出会い。
「ふぅ。ここの飯は中々の味だな…。西村。」
入学式終了後俺は学校の食堂で西村と昼飯を食べていた。
「それはなによりです。ところでご当主様、トマトが残っていますが?」
目敏い。
「…ところでだ。西村、学校では当主様なんて呼ぶな。面倒なことになるのだけは勘弁だ。」
「話を逸らさないでください。ですが、わかりました。」
面倒なこと。の意味を理解したのかして無いのかは定かでは無いが西村はそう言った。
「それから、学校では年功序列の法則に則って俺もそのように振る舞いますのでよろしくお願いします。西村先輩。」
そう言うと俺は嫌いなトマトを口に放り込んだ。皮と果肉のパリッとした食感の後に中身のぐちゃっとした感触と自己主張の激しい青臭さが口の中いっぱいに広がった。思わず顔をしかめる。
「そう言えば、入学式は一騒動あったみたいだね?」
ニヤリと口元を歪め西村が言った。おそらく在校生には事前に知らされていたのだろう。
「ええ…。まさか式辞の途中であんなふざけた行事の事を聞く羽目になるとは思いもしませんでしたよ。」
苦笑を浮かべながら答える。実際は苦笑ではなく俺は失笑したのだが生憎と言うか当然と言うか他の新入生達は大いに騒ついた。不安を口にする者や誇大広告じみた虚勢を張る者がほとんどだったが中には黙って式辞の読み上げられている舞台をジッと見続けている者もチラホラといた。
「各学校対抗模擬攻城戦。ようは昔あった魔法戦争の学生版リメイクみたいなもんだな。ま、最近は学生が"その手の事件"にチラホラ巻き込まれてるから最悪巻き込まれても生存率を高める訓練みたいな要素も含まれてれてるんだろうけどな。」
西村との会話に第三者の呑気そうに聞こえる声が割って入ってくる。
「失礼ですがどちら様ですか?」
そう言って振り返った俺は唖然とした。振り返った先には数人の女子生徒をはべらせた凛とした風格で花のような笑顔を顔に貼り付けた男子生徒がいた。制服には最上学年を示す色の校章と"学年当主"の証のカフスが煌めいていた。
「なんだ。西村は紹介してくれなかったのか…。あんだけ念押したのに…。」
"学年当主"は拗ねたように言うと恨みがましく西村を見た。
「その場にいない人間を紹介できるわけないでしょ。会長。」
やれやれという感じで西村が言った。
「紹介するよ。この人はうちの学校の生徒会長の山城拓哉先輩。」
さも面倒そうに西村が言った。
「鋼です。よろしくお願いします。山城先輩。」
立ち上がって挨拶をする。すると山城先輩は何か企んだようにスッと目を細めて言った。
「鋼家時期当主殿から挨拶を賜るとは光栄だな。一応生徒会長をやってる山城拓哉だよろしく。拓先輩って読んでくれ。」
そう言って笑みを浮かべると右手を差し出してくる。
「僕もあの山城戯燕の直系の方に握手を求められるとは夢にも思いませんでした。」
同じように笑みを浮かべて先輩の手を取る。そして、一瞬の沈黙のあと。
「くっくっく…。気に入ったよ鋼君。俺は確かにあの山城戯燕の孫だよ。どうしてわかったんだい?もしや…。魔力の波長でも呼んだかな。」
最後の一言は俺にだけ聞こえるように言った。俺は返答の代わりに一瞬だけ、ほんの一瞬だけ山城先輩と魔力の波長を合わせた。
「……ッ!」
山城先輩はほんの少し表情を強張らせたがすぐにまた笑みを浮かべて言った。
「いいねえ。ますます気に入ったよ鋼君。鋼君、君は来週開かれる"学校当主決定戦"に出る気は無いかな?」
試すように山城先輩は言う。
「エントリー規約の制限で1年は出場できません。残念ながら。」
「そうか、じゃあ俺が推薦しよう。生徒会長は一人だけ生徒を推薦できるんだ。これで君は来週の決定戦への出場の義務が課せられる。」
してやったり、という風に山城先輩は言った。




