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行灯の昼  作者: 蒲公英
外からの風
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1

「生田ぁ。流通管理が、与信オーバーで売上計上できないって言ってるぞぉ」

「いや、一昨日の現金入金で、出荷できる筈だけど。入金してくれてないのかなあ」

「経理が入金処理忘れてんじゃないかぁ?水元さんに聞いてみろよ」

こんなやりとりの後に、名前を呼ばれるのは俺だ。

水元に内線で確認を頼んだ後、自分の仕事のためにモニタと睨めっこしていた。


しばらくしたら、パーテーションの影から、水元がひょっこり顔を出した。

「さっき連絡貰った物件、誰の?」

生田さんの物件だと教えると、ちょっと眉間に皺を寄せてから、覚悟を決めたように中に入って来る。

そして、入金処理ミスを報告し始めた。

「何やってんだよ!今日の出荷があるから、現金入金で頼んだのに!経理がいい加減な仕事して、現場に皺寄せが来るんじゃ、会社はガタガタじゃねえか!」

ここぞとばかりに言い募る生田さんに、口答えせずに頭を下げる水元は、痛々しい。

大体ベテランの水元が、そんな初歩的なミスをするわけがない……と、思ったのは、俺だけって訳でもない。


「まあまあ、水元さんにそんなに怒ったって仕方ないだろ。本人が処理したわけじゃないだろうし」

課長が割って入らなければ、生田さんの文句は延々続いたろう。

「でしょ?派遣さんが処理したんじゃないの?」

「でも、私が責任者ですから。任せないで、最終チェックすれば良かったんです」

最敬礼する水元に、生田さんがまだ噛み付いた。

「処理した当人に連れて来いよ!派遣だからって無責任なことすんなって言ってやるから!」

「そこまでにしとけよ。水元さんが頭下げてる意味、なくなるだろ」


何度もぺこぺこ頭を下げて、水元は自分のブースに戻っていった。

間接部門は地味なのに、「間違いがなくて当然」と思われやすい。

実際、経理が間違いだらけじゃ、会社は立ち行かないけど。

俺も現場じゃあ責任者だし(っていっても、設備施工部は平均年齢が高い)、他部署の若手を指導する立場にはいるけど、派遣社員を上手に使えるかっていうと、ちょっと自信はない。

まだぶつくさ言いながら、流通がOKになった生田さんは安全帯をがちゃがちゃ言わせて出掛けて行った。



「長谷部さん。生田さん、すっごく怖かったですね」

給湯室でマグにコーヒーを入れたとき、後ろから下田さんに話しかけられた。

「あれ、私が入金先のマスタを間違えて入力したんです。水元さんに悪いことしちゃって」

ああやっぱり、と思ったのは、今まであんなミスはなかったからだ。

「長谷部さんの物件なら、自分で謝りに行こうと思ったんですけど、生田さんじゃ怖いんだもん」

水元なら怖いと思わないとでも、言うんだろうか。


無言で給湯室を出ようとしたら、もう一度声を掛けられた。

「今週の飲み会、長谷部さんも参加するんですよね?」

「わかんないなあ。多分、出ないと思うけど」

「何でですかあ?忙しくても来てくださいよ。私、長谷部さんとお話したい」

調子良いこと言われたって、ずいぶん懲りてるんだってば。

それが自分の交友層を薄くしてるのは、わかってるけど。

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