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「なんかねー、大人のホーヨーリョクとか言ってたよー」
水元が俺の顔を見て言う。
「誰が、誰を?」
「やーだ。下田さんが長谷部君を、よ。生田さんにぎゃあぎゃあ怒られて、派遣元にまで苦情が行って、自分はまずいことをしたらしいって自覚したとこで、なんか優しい事言ったんじゃないの?」
「いや、特に言ってないと思うけど」
あれが優しいと思えるんなら、ひどい誤解だ。
俺は話を長引かせたくなかっただけだし、彼女自体が派遣解除になっても、実はなんとも思わないと思う。
「長谷部さんは確かに、安心感ありますよね」
ストレートな津田は、お世辞は言えないから、外からはそう見えているのかも知れない。
「ああ、そうそう。困った時の長谷部さん頼み、とか、あるもんなあ」
山口まで合わせる。
同じ会社に困ったヤツが居れば、助けてやりたいと思うのは、俺が甘いんだろうか。
「長谷部君、愛されてるねえ」
水元が笑う。
「おっさんになりかけた男に愛されても、大して嬉しくない」
「あたし、不思議なのよねえ」
野口さんが唐突に俺に向かって言った。
「長谷部さんって、優しいし真面目だし、結婚するには良いタイプなのに、なんで独身なの?女の子の好み、うるさいの?」
顔面と頭の良い男と結婚した人に、そんなこと言われたって困る。
そう言ってくれるなら、野口さんが俺に惚れてくれたら文句はなかったのに。
「派手にアピールする部分が少ないから、気付かれ難いんじゃない?」
水元はウーロン茶なので、結構冷静だ。
俺が何故結婚してないのかの分析なんて、要らないんだってば。
考えてみれば、山口も津田も社内恋愛で、こいつらこそ社外でいくらでも恋愛できそうなのに、近いところで探したもんだ。
水元の離婚した相手は、確か取引先の男だった。
梅割の梅を焼酎の中で潰してみる。
明日の休みは、多分テレビ見て、終わりだ。