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第四話 歩いて、また歩いて、まだ歩く

書いているうちに寝てしまう事故が発生……。

一部分で詰まったおかげで大分時間が遅くなりましたが本日の一話目投稿です。この調子だと確実に二話目投稿は日付が変わりそうです。

 歩いた。

 とにかく歩いた。

 ひたすらに、無心で歩いた。

 いや、この言い方だと少し語弊があるな。歩き始めた当初は、色々考えていたこともあったのだ。

 どうやってこの世界で元々いた世界に関する情報を手に入れるのかということから始まり、この世界ではどんな文化が栄えているのかという、この世界の常識を考えた。

 それに関する、俺個人の憶測を纏めた後、危険な世界だと想定した俺は、この世界で生きていくだけの力として、俺にも剣や魔法は使えるのだろうかとか、それを修得するにはどうすればいいのか。神から与えられた眼はどのように使っていけるのか、相手として立ちはだかるであろう魔獣はどのような姿をしているのか。とにかく、どんな状況にでも対応できるように、考えられるだけのことを、ぶつぶつと呟きながら頭のなかで整理していたのだ。

 傍目から見れば、難しい顔をして何かを呟いている怪しい人物に写っただろうが、この平原には人など一人も見えないのだから気にすることは無かった。思考を整理し、記憶しておく手段として、声に出して確認することは非常に有効なのだから。むしろ暇を持て余している、ただ歩くだけのこの状況で、それをしない方がおかしいだろう。

 しかし、それらのことを考え続けても、一向に先ほど荷馬車が通っていたように見えた道へは辿り着かない。いや、確かに歩いてはいる。その為に近づいているには近づいているのだが、その距離が歩き始めた当初思っていたよりも、遥かに遠いのだ。


「一体、いつまで歩けば道に着くんだよ……」


 視界に違和感はなく、あるのは体が縮んだことによる、手や足の長さの違いからくる、ちょっとした動きにくさ。だが、それもこうして歩いている数時間の間に消えていた。

 ここまで移動を続けてきて、今更の考えが俺の頭の中に浮かんでくる。そして、実際に体感として感じることができるのだ。それは本当に、今更のこと。こうして何時間歩いたかもわからないほど歩き通しているのに、一向に疲労を感じることがない。そして、比較物がないので正確にはわからないが、確実に目が良くなっている。もしくは遠くを見ることができるようになっているのだ。


「もしかしなくても、前にいた世界の体よりこの体の方がスペック高くなってるよな……」


 神から貰った指輪のステータスやスキル、その他諸々の項目にも書かれていないことはあるようだ。かなり細かく、どうでもいいようなことまでスキルの欄に書いていたので書いて無い事はないと思ってしまっていた。


「情報の正確性には気を付けないとな……」


 その後、これからの注意点を頭の中で整理しながら歩き続け、体感時間でおよそ二時間。やっと地面の雑草などが禿げた道らしき場所に出た。


「やっぱりこの世界は馬車が主流みたいだな」


 地面に残った、馬鉄をつけた馬が歩いた様な跡を見て当たりを付ける。そのままその道の前後を確認するが、流石にかなりの時間が経っている為に先ほどの荷馬車の集団の姿は見えなかった。


「仕方ないか。また、歩く旅の時間ですかねぇ……」


 流石にそろそろ半日近く歩いているので、歩き飽きてきた。そこでふと気づく。


「あれ、異世界物の小説とかだと、魔物とか盗賊とかいたよな……? たしかさっきの指輪のスキルの欄にも魔物識別スキルとかってのがあった気がする。半日近くも歩いたってことは、神のやつがこの世界の朝方に俺を呼んだとすれば、そろそろ日暮れ。ということは、これってかなりやばいんじゃないのか……?」


 敵を識る以前の問題だ。腹はまだ減ってないから余裕を持って考えるとして、それ以上に危険な魔物やら盗賊やらに見つかったら、俺の命が危ない。今さらの考えに追い討ちをかけるかのように、どこからか獣の鳴き声らしきものが聞こえてきた。上に目を向けると、当たり前かのように日が沈み始めている。


「うん、走ろう。体力がどれくらい続くかわからんけど、取り敢えず助かりそうな何かが見えるまでは走らないとやばい気がする!」


 まず一歩目、力を込めて地を蹴って走り出した。驚いたのが、地球にいた頃とは比べ物にならないくらいの加速力。それが嬉しくて、俺の足はどんどんと地面を蹴っていく。その嬉しさが走り続けて薄れてきた頃、もうひとつの事に気付く。走っているのに全くと言っていいほど息が切れない。それどころか、徐々に気持ち良い開放感のようなものまで体に満ちてくるのだ。ふと、不思議に思って自分の体に向かって視線を向ける。その瞬間、指輪を見た時と同じように大量の情報を頭の中に叩き込まれる。しかし、その量は指輪を見たときのそれより圧倒的に少なく、頭痛が起こることもなかった。


「そんなに集中して見てなかったのになんで……?」


 疑問に思うも、それ以上の違和感のようなものが襲ってきて疑問を塗りつぶしてしまう。その違和感は、自分の走り方だった。今までと全く同じ走り方をしているはずなのに、これでは効率が圧倒的に悪いという思いが胸を占める。違和感を無くそうと一度止まると、何事もなかったかのように違和感も消えた。


「どういうことだ?」


 魔物や盗賊のことも忘れ、その場に立ち尽くした俺は自分の体を調べるが特に変わったことはない。ダメ押しに指輪の機能を開き、ステータスを確認することで何故あんなに強烈な違和感を感じたのかが分かった。


「疾駆レベル50……これのせいなのか? でもなんでいきなりレベルが跳ね上がって――――さっき視たせいか?」


 ステータスには、数多くあるスキルのうちの『疾駆』というスキルのレベルが0から50になっているのが表示されていた。原因は先ほど自分の体を視たせいだろう。それにしてもこんなに一気にレベルが上がるものなのだろうか?


「まぁ、いっか。スキルが上がったってことはさっきの違和感がなくなる走り方で走ればいいんだろうし、知らないうちにレベル上がってラッキーくらいに考えておこう」


 この世界に来てからまだ一日も経っていないけど、俺の知らない事ばかり起こる。世界が違うのだから当然だと思うのだが、それにしてもファンタジーというのは凄いと思う。前の世界では体験できなかった唐突な自分の成長を実感できる。でも、本当にそれでいいんだろうか?

 俺の疑問は走ることによって生まれる風の音の中に紛れていった。



 どれくらい走っただろうか。

 いや、この入り方はもうやったか。

 ついさっきと同じことを今もまだやっている。どれくらいかというと、あれからまた3時間ほどだ。

 ひたすら道に沿って走り続け、途中にあった災害か何かの跡の横を通り過ぎ、森の中に見えた鋭い牙を持った何かに怯えつつさらに突き進み、しまいには地球では見ることもなかった謎の巨大飛行生物が上空を通り過ぎる。


 そしてついに、ついに!

 ついに着いた! 着いたんだよ!!


 廃村に……。


「なんだよこれ……」


 目の前に広がるのは石の家、石の人、石の家畜。そして朝方に見かけた馬車の集団だ。ここで立ち止まっていても仕方ないので、俺は生きている人たちに近づくことにする。

 俺の頭の中には、地球での出来事がフラッシュバックされ続けていた。


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