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金曜日の晩、帰ろうとしたところで、サービス部の糸川から声をかけられた。
「長谷部さんも行くんですよね?一緒に行きましょうよ」
「飲み会?俺、参加って言ってないけど」
そこに女の子たちが通り掛った。
仕事が終わって遊びに出ようとする女の子たちは、やけに華やかだ。
「糸川君も長谷部さんも参加ですよねえ。先に行ってまーす」
「俺、参加になってる?」
驚いて聞き返すと、下田さんがにこにこしていた。
「わかんないって言ってたから、私が保留にしときました。お仕事終わったんなら、参加できますよね?」
わかんないってのは、婉曲な不参加表示のつもりだったんだけど。
「ちゃんと来てくださいね。私、長谷部さんと飲んだことないんですから」
そう言っただけで、女の子の集団の中に戻ってしまったのを、呆然と見送る。
参加になっちゃってるんなら、行かないのは幹事に申し訳ない。
糸川が待っていてくれるので、作業着から着替えることにする。
とは言っても、俺も糸川も営業みたいにスーツを着ているわけじゃなくて、オックスフォードシャツにスラックスだけど。
更衣室から出たら、今度は水元がそこの前を通るところだった。
「あれ?長谷部君も参加なんて、珍しいね。一緒に行くから、ちょっと待ってて」
そう言って女子更衣室の中に消えて、すぐに出てきた。
「今日のオーバーサーティは、私だけかと思ってたら、ちょっと心強くなった」
「え?あとみんな二十代?」
「そうよぉ。山口夫妻ははじめから不参加だし、津田君は打ち合わせ入っちゃったし、他の所帯持ちは最初から声掛けられてないしね」
三人で並んで歩いて居酒屋に向かう。
「良かったわ。私だけが長老じゃ、ちょっと居づらいもん。一次会で引き上げるつもりだけど」
水元の言葉で、俺も二次会までは付き合わなくて良いだろ、と思ったら、少し気分が楽になった。
「ところで、今日の会費いくら?」
「参加って言ったのに知らないの?」
水元が驚いて俺の顔を見上げた。
「それどころか、どこでやるかも知らない。俺、参加なんて言ってねーもん」
「俺、さっき下田さんから、長谷部さんが参加って聞いたんですけど」
糸川がそう言うと、水元は少し複雑な顔をした。
「下田さんが長谷部君を、参加させたかったってことかしらね」