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行灯の昼  作者: 蒲公英
今、手に入った
68/77

3

「病気と妊娠は違うだろうがよ。子供作るの前提で結婚するんなら、できてからの責任考えろっての」

「野口さんが無責任なことしてるみたいじゃないですか」

我ながら、ここでムキになることはないと思う。

今までなら聞こえないフリをしていたのに、これが水元に向けられた言葉だったらと思うと、止まらない。

「無責任だろ。つわりくらいで休んで」

「くらいって言葉使えないほど、ひどいって考えられないんですか」

「うちの母ちゃん、寝込んだりしなかったぞ」


生田さんは確かに、目の前に妊婦がいるのかも知れない。

だけど個人差ってものはあるだろうし、あの野口さんが無責任だとは到底思えない。

開発営業部の面々だって、彼女の能力と責任感を認めてるからこそ、頼り切っているのだ。

「あーあ。いいよな、女は。休める言い訳がいっぱいあって」

捨て台詞みたいな言葉に、自分の中でことりと箍が外れた。


「生田さんも、言い訳いっぱい作って休めば?」

誰の台詞だ、これ。社内でこんな風に、喧嘩腰にモノを言ったことがあっただろうか。

「最初の子供が生まれたとき、生田さんは現場休んで付き添ったよね。誰か文句言いました?」

おお、思いの他滑らかに出る言葉。

「そりゃ、俺が普段真面目に仕事して……」

「野口さんも普段から真面目に仕事してます。それに生田さん、去年インフルエンザの予防接種受けないで、何日も休みましたよね。あれこそ無責任じゃありませんか?」

生田さんの顔は、みるみる真っ赤になった。


「なんだおまえっ!水元さんとつきあってるくせに、野口さんに惚れてんのかっ!」

声が大きくなって、まわりの人間が少し警戒し始めた。

生田さんだって、社内で殴りかかるほどバカじゃない。

「……野口さんは山口の奥さんでしょうが。俺は自分が思ったことを言ったまでですよ」

意識の摺り合わせをする必要はない。

だけど、黙っていることで同意していると思われるのは、ごめんだ。


「はいはい、そこまで。会社の中で喧嘩しても仕方ないだろ。生田の言い分はわからなくもないけど、長谷部が言い返すのは珍しいな」

真ん中を部長が突っ切り、生田さんは思いっきり不機嫌な顔で後ろを向いた。

気がつくとパーテーションの隙間から何人も覗いている。

やっちゃった気分でモニタを立ち上げ、部長に頭を下げた。

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