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償いの残滓

 遺跡とは、生えてくるものである。

 

 それが、スノリや他の多くの探索者たちの共通見解であり、彼としてはそれで十分だった。

 

「いやしかし、何度来ても興味深い。これだけの構造体が自律的に増殖や変異を今に至るまで繰り返し続けている。そもそもそれだけの動力をどうやって取り込んでいるのだろう。やはり外の熱と凍気を利用しているのだろうか? だがしかし……」

 中にはこのように深い興味を示す物好きもいる。そんな物好きたちの研究により、確認されている遺跡はどれもが、まるで生物の進化の過程を繰り返すかのように誕生、成長、死、そして変異を繰り返しているという。

 消滅する前には大地を僅かずつ修復しているらしいという説もあるが、しかし同時に、それが本当だとしても大地が元の姿に戻るには少なくとも万、億の単位で昼と夜が繰り返す必要がある、とも言われている。

 

「はいはーい。ダグ先生。そろそろこっちの世界に帰っておいで~。お仕事するよー」

「む、人が折角思索にひたっているというのに邪魔をするな」

「俺にとっては遺跡の秘密なんてものより飯の種を回収する方が大事なんだよ。ほら、他の奴らにめぼしい物を持って行かれる前に先に進むぞ」


 遺跡の内部は無作為でありながら奇妙に調和のとれた構造で広がっており、所々に希少、場合によっては未知の資材がガラクタとして転がっていたり隠されていたりする。

 それらを回収し、加工して道具や武器として売るのがスノリやダグたちの生業だった。

 人々は水や食料を世界樹から、建物や道具を作る資材を遺跡からの採取することによってかろうじてその文明を保っている。

 

 遺跡に入り込んで三日目。戦利品は十分に手に入れたし、手持ちの食料を考えるとそろそろ引き返した方がいいかとスノリが思い始めた頃、ダグは何かに目をとめ、それを拾い上げた。

「どうした?」

 拾い上げたまま動こうとしない彼にスノリが声をかけると、ダグは震える声で呟いた。

「これは……あいつが使ったのと同じ……」

 "活力"を意味する緑碧玉の欠片。それは、使いこなせるほど耐性のある者は殆どいないが、『蘇生』魔法の媒体となる一品だった。

 

 ダグとスノリは、かつてそれを使ってしまった人物を知っている。

 名はデリング。行方不明ということになっている"勇者"の仲間の一人。そして、ダグの父親。

 

 彼は、魔王の城の崩壊に巻き込まれたであろう"勇者"を助けるために『転移』と共に『蘇生』を試み、そして命を落としたという。しかし、その"勇者"は未だに消息不明。つまり、ダグの父がやったことは。

 

「ふん、僕はあんな犬死に男みたいにはならないからな……っ!」

 震えたままの声で呻くダグ。スノリには、何も言うことができなかった。

 その時。

 

「あら、綺麗なもの持ってるじゃない。もーらいっ!」


 どこかで聞いた女の声と共に、ダグの手の平にあった緑碧玉は奪い取られた。

「あんたたちには勿体ないから~。あたしたちが有効に使ってあげるわ」

「欲しかったら力尽くで奪ってみやがれってんだ! はっはー! ……こんな感じでいいかな? 姉ちゃん」

 現れたのは、街で見かけた姉弟らしきトレジャーハンターの二人。

「このっ……!! ……て、何だよ? ダグ」

「……」

 宝石を取り返そうとするスノリを、ダグは無言で止めた。

「ははっ! どちらでも二人まとめてでもかまわないよ。可愛がってあげるからかかってき……!?」

 弟の方に奪った宝石を預け不敵に笑おうとした姉は、その台詞を言い終わる前に吹き飛ばされ、背後の壁に叩きつけられ気を失った。

 姉がつい先ほどまでいた所には、一瞬のうちに踏み込み、金槌を叩きつけるような掌底を放ったダグの姿があった。

 大理石ほどの硬さをもつであろう床は、踏み込んだ部分が深く足形に穿たれている。尋常な力ではない。

 普段からは想像もできない威圧感を放ちながら、ダグはゆらりと近づく。

「返せ。それは……うちの物だ……っ!」

「ちょ!? なんだコイツ! イカれてんのか!? 姉ちゃ~ん! コイツやばいよ! もう帰ろうよ~!」

 弟はあっさりと恐慌をきたし、宝石を投げ出して気絶した姉を抱えて逃走を始める。しかし、すぐにその必要もなくなってしまうことになった。

 

 轟音と共に天井から突如降ってきた大岩。いや、拳だろうか。哀れな姉弟は、二人まとめて瞬時に物言わぬ肉塊へと変えられてしまった。


「……まいったな。どうやら寝た子を起こしちまったみたいだぜ」


 遺跡とは、ただ生えて人々に素材を提供してくれるだけの存在では無かった。

 "魔王"が姿を消した今でも武器屋が商売を続けていられる理由がここにあった。

 『守護者』と呼ばれる巨人達は、遺跡の防衛機構として探検者たちの前にしばしば現れ、その度に少なくない血をその場に撒き散らしていた。

 

 突如現れた、人の数倍はあるであろう大きさを誇る岩の巨人は、目標をスノリたちに変更し豪腕をもって襲いかかってくる。

「うおおっと!? あ、危ねえ。こりゃ結構な大物だな。……ダグ先生。ちょっと相談が」

「あんな奴を生身で相手にするのは無理だ。分かっているとは思うが、魔法を使う気はないぞ。僕はあいつとは違うからな」

「いや、わざわざ改めて説明してくれなくてもそれは分かってるって。俺が頼みたいのは」

「ふん。だが、ほんの少しの間だけ注意を引きつけるくらいのことはしてやる。やるならさっさと済ませろ」

 そう言ってダグは、岩の巨人に向かって手近な物を投げつけつつ回り込むようにして駆けだした。

「さすが。 分かってらっしゃる!」

 スノリは指先に意識を集中し、素早く印を刻む。

 

(続く)

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