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作中女性に対する不快な表現がありますがお許し下さい。

私、エルンスト・フォン・ヴィッツレーベンは人生最大の岐路に立っていた。


シャルロッテを妻に迎える為に、したくも無い努力をして、したくも無い戦争をして元帥に登りつめた。 あの糞爺を追い落とす為の準備も整い後は愛の告白をするだけ


アルは私がダンスに持ち込み耳元で愛を呟けば簡単だと保証してくれ、シャルロッテを堕とすなど簡単だと高を括っていたが


間違いだった


5年ぶりの生のシャルロッテは、より一層美しく大人の女性に成長してクラクラしてしまう


写真や映像で月に1度の報告を受けて脳裏に焼き付けていたが、全てモノ黒のシャルロッテでしか無く、今は鮮明な色で寄り一層艶やかな美しさ!!


しかも、あの美しい赤い髪を高く結い上げ、惜しげも無く白いうなじを見せ、以前とは違い膨らんだ胸元を大きくあけて男共を誘うように見せている。そんな姿を私意外に見せるなどあってはならないが


もっと見たい!


今直ぐ脱がして穢したい!


邪な欲望が鎌首をもたげる始末


しかし、今夜には、あの穢れの無い美しい体をとうとう自分のモノにできるかと思うと五年も待ったかいがあったとしみじみと感慨深い


五年前同様にシスコンの兄が貼り付いて邪魔だったが、従妹をけしかけ引き離して計画通りに行動を起こし、うっとおしく付いて来る女共を引き連れてシャルロットに近づいた。


シャルロッテの周りには、私の配下の者で固めて誰も近づけれないように配慮していたので、遠目でシャルロッテを物惜しげに見やる男共達が伺える。


そして、一歩進みシャルロッテが迫って来るにつれ心臓がバクバクと暴れ出すのを押えて冷静さを装い、さり気なくぶつかり飲み物を私に掛けさせるまでは、当初の計画通り成功したのだが


「きゃあっ! 申し訳ありません。 直ぐに拭きますのでお許しを」


初めて聞く生の声は、小鳥のさえずりの様な可愛らしい声


ハンカチを急いで取り出し、拭こうとするのを制止しようとして目が合う


初めて視線が合い美しい澄んだエメラルドの瞳


その瞳には私が映り込む


歓喜で震えそうになるが、瞬時に彼女の表情は青褪め、恐怖するように震え始める体


何故?


本来は頬を染め、うっとりと私を見詰めるはずなのだが予定と違う


そんな事より、ダンスに誘うべく先ずシャルロッテの美しさを誉め讃えようと口を開こうとすると




『なんてみすぼらしい恰好だ、しかもその程度の容姿で我家の夜会に来るとは図々しい』




一瞬己が何を言っているのか理解できなかったが、シャルロッテの顔が死人のように蒼白になり、酷い言葉を吐いたのを理解した


蒼白になり泣きそうな顔で謝罪し立ち去るシャルロッテ


追いかけたいが私としたことが動けない


配下の者が目配せで指示を仰いでるが、今まで感じた事のない混乱


誰がシャルロッテを泣かせた


私か??


茫然と立ち尽くしていると、誰かが私の手に触れる。


「エルンスト様、あんな卑しい赤毛など気になされず私と一曲踊って下さいませんか」


卑しい赤毛


私のシャルロッテを侮辱するなど許せん!


一瞬で殺意が沸き、目の前の女の顔を殴り付けたいがグッと抑える。


この女は軍の重鎮の娘、今騒ぎを起こせば糞爺に要らぬ腹を探られては拙い


追いかけたかったが、シスコンの兄がテラスに向かいシャルロッテの後を追って行くのを確認しながら、ニッコリと女に頬笑みその手を取りダンスを受ける。


「喜んでフランツィスカ嬢、今宵の貴女は一段とお美しい、まるで艶やかな蝶そのもの」


本当は毒々しい蛾だが


「まぁ… 嬉しいですは、エルンスト様」


このメス豚にはスラスラと甘い言葉を吐けるのに、何故、シャルロッテにあんな事を言ってしまったのか分からない


今頃シャルロッテが泣いているかと思うとズキズキと心が痛んだ


しかも自分は嘆くシャルロッテを放置し、この毒々しい娘と踊らなければならないのだ


しかし、部下の一人が近づいて声を掛けてくる。


「閣下、衣装が汚れてしまいましたのでお召し替えをした方が宜しいかと」


「これは気付かなかった。 もう少しで貴女の素晴らしいドレスを汚す所」


「私は構いませんわ」


「いいえなりません。貴女の様な美しい女性のドレスを汚し恥を掻かせるなど自分が許せません。後ほど必ず踊りますので暫しの暇をお許し下さい」


あぁーー私は大勢の貴族達の前で、愛しい女性を恥ずかしめてしまったのだ


どうせならこのメス豚だったならと思わずにいられない


忌々しいが、女の手に接吻しその場を離れると、周りの女共が何やらギャアギャア喚いたが気にせず、急いで大広間を後にするのだった。







人気のない廊下に行き、部下が後を追従して来るのに声をかける。


「シャルロッテはどうした」


「少尉が後を追ったので大丈夫ですが、配下の者を一人付けましたので後ほど報告いたします」


「もし部屋を求めたら、私の書斎に通すよう手配しろ。 誰にも見とめがれないよう気を付けてな」


「はっ!」


取敢えず詫びて許しを乞わなければ


自室に戻り、軍服を使用人に替えさせながら今夜着ていたシャルロッテのドレスを思い出す。


あの水色ドレスは五年前のモノ


五年前と変わらないのはウエストだけ、胸の辺りは直してあるのだろうかレースを胸飾りの様に縫い付けてあり、裾も同じレースを補って縫い付け着ていたが、他の女達が着ているドレスに比べ貧弱


宝石も五年前と同じ小さな石の付いたネックレスにイヤリング


衣装など関係無く、この夜会に集まる女共の中で一番光り輝き美しいが


せめて新しいドレスを贈っておくべきだったと後悔


男爵家の財政がかなりひっ迫しているのは知っていたので、アルに援助をするよう命じておいたが、過度な事をしては拙いと諌められて任せていたが


あの腹黒陰険男は妻子には大甘で他の女に細やかに気遣うなど、あり得ないのを失念していた。


しかも今夜は娘が高熱を出して夜会に出れぬだと!!


微熱のくせに何が高熱だ


私の一世一代の時だというのに、なんて薄情な奴だ。あの時見捨てておくべきだったと、今更ながらに後悔する。


使用人を下がらせて部屋でイライラとしていると、ノックと共に声がかけられる。


「エルンスト様」


「入れ」


入室を許可すると昔から私に仕え、この屋敷でただ一人信用できる年老いた執事が部屋に入り深々と頭を下げる。


「シャルロッテ様を書斎に御案内いたしました」


「うむ。 シャルロッテの様子はどうだった…ハンス」


「目を赤くされて酷く落ち込んでらっしゃいました。どうかお早くお慰め下さい」


「そうか…」


悲しませたのが自分かと思うと誰かに思いっきり殴られたい


それより今はシャルロッテ


先程のような事にならないように言葉に気を付けなければならない


書斎に急ぎ、ノックもせずドアを開け放つと


「お兄様? 早かったので… 」


シスコン兄と間違えたようで、春の日差しの様な頬笑みを浮かべるが、私だと知った途端に顔を青褪め冬の極寒の湖の様にその体を凍らせてしまう


ヌオォォォォォォォーーーーーーーーーーーーー


そして恐怖なのか足を一歩下がらせるが、踏みとどまり謝罪の心算あのか頭を下げたまま再び固まる。


グウォォォォォォォーーーーーーーーーーーーー


やっやっ 止めてくれーーーーーーーーーーーー


ここまでシャルロッテを追いこんでしまっていたとは……


それより早く顔を上げさせ、私が謝罪せねばと口を開くと






「無様な、卑しい娘は礼儀も知らぬか。 ただ頭を下げるだけでは謝罪になっておらぬぞ…… 」




えっええーー 私は何を言ったのだ!??


口から出た言葉は又してもシャルロッテを蔑む言葉


急いで訂正しようと


「 おい……違うのだ! そうではなくて、私が言いたい事は」


俯いたままのシャルロッテの体が揺らぐ


倒れる!!


「シャルロッテーーーー!!」


素早く動き倒れる体を受け止める。


間一髪でその華奢な体を受け止め抱き上げると初めて直に触れて思わず涙ぐんでしまう


こんな状況だが、漸くこの手に出来て感動してしまう私


しかし顔を青褪めさせて気を失ったシャルロッテをこのままずっとこの腕に閉じ込めておきたいが夜会に戻らなければならい。


足下を固めたとはいえ、あの糞爺は妖怪に等しい化け物


どうせ一週間後には全て思う通りに事が運べば、誰にも邪魔されないで夢に見た新婚生活


本当は色々したいがここは我慢だ


目を覚まさないように静かにソファーに寝かしつける。


どうやら、私は可笑しな病に冒されているらしい


シャルロッテに思っている事とは裏腹な言葉を投げかけしまうのだから、愛しすぎて脳の交感神経が壊れているのかもしれない。


ソファーで眠るシャルロッテは魅惑的な肢体を見せつけるように横たわっているのをうっとりと見詰め、五年前とは明らかに育った胸に目が釘ずけになる。


ゴックリ


少しぐらいなら許されるだろう


白い透き通るような首筋に顔を埋めて、そのきめの細かさを多能するように唇を這わしながら、芳しいシャルロッテの匂いを嗅ぐ


香水臭いメス豚共と違い、石鹸の優しい香り


くぅううううーーーーーーーーーー堪らん!!


吸って自分の跡を残したい欲求が湧き


見えない所なら……


胸元を少し開かせて胸の谷間に顔を埋めて柔らかな膨らみをにうっとりとしながら、手で揉んで感触を楽しみたいが、そんな事をすれば目を覚ましてしまう


目を醒めせば、きっとまた酷い言葉を言ってしまうだろう


右胸の膨らみをきつく吸い付き離すと、赤い跡が綺麗に浮かび悩ましくて脳が沸きたつ


堪らん!!!!!


どうせ夫婦になるのだ!


この場で少しぐらい入れても責任は取るのだから構わないだろうと


シャルロッテにむしゃぶりつこうとすると


「エルンスト様、それ以上はお止め下さい」


「!!!!!!」


背後から静かに静止するしわがれた声


「ハンス…」


私の背後を取れるのは、ハンスとアルのみ


「まだ事は成されておりません。 美酒に酔うのは勝利の後に」


私は老執事に従い渋々とシャルロッテから離れ、体を立ち上がらせる。


「有難うハンス。私もまだまだ若いようだ」


「出過ぎたまねをして申し訳ありませんでした」


「今シャルロッテを穢せば、益々嫌われていた所だった」


どうせなら愛されたいと言う想いが強い


小さな細い体で頭を下げて詫びるハンス


この者には何時も救われる。


「それより… 私は何故、シャルロッテにあのような酷い事を言ってしまうのであろう」


「私めにもトンと見当が尽きませぬ」


人生経験豊富なハンスですら分からぬとは、途方にくれる。


「それよりも夜会にお戻りを… 旦那様が不審に思い始めます」


「分かった」


ハンスに促され、後ろ髪を引かれながら夜会に戻るのだった。







夜会が終わり、急いでシャルロッテが待つ書斎に向かえば既に帰った後


そうだろうと思ったが落胆していると人生初めてのドツボに嵌ってしまい、これまた初めての自棄酒


ハンスに一番強い酒を持って来させ、二本ばかり飲むと意識が混濁し始め泣きが入る


「シャルロッテ―――――― ! 美しいそなたに、なんて酷い事を言ってしまう私は生きる価値などない! シャルロッテが許しても自分自身が許せない! ハンス! 私を殺してくれーーーーー!」


泣きながら、ハンスに泣き綴り醜態を晒す


初めて愛した女性を苦しめる心算などなく


むしろ、甘やかして望むもの全てを与えてやりたいと思った相手に惨い仕打ちをしてしまい打ちしがれて、また酒を飲むと言う事を繰り返していると目の前にアルが現れる。


「情けない醜態だな、エルンスト」


冷徹なこげ茶色の瞳が俺を見下していた。


恐らく、ハンスが呼んだのだろう


「たかが女一人に情けない」


お前がそれを言うか!!!


反論したいが、酔って口と頭が回らずそのまま罵詈雑言をシャルロッテに行った事への贖罪だと思い泣きながら受け入れていると


「お前は本当にエルンストか?」


と不気味がりだして何処かえ消える。


仕方なく机に突っ伏し泣いていると誰かが入って来て頭を容赦なく殴られる。


ガッツン!


「ぐっウ! 」


あまりの激痛に呻くと


「この腐れ外道! 酔い潰れているとは、良い度胸だなーエルンスト! 一体誰の為に奔走していると思っているんだ」


アルの怒鳴り声


今はその責めが心地良いくらい


詫びろと言う言葉で第三者の存在に気付き見れば


赤い髪に緑の瞳!!


シャルロッテ! 戻って来てくれたのか!!


「シャルロッテ! シャルロッテ! シャルロッテーーーー!!」


思わず、我を忘れ抱き付き泣いて詫び続けるのだった。








しこたま泣いて水分が抜け酔いが醒めて来ると、抱き付いている相手がシャルロッテでは無く、シスコンの兄の方であるのに気付き、急いで離れると、ハンスが私の手を引いてシャワーを浴びるように促せられる。


冷たいシャワーを浴びながら徐々に自分を取り戻し冷静になり始める。


アルコールを洗い流すように、次に熱い湯を浴び、体と髪を洗い浴室を出るとハンスがバスタオルを持ち待ち受け、何時ものように拭き始める。


「何時だ?」


「既に午前1時で御座います」


「世話をかけた」


「滅相も御座いません。私はエルンスト様の 忠実な執事ですから」


「フロイデンベルク少尉はどうしてる」


シスコン兄に醜態を晒してしまったが、奴の出方次第で消せばいい


どうせ目障りな人間、少しも良心が痛まない


むしろ嬉しいくらい


「アルトゥール様とお話なさっております」


珍しい


気に入らない相手なら、視界にすら入れない男


アレの報告では問題ない有能な男だと報告は受けてはいるが、なんにしろシャルロッテが最も親愛を寄せる男


兄で無ければ今頃最前線で命を人知れず消したモノを忌々しい


新しい軍服に着替えて、二人が待つ部屋にハンスに案内させるのだった。







部屋に行けばアルは私をシスコン兄に押し付け、サッサと妻子の元に帰ってしまう。


明日は嫌味の言葉を機関銃のように浴びせられるの覚悟するが、今はこのシスコン兄をどう処理するかだ。


何時ものように、この容姿を使い籠絡させようとするが効果が無い


不感症かこの男


老若男女問わず、私が甘い声をかければ、例外無く自分が私の特別だと勘違いして本性が現れる筈なのだが、アルが少しは認めて私の側に置こうとするだけの価値がある男らしい


シャルロッテに一番近い男など、それだけで気に喰わないのだが、考えを改める事にする。


現状ではシャルロッテに嫌われ恐れられている私


しかも思っている事とは正反対の言葉を言ってしまう私は、不本意だがこのシスコン兄にシャルロッテの仲を取り持って貰わないと、どうしようも無いらしい


それに私に媚びず、意見まで言うなど少しは見どころがあり、後少しだけ生かしてやろう


しかし、私とシャルロッテとの邪魔をするなら直ぐ様、あの世に送るのを心待ちにする事にするのだった。








補足――作中書けそうもないのでネタをばらせば、オットーのいじめっ子説は間違いで、元帥閣下は、常日頃から人に心とは正反対の裏腹な言葉を言っているせいで、愛する相手にも無意識に裏腹な言葉を言ってしまう恐ろしい症状、しかも愛しすぎてテンパっているせいでその病状を悪化させている!! コメディーだから許される設定か??

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