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それは思いもしなかった

「ルディさんは、リーヤさんと仲がいいですね」

 旅路の途中のふとした時間、ごく最近同行者の一人になったソラと二人。それほど話をしづらい印象を持っていたつもりはなかったが、よくよく考えると二人だけでのんびり話をする機会は実は多くなかった。

 実は少し年上であることがふとするとすっこ抜けてしまう、物腰の穏やかな青年。最初の印象はそんな風だったし、いくらか過ごしてもその印象がひっくり返るようなことは特になかった。

 そんなソラから飛び出してきたのはそんな言葉だった。突然で脈絡のない話題だったが、話をしたくない理由は何もない。

「……でも何でいきなりルディの話なんだ?」

「どうしてということも特にないですけれど……リーヤさんと言えばルディさんがいつも一緒ですから。何となくそう思っただけです」

「……仲は、まあ悪くはないんだろうけど……あいつ大体誰とでも仲良いだろ? 大人の相手することも多かったし、人と話すの上手いし」

「でもルディさんが怒ったり喧嘩したりするのはリーヤさんだけじゃないですか。ちょっと羨ましいですよ、遠慮なく話ができるのって」

「羨ましい、なぁ……。俺に一番言いやすいから言ってるだけじゃないか? 喧嘩ばっかりなのも疲れるぞ?」

 何を思い出したのかリーヤが肩を落として息をついた。沈んだ様子のところにソラがまた言葉を続ける。

「リーヤさんは、ルディさんが大事ではないんですか?」

「そんな訳ないだろ。大事だよ、大事な幼馴染」

 それだけは迷うことなく答えることができる。それを聞いたソラはそれまでと同じく笑った。

 そういうことなら、と前置いた上で、ソラ変わらない笑顔で続けた。


「ただの幼馴染みならルディさんのこと、僕が貰ってしまっても構いませんよね」


「…………。……え?」

「あ、断る必要もなかったでしょうか。まあ、半分お兄さんのような感じなら一応……形だけでも」

「ちょ、ソラ待て、それ一体っ……!」

「今後どうなるかはわかりませんけど、そういうことで」

 いつもと変わらないふわふわとした笑顔のまま、引き止める声も聞こえないようにソラは立ち去ってしまった。いつもと変わらないあの笑顔が底知れない何かを含んでいるような、そう思ってしまうような爆弾を落として。

 確かに自分とルディは幼馴染みだ。どれだけ親しくても長く一緒に居ても、二人を形容する言葉はそれ以上でもそれ以下でもない。

 だから仮にソラの言葉が真実になるとしても、引き止める権利は自分には一切無い。

 けれど。

 突然告げられた言葉に、いつになく心が波立った。普段は無意識の領域で、揺らぐことのなかったものが浸食されたような。

 ソラのその言葉を聞いて反射的に思い描いてしまったその光景を、素直に受け入れることは果たして出来るのか。

 彼女の側もそう望むのなら間違いなく喜ばしいはずのその様子を祝福することができないと言うのなら、それは一体。

 決して心地よくはない心境の中で、今まで考えたこともなかった命題に迫られた。

 自分にとって、彼女が一体どんな意味を持つのだろう、と。



  * * *



「ルディさん、あれでよかったですか?」

「よかった……けど、こんな悪戯みたいなこと……イマちゃんは考えたっきり居なくなっちゃうし、ソラ君まで巻き込んで……」

「そうは言ってもどこかからちゃんと見ていたんでしょう? せっかくイマが設定まで考えてくれた作戦だったんですから。ちゃんと見ましたか、リーヤさんの驚いた顔」

「ちょっとだけ……じゃなくて、ごめんね、わざわざあんな演技して貰っちゃって、大変だったでしょう?」

「そうでもないですよ」

「そっか、それなら良かっ、」


「さっきの。そう全部が演技という訳でもなかったんですよ、と言ったら、どうしますか?」


 言葉の意味を追い掛け直して固まる。穏やかな表情をしていても逸らすことなく据えられた紫紺の眼は、こんなにも強いものだっただろうか。―――そこに込められているのは。

「……あの、ソラ、君」

 測りかねてソラを窺う。

 どう返してよかったのか戸惑ったルディの様子を受けて、先刻まで見せていたものと同じ、つまりは普段と同じ、底の見えない笑顔を浮かべた。


「―――冗談です」

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