#4 勝負解禁編3
少年は有島に殴られ過ぎて顔がぱんぱんに膨れた三田から完成した書類を受けとると、生徒会室にその書類を持っていった。
生徒会室に着くと、少年はコンコンとドアをノックする。
返事がない。代わりに、生徒会室の中が妙に騒がしい。
「すいませーん、文化祭の書類持ってきましたー」
少年はそう言いながら部屋に入る。
生徒会室には妙な空気が流れていた。生徒会長の田河が厳しい表情で副会長の大江を睨んでいる。その大江の隣には英語教師の宮沢がいた。
大真面目でストイックなイメージの強い大江と、ボサボサ頭でいつも眠たそうにしていて、暇があれば東京ドームのゲームセンターに入り浸っている宮沢の組み合わせは学園の誰が見ても首をかしげたくなるものだった。
「宮沢先生!」
田河が宮沢に向かって叫ぶ。
「即刻、今の発言を撤回していただきたい! あろうことか、副会長をそそのかすなんて!」
田河が激昂している。極めて珍しい状態だった。
一方、宮沢の方は相変わらずのニヤニヤ顔だ。
「そそのかしただなんてそんな。俺はね、大江君がファイブスクウェアについて訊いてきたから答えてあげただけだって」
「ですからファイブスクウェアとは何ですか! 勝負に勝てば願いを叶えられる? そんな明らかなデタラメを言うのは止めてください!」
ファイブスクウェア…? 少年はその言葉を聞いたことがあるような気がして自分の記憶を遡ってみるが、思い出せない。
宮沢は反論した。
「冗談じゃないっての! ファイブスクウェアってのはこのガッコに古くから伝わる実在の勝負事なんだよ!」
「信じられません、撤回を!」
「無理! もう大江は勝負を宣言しちゃったから誰もこの勝負取り消せないんだよ! そのこともちゃーんと校則の完全版に書いてある!」
確かに、生徒手帳に書いてある校則はごく一部で、それとは別に校則関連の全てが書かれている分厚い本が図書室や生徒会室などに置かれていた。
「小杉書記! 校則完全版をここに!」
「は、はい!」
田河は2年の書記、小杉に命令する。手元に校則を置くと、田河はパラパラとページをめくる。そして、見つけた。非常に見つかりにくい場所に書かれていた、“ファイブスクウェアについて”。
さらに読み進めようとした田河に、宮沢が携帯電話を投げ渡した。すでに、通話状態だった。
「出てみな。お前のよーく知ってるお方がお待ちかねだ」
田河は、電話に向かって話し始める。
「もしもし、田河で―」
田河の言葉が途中で切れる。彼女の顔が驚愕に歪んだ。そして、絞り出すように言った。
「学園長―」