専属回復役(ヒーラー)だから、これからも続けろよな』的の自分勝手な言葉に聞こえるが、彼が言うと誠実さしか感じない。

それくらいヴィクトリアさんは騎士としてのロールを常に心掛けているのだ。


『それはプロポーズですか』


『ばばば、馬鹿を言うな!そんなわけあるか!』


『ですよねー』


『それに…その……お、女同士では結婚など出来ぬではないか…』


凄く照れる動作をするヴィクトリアさん。彼は俺のこともちゃんと女性キャラクターとして扱ってくれる。本当に【千年(サウザンド)記憶(メモリー)】が好きなんだろう。

たまに『女がそのような言葉を使うものではない!』と怒られるけど。


『そうそう、新しい職業手にいれたんですよ』


『ほう。それは興味深いな。どういう職業だ?』


『それが…その…実に言いづらいんですが…』


『私は気にしない。言ってみろ』


『女神です』


『え』


『女神なんです』


『…』


『…』


2度目となる独特の空気が流れる。もう苦笑いしか出てこないな。


『い、いいんじゃないか!』


『えー。だって女神ですよ?』


『ユキにピッタリではないか。うむ。実に合っている!』


ヴィクトリアさん、いいんですよ。無理に慰められると傷口がどんどん広がることだってあるんです。


『して、何か新しい魔法は覚えたのか?』


『まぁそれなりに。試しに使ってみますか』


俺はスキル一覧から新たに追加された【転生】というスキルを選択する。

すると俺のキャラクターは神々しい光をのエフェクトを纏いながら詠唱に入る。


『うげ…なんだこの詠唱の長さ…。絶対戦闘向けじゃないな…』


『ユキ。女足るもの、もう少し慎みをもった言葉使いをだな…』


『お、詠唱終わった』


なんだこれ?

普通、魔法詠唱終わったら勝手に発動するのに何で【実行しますか?】なんてボタン出てくんだ?


「ま、いっか。」


俺は何の考えもなしにボタンを押す。


すると――




『転生を行います』




世界が一変した。

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