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水元はとても冷え性で、一度冷えてしまうと、風呂にでも入らない限り回復しない。
布団の中で、冷たい足を俺の足に挟みこむ。
「あったかーい。人間湯たんぽー」
「普段、どうしてんの?」
「人間じゃなくて、スタンダードな湯たんぽ」
「やっぱりババアだ」
水元の部屋には、まだ行ったことがない。
俺の部屋に来るようになってから、泊まった後に駅まで送るだけだから、行く機会がないのだ。
几帳面だから、部屋の中も片付いてるんだろうなと思うけど。
月末締めのバタバタで、金曜日の晩、水元は遅くまで残業をしていた。
俺が先に帰宅して、待っているところに電話が入る。
『ごめん、ヘトヘトのヘロヘロ。今日は自分の家に帰る』
「なんだよ、待ってたのに」
『家で、長風呂する。身体中ぎっしぎし』
また鉄板みたいな肩になってるのかも知れない。
俺の家で長風呂しても、構わないのに。
「じゃあ、俺がそっちに行っていい?」
ふっと思いついて、そう言ってみた。
『えー?狭いよ?明日にしようよ』
そう言われた瞬間、是非とも行ってみたくなる。
「何?俺が行ったら都合が悪いわけ?」
『そういう言い方するー。お風呂、一時間は入ってるよぉ』
「じゃ、時間見計らって行く」
何か言いたそうだったけど、ちゃんとした反論がないので、そう決定する。
見たいじゃないか、どんな場所で寝起きしているのか。
小一時間してから、電車に乗ると十時半。
手ぶらって格好つかないかなと思っても、もう何も売ってない時間だ。
途中にコンビニがあったから、シュークリームでも買っていこうかなんて、かなり浮かれ気味で歩く。
薄紙を一枚一枚剥いでいくみたいに、水元の生活が、自分とリンクしていく。
毎日会社で顔を合わせているのに、全然わかっていなかったことが、どんどん見えてくる。
そして、最後は生活を重ねて行きたい。
結婚しよ、水元。
俺の口は、そんな風に軽く動かない。