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行灯の昼  作者: 蒲公英
行灯はやわらかに灯る
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5

「しないしないっ!後悔なんてするわけないっ!」

慌てて水元を抱えた。

早く言質をとってしまわないと、前言撤回されそうで怖い。

「一緒に住もうな」

小さく頷いた水元の身体から、力が抜ける。

「ありがとう」

言いたかった言葉は先を越され、一仕事終わった感覚が、俺を自由にする。

いいよな、了承してくれたんだよな?

俺の生活のこれからは、水元が共にあると思って、間違いじゃないんだよな?



三月に入ってすぐ、水元の家に挨拶に行った。

「落ち着いた穏やかそうな人で、今度は大丈夫ねって安心された」

水元が嬉しそうに言う。

ほっと一安心して、自分の実家に連絡を入れた。

『やっと結婚する気になったあ?離婚歴なんて、今時珍しくもない。いいから、連れてらっしゃい』

ものすごくアバウトな報告で、両親は了承したようだ。

子供の相手より、孫を見たいが優先しているらしい。

水元は別に、孫製造機じゃない。

行った時に、そこはきっちりと……言えれば良い、と思う。


決算期に待ちきれなくなった俺の両親が、いきなり上京してきた。

土曜出勤だった水元は、ビジネス用のパンツスーツのまま、しきりと恐縮する。

ホテルで食事なんて気の張る人たちじゃないし、予約の要らないレストランで夕食を摂って、その後喫茶店でお茶を飲んだだけだけど。

「この子、会社でもぼーっとして、迷惑掛けてるんじゃない?」

三十代半ばで、まだ「この子」なんだよな。

「長谷部君は穏やかで骨惜しみしないから、頼りにされてますよ。男の人にも女の子にも」

女の子はどうか知らないけど、男たちとの仲は悪くない。


「水元さんにもお世話かけると思うわ、昼行灯だから」

「お世話になるのは、私のほうですから」

会社に居るときとは違う緊張の仕方をしている水元に、両親は好感を抱いたみたいだ。

「お式は、どうするの」

いきなり俺に向き直られても、全然考えてなかった。

「気がつかなかったとか言うんじゃないでしょうね、この子は!」

呆れた顔のお袋が、水元に頭を下げた。

「忙しいでしょうけど、ゆっくり相談しましょう。抜け作に任せておいちゃダメ」

あんぽんたん、すかたん、唐変木、昼行灯、抜け作。全部俺のことか。

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