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「……やり直して」
「またあ?」
確か、前にもそんなことがあった気がする。
「こんな、なんか不意打ちみたいな、私が構える間もなく、仕事の話して、テレビついてるところで」
理路整然とした水元の、慌てっぷりが結構笑える。
「違う場所なら、返事するっていうの?」
「するわよっ!」
「どういう?」
「するってば!」
その「する」っていうのは、どっちにかかっているんだ?
大体、やり直しとか言ったって、何度も折られるのは御免蒙りたい。
逆に、良い返事なら何度だって聞いてやるってことだけど。
「やり直してもいいけど、先延ばしはイヤだなあ」
「今返事をしろと?」
「断られるために、リトライするバカがいるか」
どうだ、尤もな理屈だろう。
水元はまだ困った顔をしていて、とりあえず言い分があるらしい。
「結婚って、結構難しいよ?」
「水元は俺と結婚したこと、ないだろ」
前の男と較べられちゃ、かなわない。全然違うだろう。
「家同士も絡んでくるし、長谷部君は長男だし」
「同居するわけじゃなし、本人の確認が先になるものだろうが」
本人の意思確認する前に、家への報告を考えるのは、本末転倒だ。
「バツイチだなんて、お家の人がどう受け止め……」
「あーだこーだ言わないっ!」
いい加減、焦れてきた。とっとと結論を寄越せ。
「長谷部君が怒ったぁ」
唇を尖らせ、水元が俺を見る。
「自分でいきなり話をはじめて、思い通りの返事しないからって、怒ったぁ」
そうなのか?俺が勝手に急かしたのか?
「人のこと動揺させといて、落ち着くの待てないで、怒ったぁ」
ちょっと矢継ぎ早過ぎた……か?
口を噤んで次の言葉を待つと、水元はテレビに向き直った。
まだ唇は尖ったままだ。
「……ごめん。困らせようと思ったわけじゃ」
言いかけて、盛大に笑い出す声が聞こえた。
「さすが長谷部君だわ。そこで謝っちゃうんだ!」
笑い止まない水元の頭を、力任せに抱えた。
返事しないどころか、遊びやがって。