表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

PM5:48



かっこいい人だと思って思わず見つめた。

次に誰だろうと思って首を傾げたところ、その人は痛そうに顔を歪めた。

歪む顔さえも様になっているから驚きだ。

白い簡素なベッドの上、頭と足首に包帯が巻かれている私には、今どんなことが起こっていて、目の前の彼が誰なのか、全くわからなかった。


「りこ、」

目の前の人が掠れて消えてしまいそうな程の声で私の名前を呼ぶ。

不思議だ。

それが自分の名前だとわかるのに、彼が誰なのか皆目検討もつかない。

それに加えて、彼に名前を呼ばれた時の一瞬の違和感。

このもやもやはなんだろう。


「……あの?」

私の声に彼は弾かれたようにこちらを見た。

「貴方は誰ですか?」

失礼だと思いつつ私は彼に問いかけた。

彼は眉間にシワを寄せたが、次の瞬間、本当に微かに微笑んだ。

例えば悲しみを押し殺す笑みではなくて、それはどこか嬉しそうなものだった。

ザワリ、と何かが心の底で蠢いた。

多分その笑顔がとてもーー心の底からのものだと思ったからだ。

そして、彼は口を開いた。

「俺は君の恋人だよ、莉子」

差し出された手のひら、骨ばった右手薬指には、私の指に嵌められているものと同じものが存在していた。

「こい、び…と」

「うん」

呆然とする私に彼は現状を説明してくれた。


大学に入ったところまでは覚えていた。

私は大学二年に進級していて、なんと文化祭の準備中の事故で頭を打って一時的な記憶喪失になっているらしい。

大学生活一年半分の記憶はどこかに消えてはいるが、恐らく二、三週間で戻るだろうと彼は言った。


「戻るんですか…よかった」

安堵のため息をついた。

ふと、近くにあった鏡に目をやった。

「あれ……?」

私って、こんなだっけ。

そんな馬鹿みたいな疑問が頭に浮かんだ。

伸ばしていたはずの髪は肩口で切られていて、化粧は可愛らしいものに、決して着なかった可愛いパステルピンクの服に、ピアスの穴。

大学生活一年半のうちに、私はこんなに変わってしまったのか。

愕然とした。

「莉子、大丈夫?外傷もないし、帰っていいらしいから家まで送るよ」

彼の笑顔を見たとき、私は心の奥が暖かくなるのを感じた。


あぁ、きっと私が失った「私」は彼が好きだったのか、なんて思った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ