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行灯の昼  作者: 蒲公英
行灯はやわらかに灯る
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1

あっという間に二月も半ばになり、冷え性の水元は休みの日に、外に出ない。

カウチの上で腰から下を毛布に包んで、両手でコーヒーの入ったマグを抱えてる。

「筋肉つけないから冷えるんだよ」

「寒いから動けないんだよぅ」

放っておくと一日中そうして居かねないので、外に出すために餌で釣る。

旨いラーメン屋に行こうとか、新しいシャツを買いたいとか言って(女の子は食べるためと買い物のための外出は、する)誤魔化しながら連れ出して、身体を使わせないと、ますます手足が冷えてしまう。

「意外と手がかかるな、水元」

「案外と世話焼きだね、長谷部君」

そんなやりとりが、楽しい。


なかなか結婚しようと言い出せず、金曜日の晩だけ泊まっていく水元を、土曜の晩に駅まで送る。

一度だけ、日曜日の朝まで居たけど。

水元が「ここに居たい」と言ってくれればいいのに。

でも、水元は言わない。一度結婚に失敗している水元は、それについて、ものすごく慎重で臆病だ。

休みの日にふたりで居るのが当然になっていても、水元の生活の基盤が水元の部屋にある以上、それ以上近くはなれない。

だから、俺から言い出さなくてはならないのだ。


三月に入ってしまえば、年度末の処理で水元は、また忙しくなる。

「来月後半はちょっと、土曜日がアヤシイなあ……来年度は正社員、もう一人増やしてくれって言ったんだけどなあ」

「来年度の入社、何人?」

「四人。男二、女二。企画も女の子入れたいみたいだし、経理は安定しちゃってるから、無理かなあ」

安定してるのは、水元が頑張っちゃっているからなのだが、手を抜けとは言えない。

時々浮腫んだ顔をした野口さんが残業しているのを見ると、水元がこんな風に無理をするのはいやだなあと思う。

山口に言わせれば、「あれが野口ですもん。その分家で休ませますよ」なんだけど。


たとえば、水元がヘタっている姿を見ることができれば。

そうすれば、家で休ませたって実感は湧くのかも知れない。

そう考えると、対象が一緒に生活している山口が、心底羨ましい。

横に座ってテレビを眺めている水元の顔は、会社に居る時よりも幼い。

「……結婚しよ」

「何?いきなり」

いきなりじゃないってば。

「水元と結婚したい」

「なんで今年の新入社員の話から、それになるのぉ?」

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