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第一話 暗闇は精神世界?

今日は何話か投稿したいと思います。

 意識は、暗闇の中で浮上した。

 初めはここがどこだか分からなくて、必死になって情報を集めようとする。でも、すぐに気づいた。ここは実際に自分のいる場所ではないのだと。

 精神という現実からは遠く、しかし密接に関わり合っている世界。

 精神論はよく話題にされ、本としても出版されているものが多い。気の持ち方で現実世界に実際に何らかの影響を及ぼすというのは、よく言われていることだ。

 俺はこの暗闇の精神世界に落ちて、それが本当の事だと実感した。

 現実では感じることのできない、圧倒的なまでの“力”を自分という核でひしひしと感じるのだ。同時に、その力を自分が持っているという全能感の様なものまで感じてくる。



(何を、馬鹿な……自分に力がない事なんて、さっき思い知ったばかりじゃないか……)



 元から自分に、特別な力があったとは思わない。子供の頃は周りの人よりは足が早かったり、勉強が出来たりといったことを、他人から言われることはあったが、年を重ねるごとにその差は埋まっていった。

 つい先程だって、いつの間にか自分の胸に槍が刺さっているのを、事が起こったあとに認識したし、ここが精神世界だとわかったのも、自分がこの世界に完全に浸かってしまっているからだろう。現実ではこの世界のことは決して認知できなかったに違いない。

 それでも、この世界では不思議と、自分には扱いきれないのではないか、というほどの力が自分にみなぎっているのが感じられるのだ。そして、暗闇であるというのは分かるがそれ以外の情報は、自分に有り余る力のようなものがあるという事だけ。

 どこかに光はないのだろうか、と思考を浮かべると急に目の前に光の玉が出てきた。それに驚き、その光の玉が自身の体から出来ているのだと頭ではなく、体で理解した。といっても、今の俺は確固たる体を持ってはいないようだ。

 気づくと気になってくるので、自分がどんな格好をしていたかというのを考えると、今度は白のワイシャツに、黒のジーパンを履いた、死ぬ前の自分の体が出来ていた。もちろん俺の精神であろうものを中心にだ。一瞬の出来事。しかし、それを自分が行ったのだと理解できる。



(この感覚はなんなんだ……?)



 俺の中にある“力”。その中でも、特に異質なものがいくつかあった。それらの力を意識して見ると、光の玉として目の前に現れる。しかし、それらはまるで、開けてはならないパンドラの箱であるかのように、鎖でがんじがらめにされているのだ。



(白い光と黄金の光、それに、黒い光?)



 光っているのに黒いというのはおかしい表現だが、間違ってはいない。この深淵のような黒一色の世界の中に現れた、白と黄金の光による、明るい空間を塗りつぶすかのような、漆黒の空間。抽象的な言葉としてしか表せないそれは、黒い光と言うしかないものだった。

 それ以外にも、様々な色の光が蛍の大群の様に浮いているが、その3つからは特に異質な力を感じ、鎖も3つの光にのみ、厳重に巻きついていた。



「縛ってる……いや、閉じ込めてるのか?」



 その表現は、正しくないが的を射ていた。

 この光に纏わりついている状態を、正確に言葉にするならば、それは“封印”だ。封印とは何か。例えば“力”を、例えば“道具”を、例えば“存在”という、一般的なモノからは掛け離れたものを遠ざけたり、使わせない為に施すものである。

 それを俺は理屈などを抜きにして、直感的に感じていた。いや、自分自身である、この精神世界の中に存在するものなのだから、感じられなければおかしいのだ。

 精神世界という、今まででは考えたこともなかった世界の中で感覚を把握すると同時に、まるで誘われるように、俺の手はその光に伸びていた。そして、光を閉じ込めるように纏わりついている鎖に手が触れる。瞬間、周りに漂っていた光の郡が一気に俺の体へと迫り来る。



「う、うわぁっ!?」



 突然の出来事に、つい先ほどこの身で受けた死の洗礼を思いだし、咄嗟に目を瞑ってしまう。精神世界である、この場では、既に胸に痛みはなく、穴も空いていない。だが、非現実的な場所である。現実と違うここでは何が起こってもおかしくないんじゃないのか。そう思えてしまっていた。

 しかし、いつまで経っても先程受けたような痛みはなく、むしろどこか安心を得られるような充足感が、体の中に芽生えてくるのだ。

 不思議に思って俺は目を開けてみる。



「……何があったんだ?」



 辺りは光源を失ったことで暗くなっていた。いや、まだ光源はある。先程鎖で縛られていた3つの光だ。だが、目を瞑ってしまった前と、目を開けた後で僅かな変化があった。

 触れた黄金色の光に纏わりついていた鎖が、まるで風化しているかの如くボロボロになって、散り始めていたのだ。



(鉄の腐蝕って、結構長いあいだ雨風にさらされてないといけないんじゃなかったっけか……?)



 俺が考えたことは、その現象に対する異常なまでの腐蝕の速さの考察だった。光がどこに消えたのかという疑問は、頭の隅にはあったが、それ以上に目の前の現象に対しての興味の方が上になっていた。

 先ほど抱いた死への恐怖は、既に胸の中からはなくなっている。代わりに、死ぬ直前にも誓っていた、自分に対する一つの誓約が鎌首をもたげる。精神世界で意識が覚醒してから、始めて“識る”という行為を頭の中に思い浮かべていた。

 俺は、識る為に一歩を踏み出す。不思議と恐怖はなかった。、むしろ、この光に触れることで多くの事を識る事ができると、確信してさえいた。

 ゆっくりと、しかし確実に俺の手は光へと伸びていく。鎖の腐蝕は俺の手が近づくと、今とは比べられないほどに早く、一瞬でボロボロに朽ちていき、光に触れる頃には、黄金に輝く光に纏わりついていた鎖の存在は、この場から消えていた。

 俺の手が光の玉に触れるか、触れないかのところで止まった。恐怖はないが、躊躇いはあったのだ。これに触れて、何かを“識る”ことで完全に後戻りができなくなるのではないかという不安。

 俺が死ぬ前に現れ、俺を殺したであろう天使のような女性と、こちらの事情を全て知っているかのように振舞っていた、誰ともしれない声の主。恐らくは天使を使って、俺を殺したのだろう。天使を従えることのできる存在といえば、神だろうか。神といえば世界の主というイメージがある。そんな奴がなんで俺なんかに声をかけてきたんだろうか。

 ふと、そこまで考えて自分がこの非現実的な状況を受け入れ始めていることに気づいた。



「……ここまでくれば、どこまで行っても同じか」



 諦めにも似た心境。一度死んでしまったのだ。まだ意識があるうちで、出来ることがあるのならやっておいたほうがいい。そんな気持ちで光に触れた。

 光は、俺の手の中に収まると、俺がその能力を吸収しているかのように、どんどんと大きさを小さくしていき、俺の体へと吸い込まれてしまった。



「あぁ……そういうことか」



 そして、俺の予想通り、光に触れ、吸収したことで“識る”ことができた。この精神世界は、俺の魂そのものであり、世界と世界をつなぐ空間の一つでもあるらしい。

 情報を識ることはできたが、まだ俺には理解できない部分が多くある。識った事によると、俺が死んだことにより転生の準備のようなものが整ったらしい。そして、その転生先の詳しいことは分からないが、魔法の世界。つまりは現実で小説などで描かれていたファンタジーの世界に行くらしいことが分かった。

 俺を殺した神であろう奴は、俺を異世界に渡らせたかったらしい。読んだことのある小説を元に考えるのならば、俺を異世界に送る理由はいくつか考えられる事もある。



「ただの気まぐれか、何らかの目的があって異世界に俺を送るのか。言葉の軽さや、雰囲気だけで判断すれば気まぐれの可能性の方が高そうな気がするけど……とりあえずは、情報収集から始めないと何もわからなさそうだな」



 俺は、思考を切り替えて考える。こんな状況に陥ってまでファンタジーがありえないだとか、神なんて存在がいるわけがないとか言うのは状況を把握できてない奴か、“絶望”を知らない人間だろう。俺は、絶望の果てに“識る”という行為を見出し、その延長線で今、自分の魂の中に意識を落とし、考えることができている。これが凄いことかは分からないけれども、考えられる状況があるのに思考放棄をしてしまったら、これから先、前には進めなくなってしまうだろう。



「赤ん坊からやり直すのか、それとも俺の体はそのままなのかが問題だな……」



 もし、生まれるところからやり直すのだとしたら、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。目的があるから死ぬことは絶対にしないだろうが……。



「ん……? 考える暇もほとんど無いのか」



 意識が精神世界から引き上げられていく。ふと、残り二つの光が気になって、それを“識ろう”と、意識を向けてみるが、今では分かる、鎖による“封印”のせいで光が何なのかを識ることはできなかった。



「まぁ、なるようになるか……」



徐々に薄れていく意識の中で、光がなんなのか判らからなくて残念に思いながらも、これから先のことを考えつつ呟いた。


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