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年末の駆け込み工事と、経理の前倒し処理が同時に来る。
帰り時間もバラバラ、週末の予定が組めない。
唯一共通できる日曜日に、お互い一週間分の家事を済ませてから会う感じ。
いや、会社で顔を合わせちゃいるんだけどね。
それとこれとは話が別っていうか、見える表情が違うんだな。
「泊まっていかないの?」
帰り支度をはじめた水元の背中に、声を掛ける。
「明日、仕事だもん」
「ここから行けばいいじゃん」
外は寒いし、暗くてひとりの部屋に帰る必要はないんじゃないか。
「うん、やっぱり仕事の日は、自分の部屋からじゃないと落ち着かないのよ」
駄々をこねるわけにも行かないし、水元の生活の基盤が水元の部屋だってのは理解してる。
ここに居て欲しいっていうのは、俺だけの感情なんだろうか。
手を繋いで駅まで送る道で、また来週かと呟く。
「一緒に住まないか」
自分では、突拍子もない提案ではなかった。
こうなった期間は短くとも、その前から水元は、ずっと近くに居たのだ。
そして、これからもっと近くに居て欲しい。
水元も同じ気持ちだと思っていた。
「長谷部君、一緒に生活するって、どういうことかわかる?」
立ち止まった水元の顔は真剣で、こちらを向けと言わんばかりだ。
「剥き出しの感情と生活観を持ち寄ることなんだよ。週に一度泊まるのとは、違うんだよ」
そんなことを、考えたことはなかった。
俺は余程慌てた顔をしていたのだろう。水元の表情は、ちょっと緩む。
「ありがとう。本当は、すごく嬉しいの。強く言って、ごめん」
そして俺の手をぎゅっと握って、駅までの道をまた歩き始めた。
改札で手を振った後、水元の言葉が頭の中にこだまする。
水元は俺に、剥き出しの感情を見せたくないのか。
それとも、見せることで何かが起こると、怯えているんだろうか。