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第七話 心優しき商人

 日を跨いでしまいましたが、投稿できました。読んでくださる読者様に多大なる感謝を。

「さてと、聞きたいことは沢山あるし、そっちも俺に聞きたいことはあるだろうが……」


 食事の用意が整い、火を起こした焚き火の周りを囲むとアルフは口火を切った。


「坊主、お前まずその眼を隠しておけ」

「え……?」


 言われた意味がわからなかった。眼を隠す? この世界に来てから、鏡を見ることは出来ていないが、俺の眼は正常なはず。むしろ、地球にいた頃よりも良くなっているのだ。それを隠せというのは一体どういうことだろうか。

 そんな俺の思考を見計らったかのように、隣に座っていたアーテルニクスが服をちょいちょい、控えめに引っ張ってきた。


あるじよ、失礼します――《氷鏡面ブリザードミラー》」


 アーテルニクスが呟くと、俺の目の前に小さな氷の塊が現れた。そして、俺はその氷に写った自分の顔を見て驚く。


「これは……」


 そこにあったのは、地球にいた頃の俺よりも幼く、整った顔立ち。そして、魔法陣の刻まれた瞳。正確には刻まれているというより、瞳の中に魔法陣が展開されているといったほうがいいのだろうが、自分の意志で展開させているわけでもないのに、魔法陣が出現している。


「さっきわたしとの契約をした時に何らかの影響があったみたいね」


 どうやら彼女も詳しいことはわからないようだ。


「……アルフさん。目を隠す理由はわかったのですが、俺は無一文なのでこれを隠す物を買うこともできません。素材もないので作ることもできないですね」


 そう、俺は無一文なのだ。この世界に来てからどんなに動いても疲れなくなったり、腹が空かなかったりしているが、それがいつまで続くかもわからない。自分の体のことについて、特別な能力ちからを持っているということしか知らない。

 俺が無一文と知って、アルフどころかアーテルニクスまで驚きの表情をしていた。


「おいおい、 さっきの村に来るのに一番近い街から、最低でも五日はかかるんだぞ。お前、ここまでどうやって来たんだ?」


 その問いに言葉が詰まるが、それらしく嘘をつくことにした。


「えっと、途中で拾った木の実とかそういうものを食べてましたね。体力は結構ある方なので、なんとか耐えてました」


 知らない他人であるはずの俺に、ここまで優しく接してくれたアルフに対して、嘘をつくのは凄く嫌な感覚があるが、俺自身が自分の体のことをよく把握してもいないのだ。あまりおかしなことを言うこともできない。そんな俺に、何か言いたげな視線を、横にいるアーテルニクスが向けてくるが、視線だけを向けて話は後だと釘を刺した。


「そうか……わかった。そういうことなら、次の街に着くまでの間、俺が今共に動いてる商隊キャラバンの護衛をやらんか?」


 俺の言葉に驚きを見せたアルフは、何かに納得したように一度頷くと俺に言った。その唐突な要請に今度は俺が驚く。


「え!? 自分で言うのもなんですけど、こんな得体の知れないガキなんかを助けてくれただけでも有難いのに、そんなことまでして貰うわけには――――」

「――――何も俺は無償でやれと言ってるわけじゃねぇ。それに護衛の仕事は命懸けだ。見たところ持ってる武器は、ついさっき契約とやらを交わしたそこの嬢ちゃんだけだろ? そんな奴を盗賊や魔物が出た時、前線に放り込むような奴がそんな優しいかよ」


 俺の声に被せてアルフが言葉を重ねる。その言葉には、俺を助けるためだという思いが分かり易いほどに乗っている。しかし、あくまで体裁を保つ為に危険である仕事を割り振っているのだ。

 俺が断りにくくなるように。

 それは、俺がここまで一人で旅をしてきたと言った嘘が原因だろう。魔物の出る可能性のある平原地帯を、一人で突破してきた若者。そういう認識があるからこそ、この条件を出してきたのだ。


俺は剣を振ったことも無いんだがな……。

「主よ、あなたはわたしに何を視たの?」


 またもや、俺の気持ちを読み取ったかのように、アーテルニクスから告げられたその一言で気づく。


「剣の記憶……もしかして、あの中で見たのって……」

《そう、わたしの記憶。あなたは視た筈よ……担い手たちの戦を。そして獲得している筈》


 そこまでを、アルフに聞こえない頭に響いてくるような声でアーテルニクスが言うと俺の目をまっすぐに見つめた。


「武器としての私と、何より自分の感覚を信じなさい」


 武器としての彼女を信じるのは簡単なことだ。地球で武器を持ったことのない俺からすれば、彼女はその存在がるというだけで異質なのだから。しかし、彼女の言う、自分を信じろという言葉。それは、とても難しいものだ。自分の力の限界を知らない、今の状態では戦えるかどうかも分からない。そんな俺の思考を、彼女を通して視ることのできた歴戦の猛者達の姿がぎる。


「――――ッ!?」


 自分では体験したことのない、武器としての彼女の振るい方。相手がどんな行動をしてきた時、どのように動けば最も容易く相手に攻め込むことができるのか。彼女を使う者のわざと覚悟。

 それは、視た瞬間からたった今それに気付くまで、確かに俺の中に巡っていたのだ。体が浮くような感覚。実際に体が浮いているわけでも、軽くなったわけでもない。かのじょを扱うのに最も合った、体の動かし方を考える必要もなく、識った瞬間に理解していたのだ。拒否していたのは俺自身。今までと全くと言っていいほど違う体の使い方を、体は受け入れようとしても、頭では受け入れていなかった。

 平原で走り始めた時、既に仮定は作ることができたはずなのだ。視た後に、急激に上がった疾駆スキルのレベル。それに疑問を持ちつつも、目先の楽しさを優先してしまった。平原で考えていた、魔物の危険性や、つい先程の村で見た光景。それに対してしっかりと考えを及ばせていれば、自身の能力の解明が先だと気付けた。その事に今更気づいたことに、俺は自分自身に呆れた。


「本当に今気付けて良かったよ……」


 神から俺に与えた能力ちからは、“視る”事によって事象の本質を“識る”。同時に、識るということは、自分の力へと還元されていくのだ。今回ならば、アーテルニクスを視た事によって、彼女の扱い方と、彼女を使った過去の人々を識ることができた。同時に、俺自身もそのわざと使った人々の研鑽の積み重ねを、自分のモノとして体得することができたんだ。


「やっぱり、この条件じゃ受けては貰えないか?」


 俺の呟きが聞こえたせいだろう。アルフがこちらを心配そうに見て、言ってきた。

 自分の出来ることが分かった俺には、既にアルフの誘いを断る理由がなかった。むしろ、地球では力が無かったせいで守ることの出来なかった人達がいるのだ。守れと言われて守れないのではなく、守れるのなら守ろう。


「受けます。次の街に着くまでの間、よろしくお願いします」


 覚悟を決めた俺が放ったその言葉を聞いて、アルフは本当に嬉しそうに喜んでくれた。それを見て、俺も嬉しくなってしまう。彼が笑った理由が、商隊キャラバンの安全確保が出来たという思いよりも、俺を心配してくれていたからだと分かっていたから。

 彼はひとしきり喜びを表すと、唐突に真面目な顔になって言った。


「とりあえず、質はやたらと良いくせに体に合ってない、お前のその服をなんとかしなけりゃならんか……」


 彼はそう言って自分の馬車の中を漁ってくると、シャツとズボン、それと最低限の防具として胸を守る小さめのプレートアーマーを持ってきた。


「取り敢えず、それでも着ておけ。明日の朝から早速働いてもらうからそのつもりでな。俺は準備とか色々あるから、向こうで嬢ちゃんとゆっくり話して来い」


 俺は素直にアルフの好意に甘えることにした。


 今回で、織徒の能力の情報を少し詳しく書きました。次回は、アーテルニクスとの対話によって話を進めていきたいと思います。

 少し急な話の展開になってしまったでしょうか? 少しづつ進めているつもりですが、書きたい話に早く辿り着けるように少し焦ってしまっているかもしれませんね。

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