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会社員の夜は短い。
遅くまで起きていれば翌日の仕事が辛いし、辛いからと休めば信用度は下がる。
水元の冷たい足が、布団の中で俺の足に触れる。
それがどんなに幸福なことか、想像もできなかった頃とは違う。
朝起きぬけの、少しだけあどけない表情の水元が、インスタントコーヒーに湯を注ぐ。
「さて、行こうか」
アパートの鍵を掛けて一緒に駅まで歩くと、水元の肩がいつもより近い気がする。
ラッシュの電車でぎゅうぎゅう押されて、もみくちゃになりながら会社に着いた。
ロッカールームの入口で右左に分かれると、日常が開始する。
満足した夜に続いた朝、自分の中に力が満ちているのを感じた。
そうか。これが欲しくて、生活を共にするんだ。
ひとりだけの生活は、ひとり分の満足で、気兼ねはなくてそれなりに楽しい。
好きな女とベタベタしているのは確かに楽しいけど、いつまでもそれだけじゃ居られない。
今朝の水元は、穏やかな顔をしていた。
俺が望んでいるのは、それがこれからもずっと続いていくこと。
水元も同じだといい。
結婚しよ、水元。
今度、必ずそう言う。
昨晩感じた「手に入った」って確信を、手掛かりに。
剥き出しの感情と生活観を、ちゃんと摺り合わせしよう。
水元のトラウマや俺の鈍くささへの批判も、見せてくれて構わないから、俺のまだるっこしい感情も、受け止めてくれよ。
上手く言えるかどうか言ってみないとわからないけど、ちゃんと目を見て言う。
だから結婚しよう、水元。