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小さな魔法石

 学校からの帰り道。


 朝とは逆にシャッターが上がり、人でごったがえしている商店街の中をみなもはひとり歩いていた。

 その日は学校の先生方の用事で恒例の補習もなく、いつもより早い下校となっていたのだ。

 みなもと違う制服を着た女の子達が楽しそうにおしゃべりをしながら歩いていくのを横目で見ながらみなもはただひとり歩いていく。

 みなも自身、友達が欲しくないと言ったら嘘になる。しかし、 村にいたときもみなもと同年代の子はほとんどいなかったため、いざ同年代の女の子達と一緒に行動したとき、どんな話をしたらいいのかわからないのだ。

 いつもより早い時間の下校とはいえ、商店街の賑わいは夕方とそう変わらない。そんな中をいつも通り歩いていたその時だった。

 夕方まで歩行者天国となっている通りの右側、入り口のドアがない宝飾店がある。その先は脇道になっていて道を挟んで地方銀行の自動ドアがその先に見える。

 その自動ドアの横、みなもは気になるものを見つけたのだ。

 それはともすると見過ごしそうになりそうな小さな看板だった。

 三脚のイーゼルにはカンバスの代わりに黒板が置いてあり、ピンクと黄色に縁取られた枠の中に白いチョークでこう書かれてあった。


「魔法ショップはこちらです」


 その下に大きく書かれた矢印は脇道の先を指していた。

 この道は何度も通っていたみなもだったが、この看板を見たことがなかった。もしかしたら最近出来た店なのだろうか、それともみなもの帰る時間にはもう店を閉めているからだろうか。

 魔法ショップと言うからには魔法使いが使う道具を扱っているのだろう。

何となく興味が湧いたみなもはその矢印の示す方向へと歩き出した。

 脇道に入ると店がまばらなせいもあり歩く人達も一気に少なくなる。そんな中、目的の店は程なく見つかった。

 クリーム色の壁のその店は一見するとどこにでもある二階建ての家に見える。しかし、開け放たれた入り口の扉に立て掛けられた「魔法ショップ、営業中」と書かれた黒板がここを店だと物語っていた。

 その看板そば、小さな魔法石が大量に入った箱が置かれてある。

 魔法石と言えば名前に魔法とあるように魔法を使うための媒介となる石である。しかし、みなもの知る限りその石は大きくて丸く、石自体もかなり透き通っている。

 こんなに小さく、歪でいろんな種類があるのは見た事がなかった。

 一体どんな使い道があるのだろうか。そう思いながら箱の前にしゃがみ込み、中をもう少し見ていたその時だった。

「面白いでしょう」

 不意に上の方からから声が聞こえて来たのだ。

 しゃがみ込んだまま顔を上げると、若い女性がみなものそばに立っていた。

 茶色の髪は肩までかかり、サイドを後ろでまとめている。

 緑のトレーナーに紺のスラックスの動きやすそうな服の上に青い簡素なエプロンをしているのを見てこの店の店員なのだろうとみなもは考えた。

「魔法石を作る過程で出来る欠片です。魔法使いの方にとっては使い物にならないと聞いてますが、ほら、光に当てるとキラキラしてきれいでしょう、ですから飾り物としては十分使えるのですよ」

 みなもの前にしゃがみこみ、箱からいくつか取り出すと手のひらに乗せてみなもの前に差し出した。

 女性の手のひらに乗せられたいくつかの魔法石の欠片は日の光を受けてキラキラと輝いている。

 手に取ってご覧ください、と言われてみなもは女性からその小さな魔法石を受け取り、改めてそれを眺めてみた。

歪で小さいとは言え、魔法石である。微弱ながらもその魔力を感じることが出来た。

 ただ、その魔力は通常半永久的に使える普通のものよりやはり低いためもって数回、それ以上使うとただの石となってしまうだろう。

 大きな魔法石なら半永久的に使えるものの、値段も高くとてもみなも小遣いではおろか、彼女の学費や仕送りで精一杯の両親の稼ぎでも届かない。

 そのため、彼女の回りで当たり前の様に魔法石を手に魔法の練習をしているクラスメイト横目にただひとり魔法を行使するための媒介もないまま魔法を使っていたみなもだった。

 値段を見てみると、思ったより安い。

これなら自分の少ない小遣いと相談すれば結構な量を買えるだろう。

 使い捨てとは言え、媒介となる魔法石があれば早く魔法を行使することが出来るし、自分自身の魔力の節約にもなる、そう思ったみなもは、自分のポケットから財布を出した。

「私は魔法の勉強をしていますからよくわかりますけど、これだって立派な道具です。飾り物なんて、もったいないですよ」

「この大きさでもですか」

 怪訝そうな顔で女性が尋ねる。この大きさでは使い物にならないのを知っているのだろう。

 しかし、みなもにとってはこれだけでも大事な道具になる。

「確かに、普通では使わないのですけど、私みたいに大きな魔法石を買えない人には十分使い物になります」

 そうは言うものの、みなもの様な平民が魔法学校に行くのはかなりまれなケースと言っていいだろう。それはみなもがよく知っていた。

 なるほど、と女性はうなずいて箱の中に入っていた小箱をみなもに手渡して言った。

「ありがとうございます。もしお時間がございましたら中もご覧になってください」

 立ち上がると、一礼をして店の中へと入っていく。

 女性が中に入っていくのを確認してみなもは小箱を手に魔法石をひとつひとつ眺め始めた。

 通常の魔法石には及ばないながらも魔力を秘めた大きい物。

 小さいながらも色の濃い物。

 透かしてみて中でキラキラ光っている物など、数色の魔法石を時間をかけて選別しながら小箱の中へと入れていく。

 みるみるうちに小箱の中は色とりどりの魔法石でいっぱいになっていった。

 小箱一杯の魔法石を満足そうに眺めながらみなもはこぼれ落ちそうな魔法石を落とさない様に開け放たれた扉へと入っていった。

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