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閃光の追跡者

正気の沙汰とは思えなかった。自分の魔力のほとんどをその手に持った刀に込めるなんて。

「坂井先輩…!」

声が届く事を期待していなかったと言えば嘘になる。おそらく、刀に込められているのは一度坂井先輩が自身の中で練り上げ不純物を可能な限り取り除いた高純度の魔力。魔力は純度を増せば増すほどその力も比例して大きくなる。だが、その分扱いには相当な集中力を要求される。例えるなら高濃度のアルコールを全身に浴びて炎の上で綱渡りをするようなものだ。集中が途切れれば込められた魔力は制御を失い込められた刀は破壊される。そうなることが理想だったのだが、今なお坂井先輩の集中力には揺らぎが見えない。それどころか集中力は徐々に高まっている。

「仕方無い。」

言い訳を呟く。言葉はなんの免罪符にもなれはしない。しかし、今の坂井先輩は止めなくてはならない。込めた魔力を斬撃波として飛ばしてくるにしろ性能強化に当ててくるにしろこのままでは俺や観衆だけでなく坂井先輩自信が危険だ。求められるのはギリギリの精度と瞬間火力。それを実現させることのできる術式装備をイメージし空間接合式を展開する為のシーケンスを頭の中に呼び出す。接合先の空間座標を固定。自身をコンデンサに空間接合継続の魔力を貯蔵。そして接合先から取り出す物体を指定し接合元に右手を選択。メタデバイスを起動。接合開始。

「コール!閃光の追走者〈フラッシュチェイサー〉!」

自分の周りが白い光で充満し足元に円陣が出現する。自分自身の魔力を高め右手を坂井先輩に向け突き出す。すると充満していた光は球状に収束しその中で物体を形成する。形成された物体を右手が捕らえた瞬間に光が弾けた。弾けた光は舞い上がりしんしんと雪のように舞い落ちる。俺の右手にはしっかりと回転弾倉式自動拳銃〈フラッシュチェイサー〉が握られている。〈フラッシュチェイサー〉の弾倉をスイングアウトしマーカー弾が一発と識別弾が五発が装填されていることを確認してマーカー弾と識別弾のそれぞれに性質の違う魔力を充填する。カチッという音がして〈フラッシュチェイサー〉のセーフティが外れる。二種類の魔弾への魔力充填が終了したサインだ。〈フラッシュチェイサー〉への集中を一旦といて坂井先輩と観衆に意識を向ける。観衆は気味が悪い位に静かだった。一回戦の時は終始声援が飛んでいたのだが今はひたすらに沈んでいる。そう沈んでいるのだ。おそらく、坂井先輩の唯ならぬ魔力の高まりに当てられたのだろう。じっとフィールドを見ている。ある意味酷いプレッシャーだ。坂井先輩はと言うともうそろそろ魔力を込め終わるといった様子だ。俺は〈フラッシュチェイサー〉のスライドを引き銃口を坂井先輩に向ける。初弾は絶対に外せない。ゆっくりと坂井先輩が刀を抜き右上段に構える。対して俺はグリップを握る手に力を込め肩の力を抜く。先輩が勢いよく足場を蹴る。

「ぜらぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

約10mを先輩は一気に間合いを詰めてくる。自己加速魔法も併用している。しかし、10mあれば充分だ。上段の構えは刀の腹がホンの少しではあるがこちらを向く。その腹を狙い俺は引き金を引く。パンッと乾いた音と共にマーカー弾が発射される。キンッと金属同士が接触する音がして先輩の体制がハッキリと崩れる、すぐさま引き金を引く初弾とは比べ物にならない反動が全身に伝わる。先輩もすぐに体制を立て直し刀を振り下ろす。しかし、振りおろしたその刀は俺には決して届かない。

「なっ…⁉︎」

坂井先輩が驚きの表情を浮かべる。振り下ろされた刀に既に刀身はない。先ほど〈フラッシュチェイサー〉から放たれた識別弾がマーカー弾の命中したのと全く同じ場所に命中し刀身を砕き折っていた。折れた刀身は込められた魔力が制御を失ったことで暴走し砕け散った。先輩に足払いを掛けて引き倒し左腕をねじり上げ〈フラッシュチェイサー〉の銃口を後頭部に突き付ける。

「だ、第二試合勝者…。1年B組鋼!」

審判が我に返って試合結果を告げる。歓声が上がる。先輩の拘束を解いて観衆に手を振る。

「おい、1年…。お前いったい…」

「先輩。質問にはお答えします。ですがこの場では…。」

声をかけてきた先輩に向き直りチラッと観衆を見ながら言う。

「あぁ…。そうだな。止めてくれてありがとう。」

そう言うと先輩は右手を差し出してきたのでその手をしっかりと握る。握手する俺たちの姿をみて一層の歓声が上がった。

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