プロローグ
序章~虹を生む魔法~
「よっし!完成。」
暗闇の中もぞもぞと動いていた影が言った。
「後は動力伝達速度と駆動箇所のレスポンスを確認するだけだな……。」
影の前にはヒトの形をした作り物が横たわっていた。影はゆっくりとその作り物に手をかざし、この世界ではなんの違和感のも無い「呪文」を唱えた。
「我、汝を創造せし者。此処に我が血を持って汝を従え術式において汝に生を与え言の葉において汝を生かす。我が名はクロム。汝が名はIrishu。我に応えよ。汝は今、起動する。」
使い魔を生み出したり、召喚したりするごく一般的な「召喚呪文」にアレンジを加えた「起動呪文」を唱え終わると影は「Irishu」 と呼んだ作り物の周りに「起点範囲呪文」を展開しそれを纏わせる。そして、「起点範囲呪文」に魔力のペンで一つの、最後の起動キーとなる術式を書き込む。自らの本当の名前を…。
眠い目をこすりながらこれから毎日のように通ることになる通学路を歩いていた。今日は登校初日いわゆる入学式だ。胸にはいい意味での不安が満ち満ちている。
「いやー、やっぱし緊張するなぁ…。」
「なに寝言言ってんのよ。鋼家の嫡男のくせして。寝て言いなさいよ。」
隣を歩いていた斜向かいのお宅の娘さん…もといやたらと世話を焼きたがる幼馴染が言った。
「いやいや、俺だって多感なお年ごろの男の子よ?緊張ぐらいするって。お前こそ緊張してんじゃないの?」
家の名前を持ち出された仕返しがてらあからさまにガチガチに緊張している幼馴染に指摘をする。
「うるさい。」
スッと喉元に大抵の魔法使い見習いが持っているであろう杖が突きつけられる。突きつけているのは首筋を少し赤く染めた幼馴染。こいつは照れたりちょっと恥ずかしかったりするとすぐに首筋を赤らめる。
「降参。頼むから杖を突きつけないでくれ!お前の斬撃系魔法の威力は洒落にならん!」
両手を上げて降参のポーズ。こいつに斬撃系魔法を使わせたら最悪死人が出る。それ程に幼馴染の大和雪は斬撃系魔法の達人なのだ。
「はぁ…。何よ、私の魔法威力じゃあんたの魔力障壁貫通させるどころか傷つけるので精一杯なの知ってるくせに…。」
杖を下ろすと拗ねたようにそう言ってぷいとそっぽを向いてしまった。こうなると長いんだよなぁ…。なんだかんだ言っても、今日は入学式だ。いくら雪でも今の仏頂面のまま一日過ごすことがなだろう。
「おはようございますー!」
いつの間にか学校前についていたようで校門のところで新入生に微笑みながら挨拶をしている先輩達の声が響いている。
「うっ、マジかよ…。」
挨拶をしている先輩の中に一人よく知る顔を見つけてしまった。向こうもこちらに気付いたようで途端に背筋をピンと伸ばすと俺が通過するタイミングを見計らって。
「おはようございます!ご当主様!」
完璧な立礼。周りの生徒が何事かと好機の視線をビシビシ飛ばしてくる。
「えーっと…。人違いじゃないですかね、先輩?」
先輩という単語を少し強調すると、件の先輩こと西村誠はハッとしたように顔を上げるとあからさまにやってしまったと言う表情でダラダラと冷や汗を流しながら言った。
「あ、本当だ。ごめん。俺は2年の西村、生徒会書記をやってる。お詫びと言ってはアレだけど昼飯一緒にどう?」
さながら、女の子でも口説く調子でツラツラと西村は言う。栗毛で整った顔立ちをしている西村はどちらかというと外見的にはチャラそうなイケメンの部類に入るのだが性格は折り目正しい好青年だ。
「ありがとうございます。西村先輩。俺は新入生の鋼です。よろしくお願いします。」
鋼と名乗った瞬間、あいさつをしていた先輩達を中心にその周りの空気が一瞬緊張に包まれる。
「入学式がありますんで失礼します。西村先輩、昼飯はありがたくご馳走になります。」
西村にそれだけ告げると馴れ親しんだ緊張を無視して俺は入学式が行われるホールに向かった。その後の入学式はと言うと小中学と何ら変わりない形式的で変哲のないものだった。校長の最後の一言以外は…。




