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行灯の昼  作者: 蒲公英
タイミングの問題
65/77

8

聞き流したのか聞こえないフリなのか、水元の返事はなかった。

だから、もう一度繰り返す。

「来年は、一緒に行こうな」

また返事がないので、ちょっと強めに出た。

「返事は!」

「はいっ!」

反射的にはっきりした声が出るあたり、水元も結構素直なんだよな。

だけど、表情には迷いがある。

怯えは、過去の経験が物を言う。

あったであろう激しい諍いや、身を揉む嫉妬や憎しみは、あの頃のやつれた水元を思い出せば、容易に想像ができる。

俺とだって、それはありえないことじゃない。


捨ててしまえとは、言えないのだ。それを内包し、今の水元がある。

ただ、俺に少しだけ期待を抱いてくれるのなら、「俺はその水元の顔すら、見たい」そう言える。

だから、警戒なんてしないでくれ。

守ってやる力はなくとも、守ろうとする努力はするから。


休み続きで身体の緊張のない水元が、カウチでのんびりとテレビを眺めてる。

隣に座る俺は、缶ビール片手にポテトチップスなんかつまんでる。

これが幸せだと思っているのは、俺だけじゃないよな?

それを口に出す気はないけど、水元のその顔は、満ち足りているんだよな?

「恋」とか「愛」とかって言葉は、自分には使いこなせない。

俺が言いたいのは、こんな時間を長く続けたいってことだけ。


一緒に布団に包まって、水元が使う石鹸の花の香りを、腕の中に収める。

ただ待っていれば、いつか一緒に生活できるんだろうか。

「結婚は勢いとタイミング」と、誰かが言っていた。

タイミングを計る時計は、どこにも見当たらない。


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