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「いきなりじゃないつもり、なんだけど」
テレビの方を向きっぱなしの水元の耳の色が、朱を帯びる。
「ねえ、テレビじゃなくてこっち見てよ」
腕を掴んだら、下を向きやがった。
「冗談じゃないんだから、ちゃんと考えてよ」
強めに声が出たら、蚊の泣くような返事が戻った。
「……勘弁して。恥ずかしくて死にそう」
勘弁ってのは一体何を勘弁するやら。
結婚しようって言葉への返事としては、いささか不穏当じゃないか。
「俺、なんかひとり相撲とってる?」
声が不機嫌になっちゃうのは、致し方ないことだと思う。
「水元もそう思ってくれてるんだと思ってたんだけど」
また返事がないので、顔を覗き込んだ。
掴んだ腕と逆側の水元の手が、俺のシャツの胸元を握る。
「やだ、そんなに矢継ぎ早に言うと、長谷部君じゃないみたいじゃない」
上がらない顔の横についてる耳は、真っ赤だ。
「こっち見て、水元」
水元の真意が知りたい。
「あんぽんたん」
「はい?」
ここに来て、その台詞の方が突拍子もないだろう。
「仕事頭になってる時にそんなこと言われたら、どう切り替えていいのか、わかんないじゃないっ!」
やっと上がった顔は、超動揺中。
水元でも、こんな顔するのか。
「すかたん!唐変木!」
そんなことを言いながら、まだシャツの胸元は握ったままだ。
「もしかして、照れてる?」
「もしかしなくても照れてるっ!」
おいおい、喧嘩腰で言うようなことか。
「で、どっち方向に向かってる?仕事頭と休日モード」
「今っ!今切り替えるっ!急に言い出す長谷部君が悪い!」
慌てた水元が面白いから、このままにしときたい気もするんだけど、結論が欲しい。
両手でこめかみを押さえて目を瞑る水元の顔は、まだ赤い。