#2 勝負解禁編1
5月28日。東京は水道橋にある私立五条学園の第2パソコン室。二人の男子生徒が書類の作成に追われていた。
「おいアタック! 他の部員はどこ行ったんだ、このクソ忙しい時にっ!」
軟式パソコン部部長の三田はキーボードを猛烈な勢いで叩きまくりながら唸った。
「忙しくなるから今日はみんな来ないんじゃないですか?それに部長が一日踏ん張れば書類完成しますからね。ていうか俺のことアタックって呼ぶのやめてくれますか」少年はモニターから目を離さず三田の言葉に応える。
「おのれーっ!ウチの部員は俺様のこと何だと思ってるんだー!」
「我等がヘタレ部長」
「に゛ゅーん!!」
少年に即答された三田はよく分からない奇声を上げる。
「部長、変な声出してないでとっとと書類仕上げちゃいましょう」
「分かっとるわ児玉清!」
「その呼び方も止めてください…」
コンコン、とドアを叩く音がかすかにしたかと思うと、少年の幼なじみの同級生である菊池が教室に入ってきた。
「ナオキ、例のアレできてる?」
「ああヒトエちゃん、ちょっと待ってて」
少年はそう言うとマウスをカチッと鳴らし、同時に型の古いプリンタがういいーん、と大きな音を鳴らし始めた。
「はい、ちゃんと昨日リストアップしといたよ」
少年はそう言うと、印刷物の束を菊池に渡す。
「サンキュ、ナオキー。あ、三田さん、こんな時に来ちゃってすみません」
菊池が三田に軽く頭を下げる。
「ああ、気にしなくていいよ仁枝ちゃーん。で、それ何印刷したの?」
「山手線沿線のスイーツのお店のクーポンです」
少年が答える。
「へえー、ああ、そう言えば東京ドームのレストランにすっげえジャンボなデザート出してくれるとこあるんだよ。今度俺様と行ってみない?」
「結構です♪」
「うげあ」
三田のお誘いを菊池は一蹴する。
そんな時、ぴんぽんぱんぽーん、と呼び出しのチャイムが鳴った。
「2年9組、菊池仁枝さん、至急、職員室までお越しください…」
それを聞いた菊池は一瞬、体をびくつかせた。
「ヒトエちゃん…?」
不思議に思った少年が訊く。
「ん、ああ、呼ばれたからいかなくちゃ…、コピーありがとね」
菊池はそう言うと、パタパタと小走りに教室を出ていった。