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仲間

「我々の下へ来てもらおう」

「放して!」

 男は、スノリを訪ねてきた少女、ベルを片手で抱え込み、強引に連れ出しにかかった。

「おい、待てよ! 人ん家で何勝手な真似してんだ! そいつとはまだ話の途中なんだよ!!」

 スノリは追いすがろうとしたが、それは叶わなかった。別の何者かにより羽交い締めにされてしまう。

「おっと、お前は俺がエスコートしてやるよ」

「くそっ! もう一人いたのか!?」

「ソーリル。そいつはお前に任せた。ストラが生きていれば交渉材料に使えるだろう。生かして連れてこい」

「あいよ。任せろフロージ兄貴」

 フロージと呼ばれた男はそのまま後ろも見ずに走り去って行く。

「くっ!」

 このままでは正体不明な怪しい奴らに自分もベルもどんな目にあわされるかわかったものではない。

 スノリはこの状況をどうにかする方法を必死に考えた。

 巨人を、『グルフォス』を喚ぶか? 街中であれを暴れさせることはできない。それ以前に数日前に遺跡で一度喚びだしてしまっている。しばらくは使うことはできない。

 ならどうするか? 周囲を見回すと今の騒ぎで足下に散らばった工具が視界に映る。スノリは次に自分がとる行動を決めた。

「おらあっ!」

「がっ!?」

 後頭部をソーリルと呼ばれた男の顎に打ち付け、力が抜けたところで腕を振り解き、足下に転がる金槌を掴むと遠心力を利用して一気に振り上げた。

「頭かち割っても恨むなよ!!」

 そのまま男の頭部めがけて金槌を振り抜く。

「なめてんじゃねえぞ! このクソガキがああっ!」

 しかし、目標に叩きつける前に、ソーリルの分厚い靴底がスノリの腹に叩きつけられた。

「ぐ……あ……っ」

 腹の中にあるものが根こそぎ口から飛び出そうな気がするほどの一撃。スノリの体は通りまで吹き飛ばされた。

 何事かと顔を出す家もあったが割って入ってくるような者はいない。

「生意気なガキめ。腕の一本くらい折っても、死にはしねえよなぁ?」

 迫る男。どうにか身を起こそうとするが、間に合わない。もう一撃くらうことをスノリが覚悟したその時、突如鉄くずが男の顔に撒き散らされた。

「ってええ! なんじゃこりゃあ」

「こんな夜更けに騒がしいと思って出てきてみたら、こいつは何事だ? スノリ」

「ダグ!? 助かった!」

 起き上がって咄嗟に辺りを見回す。大分小さくなったフロージという男の背中が見える。目の前の男とこのままやり合っていたら間に合わない。スノリはそう判断した。

「ダグ! 恩にきる! そいつはヤバイから相手にするな! じゃあな!!」

 身を翻してスノリはベルを連れ去った男、フロージの方を追いかける。

「スノリ! 待て! 一体何事なんだ!?」

「ちょっ!? 何でついてきているんだよ?」

「うるさい! 質問に答えろ!!」

「……っ、妹かもしれない子が、何かよくわからん奴に連れ去られた……! その子は、親父のことを、何か知っているかもしれない……! ああもう! 走りながら会話させんな!」

「なら」

「?」

「なら、僕にとっても、これは他人事じゃない! あいつは! 僕の父は! お前の父を助けようとして、死んだ! 関わっているというなら、見届けないわけには、いかないっ!!」

「……っ! 勝手にしろ!!」

 二人は必死に走り続けるが、目の前の男は子供とはいえ、人一人を抱えているのに恐ろしく速い。

「くそっ! 街の外に逃げる気か!?」


「まったく、ソーリルの奴は何をやっているんだ」

 フロージは自分を追いかける二人に気づいていたが、脇に抱えている少女の連行を優先し、そのまま移動し続ける。

「……む!? 何でこんな時間に人が! そこをどけ、女!!」

 自分の進路を丁度ふさぐ形で姿を現した女性。気は進まないが、このまま撥ね飛ばす。そう決めてフロージは更に加速した。

「女だなんて失礼ね。私にはちゃんとノートという名前があるのだけど」

「むおっ!?」

 フロージの前に現れた女性-ノートは瞬時に身を躱すと、見た目からは想像もつかない迅さで足払いをかける。自分が何をされたか理解する前に、フロージの体は抱えていたベルを放り出し、もんどり打って引っ繰り返った。

「師匠!?」

「母さん!?」

「何が起きているかはわかっているわ。スノリ。これを持って、その子と一緒に街の外に逃げなさい。どこへ向かえばいいかは、その子が、ベルが知っているわ」

 そう言ってノートは、道具袋をスノリに投げてよこした。

 世界樹の衣に簡易食料他、旅道具一式。まるでこうなることが以前から予期していたかのように。

「正直、今の状況に頭がついていけていないんだけど……ありがとう! 師匠!!」

 道具袋を手に、スノリはベルの下へと駆け寄って助け起こす。

「大丈夫か!? すまないがもう一頑張りしないといけない。走れるか?」

「痛つつ……。別に、平気よ」

「上等だ。行くぞ!」

 スノリはベルの手をとって、街の外へと続く神殿へと向かって駆け出した。

「スノリ!!」

「貴方も行きなさい。ダグ」

 もう一つ、ダグに向かって手渡される道具袋。その中にはスノリが渡されたものと同じものが入っていた。

「母さん。……止めないの?」

「どうせ止めても追いかけていくのでしょう? やっぱり親子ね。私も昔、同じようにして貴方のお父さんを追い掛けたわ」

「……」

「躊躇う必要はないわ。それはきっと、貴方のお父さんのことを理解する一番の近道にもなるはずよ」

「……っ」

 そしてダグも二人の後を追う。

「ぐう! 待て! 行かせんぞ!!」

 慌ててフロージはスノリたちを捕らえようとするが、そこを緑色のフードを目深にかぶった者達が阻む。

「街の外に出るなら、しかるべき手続きで申請していただかないといけません」

「く……! 世界樹管理委員会……! 俺たちはフロールヴ様の命で動いている。邪魔をするな!!」

「あいにく、私たちは政治的なものとは一切関わりをもたない組織ですので、どなた様の意向があろうと関係ありません」

 ようやく追いついてきたもう一人の男、ソーリルは世界樹管理委員会のメンバーに掴みかからんばかりの鼻息で凄んだ。

「ぜえ、ぜえ。野郎ぉ……。痛い目にあいたいのかよ?」

「……よせ、ソーリル。一旦引くぞ。フロールヴ様に報告する必要がある」

「ち、わかったよ、兄貴」


「全く、騒がしい人たちだこと」

 子供たち、それを追う男たちも姿を消し、その場に残ったノートは苦笑い気味に嘆息した。

「お前の子供たちほどではないだろうよ。手のかかる奴らだ」

「あら、世界樹管理委員さん。お仕事お疲れ様」

 ノートが振り向くと、先ほど現れた緑色のフードを目深にかぶった者達の一人がそこに立っていた。

「誰の子のせいで疲れる羽目になっていると思っている」

「あら、ごめんなさいね。でも、こちらはちゃんと手続きをしているのだから、いいでしょう? ……それと、子供たちを助けてくれてありがとう。」

「俺は俺の仕事をこなしているだけだ」

「相変わらずお堅いのね。そんなだからいい歳してお独り様のままなのよ」

「……余計なお世話だ」

 男はフードを更に深くかぶり直す。

 それは昔から照れ隠しをするときの男の癖であることを、ノートは知っていた」


(続く)

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