招かれざる客
(2013/8/11 記)
第三話、四話の台詞に、少しですが設定に影響があるレベルの修正を入れています。どうかご容赦下さい。
「あんまり似ていないみたいだけど、貴方が……父さんが言っていた、"息子"、ね?」
目の前には、知っている事実を改めて確認するかのように、ツンと澄ました様子で問いかけてくる少女。
見知らぬ来訪者に、スノリは思わずオウム返し問い返す。
「……息子?」
「ええ。父親の名はセームンド……そうでしょう?」
「いや、違うし」
「あれ? ……じゃあ、ストラ」
「じゃあって何だよ。……今度は合ってるけど。そう言う君は何者?」
「君、じゃないわ。わたしの名はベル。貴方の、お姉さんよ」
「お、おね!?」
背丈、顔立ち、声、雰囲気。どれをとっても自分より年上には見えない。せいぜい自分の年齢の半分程度ではないか。
そこまで考えたところで、スノリはようやく、年齢のことなどよりも確認しなくてはならないことがあることに思い至る。
「……父さん? お姉さん?」
「ええ」
ベル、と名乗った少女はコクリと頷いた。
スノリの母親は彼が物心つく前に亡くなっている。父親は幼い頃に旅立ったまま行方不明。家族の思い出など元々殆どもってはいないが、兄弟姉妹にあたる存在はいない、ということは自分のことなだけに誰よりもよく知っている。
「……倒産とか逃散とかじゃなくて?」
「言っている意味がわからないわ」
ベル、と名乗った少女は小首を傾げた。
嘘や冗談で騙そうとしているようには見えない。
「……」
スノリの内に、マグマが吹き上げてくる。
「あんっのクソ親父……っ! いなくなったきりだと思っていたらちゃっかり余所で子供こさえてやがったのか!!」
「ひゃっ」
小さい悲鳴を聞き、スノリは我に返った。
「ああ、悪い悪い。怖がらせちまったな。こっちの話。気にしないでくれ」
少女に目線を合わせ、ポン、とその頭に手を置く。
「しかし、まあ、そっか。子供、か」
やれやれ、と呟く。
「くたばっている訳ないと思っていたけど、どうやら本当に生きてはいる、みたいだな。死んじまっちゃあ、ぶん殴ることもできないしな。そこは、一応、……良かった。ダグの奴には何て言おうかな」
「気安い真似をしないで!」
スノリの胸中など知ったことではないとばかりに、ベルは頬を膨らませると頭に乗せられた手を叩き落とした。
「ってえ! 何すんだ!! お前の話が本当だとしら、俺は腹違いの兄貴なんだぞ!?」
「何を言っているの!? わ・た・し・が、お姉さん!!」
「はあ? ちんちくりんなくせに何言ってんだ!」
「ニンゲンは先に生まれた方をお姉さんって言うのでしょう?」
「ほほう、ならお前は一体おいくつなんだよ?」
「レディに年齢を聞くのは失礼だって父さんが言っていたわ」
「うおい」
頭大丈夫かこのガキ、とスノリは思った。
「お取り込み中、失礼する」
そんな子供の喧嘩で盛り上がる二人に、その声は実に冷たく事務的に投げかけられた。
その響きに不穏なものを感じ取ったスノリは咄嗟にベルを背後にかばう。
「君は、ストラの息子、スノリだな。そしてその子は……」
鋭い目つき。全く音を立てない身のこなし。中に何を仕込んでいるのかわかったものではない無骨な色合いの厚い外套。
その男は、見るからに一般庶民とはほど遠い人生を送ってきたと思われる雰囲気を醸し出していた。
ベルは男の目的を察しているのか、先ほどまでの勝ち気な様子が嘘のように小さく震えている。
「その子は魔王……だな。いや、元・魔王の張りぼて、と言うべきか。やっと姿を現してくれたな」
今日は随分と頭のおかしな奴にご縁がある日だ。スノリは頭痛をこらえるように、こめかみをおさえた。
(続く)